第1話『大人になれない少年少女たち(Ⅰ)』

 彼──“神野悠斗”は、SF小説が好きである。

 その中でも特に面白いと思ったのは、やはり架空の国である“日本国”だろうか。

 

 何でも日本国という国は、その世界の中でもトップクラスに幸福度は低いらしい。

 仕事内では、規定範囲外の残業時間に加えて、その賃金が払われない。その上、無理難題やイジメなどを行ってくる悪質な上司。別に、そこで働く社員なんて畑から勝手に生えてくると思っている経営陣などなど。

 また、家庭内でも問題を抱えているみたいだ。

 社会的に何も学ばなかった弱き両親や、犯罪など何をしても許されるであろう皇帝めいた子供ガキ共。そんな彼彼女等を糾弾する、自称正義のミカタたち。

 正直言って、まだまだ語り足りないのだが、今日はこの辺にでもしておこう。


 しかし、悠斗たちが過ごしているこの国は違う。

 “”と──。

 他人を助ける事を美徳とし、それに応じた対価を得る事ができる。何処かのニュースか新聞で見た話だが、生死の間を彷徨う人を助けたその男性は、多額の褒賞金を政府から貰ったみたいだ。

 だが反面、他人に対して悪い事をしり迷惑を掛けた際には、それ相応の刑罰を受ける事になっている。


 ──人を殺した際には、『人と触れ合う事の出来ない罰』など。


 ──人を故意に騙せば、『人と会話出来ない罰』など。


 随分と軽い罰だと思うかもしれないが、これはあくまでも日本国で言う“執行猶予”みたいなものだ。

 罰──“義務”と呼ばれるものだが、その期間内に改善したと判断されれば、その人たちの負っている“義務”は解除される。晴れて、普通の生活を送る事ができる健常者という訳だ。

 だが、その見込みがないと判断された場合、所謂強制収容所と畏怖されている場所で、再教育をされるのだ。

 そして、強制収容所と呼ばれる場所は、本当に恐ろしいところである。基本的に、その施設に入った人には基本的人権の全てがなく、その生死すらそこで教育を行っている執行官と呼ばれる人たちに握られている。手足の欠損をした人や処分された人たちまでいたそうだ。


「──でも、本当に日本国っていうのは変わってるよな。まぁ、架空上の国だから、そんなもんだと思うけど」


 だが、悠斗の面白いと思った日本国では、SFものながらかなり違うらしい──。

 基本的に、何かの罪を犯した者は、刑務所と呼ばれる施設にぶち込まれる。

 殺人者から痴漢まで。果ては、無実の罪で刑罰を言い渡された、所謂冤罪者の類と色々いるみたい。

 その上で日本国は、その形式上犯罪者たちを、一緒の刑務所に入れるそうだ。千差万別と言うよりも闇鍋過ぎる話だが、その国ではそれが普通らしい。

 ちなみ更に面白い事に、スピード違反などは、反省文を書かされるか、国にお金

を払えばいい。そこは、悠たちが住んでいるこの国と、特に変わりはないみたいだ。


「──まぁそれで更生するのかと言ったら、何とも答えずらい事この上ないな。……俺たちも含めて」


 人殺しが、刑務所と呼ばれるところにぶち込まれて刑期と呼ばれる期間を終えるか。


 人殺しが、『人と触れ合えない義務』を負って日々を過ごすのか。


 どちらが世の中──ひいては、そこで住む人々にとって良いものなのかは、正直なところ何も分からない。

 遺伝子上の犯罪傾向や、犯罪原因論や犯罪機会論による犯罪学。果ては、お上の攻防や利権による、意味不明な主張。

 それらによって制定された法律を、悠斗たちはただ何となく従っている。



「──だからこそ、

 

 

 ♦♢♦♢



「──儂は、全知の“”である!」

「……──あー。この年代ならよくある事だし。まぁ、後から若気の至りと悔やむかもしれんけど」

「何を言うか!? 儂は全知の“神”なのじゃぞ! 敬え“人間共”よっ!!」


 それは、夏の暑い日の出来事だった──。

 で上京してきた悠斗は、先ほどまで乗っていた新幹線を降りて、その駅の改札口を潜り抜けた。

 “神々廻市”──。

 さっきは冷房の効いた新幹線の中から、直射日光を避ける事ができる駅構内。

 しかし、そんな現世と幽世の狭間な駅の入り口を抜けた先は、正真正銘地獄が広がっていた。──現在気温38℃。熱中症対策でもしなければ、十分死ねるほどの暑さだった。



 そんな時だった──。



 駅の前の広間にて、一人の少女がいた。

 背丈や体の発達具合から、おそらく10代前半の少女。この熱中症になりそうな暑さの中、その紫色の髪と分厚い制服めいた服装は、何の拷問かと疑うほどだ。

 だが、当の悠斗がそちらに意識を向けたのは、彼女のそのだった。

 そもそも、子供を一人で置いておくと、その子供の年代によっては罪にもなり得る行為だ。それを、良い歳こいた両親──いや父親母親どちらでも良いが、知って当たり前のものだろう。



「──見つけた」



 一瞬、辺りが静まり返ったかのように、その紫色の髪をした少女は、何故か初対面である筈の悠の元へと走り寄ってきた。

 その表情は、まるで両親どちらかを見つけた時の子供みたいにキラキラとしていて、正直当の悠斗は少しだけ引き気味に顔を青くする。


「──やはり、儂の目──いや、儂の頭脳に狂いはなかった! 流石は儂じゃ!」

「それで、両親とか一体何処にいるんだ?」

「儂を誰だと思っている!? 儂は全知の“神”なのじゃぞ! 

「これは、児童相談所案件かな。それで、全知の神様とやらの名前は?」

「──儂の名前は、“佐藤カフカじゃ」

「鈴木さんか。俺の名前は、神野悠斗だ。よろしくな」



「──あ゛ー! 言ってしまった! 折角の名乗りじゃのに~!? なぞつまらぬ名前にしおって。恨むぞ、儂の先祖ぅ!」



 と、こんな感じのやり取りを悠とカフカは繰り広げていた。

 勿論、悠斗は用事があって態々神々廻市に来て、そしてこの後その用事が立て込んでいる訳だ。しかもその用事は、遅刻や欠席を許されるようなどうでも良い事ではなく、


「(──でもなー。コイツをこのまま置いて行く、訳にはいかないよな……)」


 そんな、一秒は言い過ぎかもしれないが、一分は貴重である当の悠であるが、目の前の幼い姿のカフカを置いて行くという選択肢は存在していない。

 別にこれは、当の悠が所謂お人よしという訳ではない──。

 確かにこの国の法律の中には、人を助ける事を美徳としている部分が何節が存在している。流石に、人助けをしなくて一発アウトな一節は存在していないが、それでも他者からの印象が悪くなったりする。


「(──それより、も気になるしな)」


 特に、から、悪印象を抱かれる訳にはいかない。

 最悪、目の前で何やらぎゃぁぎゃぁ騒いでる当のカフカが、という可能性もある訳で。

 色々と可能性が思い浮かぶばかりで、結局のところ当の悠は結論を出せずにいた。


「……──そう言えば。さっき俺を見つけた時、『見つけた』とか『儂の頭脳に狂いはなかった』とか言ってたが。一体俺に何の用なんだ?」

「おー、そうじゃったの! のじゃった!」


 “それを言いに、お主に会いに来た”──。

 正直、カフカとの会話を引き延ばして、試験官かただの迷子の子供かを判別するためだけの質問だった。

 前者であれば適切な対処をして、後者ならば適当に警察に電話を掛けていた。

 だが、そのカフカの次の言葉は、悠にとってであった。



「──。」



「精々、神々による幕引き《デウスエクスマキナ》の日まで、有意義で後悔などせぬ学校生活とやらを送るが良い。」



「──神様からの有難ーい神宣じゃぞ」



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 お疲れ様です。

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カタルシス終末少女症と幸福を謳う日々 ~君たちはどう生き、どう赦されるのか~ 津舞庵カプチーノ @yukimn

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