会話

 やがて、モーテルの前でバイクを降りたアロウは、ライダースーツ代わりともなっている簡易宇宙服を脱ぎ、その下に着込んだ私服姿となった。


 そして、宇宙服をシート下へ収めると共に、モーテル内へ。まるで過去の西部劇にでも出てきそうな、そんなレトロなカフェバーとなっている1階部分の中、奥のカウンターへと進む。


「らっしゃい。休憩かね、泊まりかね」


「とりあえず休憩で。それからコーヒーを」


 カウンターの向こうに佇む初老のダンディ、すなわち当店のマスターに告げる傍ら、アロウが6つ並んだ椅子のうちのひとつに腰掛ける。


 他に客の姿はない。このカウンターにも、また脇に置かれた計3つの丸テーブルにも。


「旅行かね…それとも移住者かな」 


 さっそく湯を沸かしながら、その気の良さげな細身の初老が、あらためて口を開く。

 

「いや、なんとも言えない…かな。マスターはもう長いのかい」


 理由・・を誤魔化すよう、逆にアロウが問う。


「んにゃ、まださほど経っておらんよ。はるばる地球からやってきて…っと、余計なことだったな。あいや、齢のせいか最近、ついいらぬことを口走ってしまうわい」

 

「地球から…」


 と、ただ呟くように返したつもりが、それがマスターには、さらなる問い掛けに聞こえたようだ。


「ああ、まあ色々とあってな。祖国から追い出された挙げ句、逃げるようにここへ…っと、また余計なことを…」


 コーヒーの用意をしつつ、マスターが苦笑を浮かべる。


「祖国から追い…いや、なんだか訳ありだね。よかったら聞かせてもらってもいいかな」


 自身も生まれ育った火星のリィツ・・・・・・を離れ、こうして逃亡生活に入った身のせいか、その初老の『祖国』という言葉に惹かれたらしい。アロウがそう求めた。


「あ…そうかい。なら、まあ…飲みながら聞いておくれ」


 結局は話したい様子。またも苦笑の後、やがてマスターが湯気の立つカップをアロウの前に。同じくして彼は、求められるがままに語り始めた。

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逃亡者アロウ Hiroe@七七七男姉 @138148

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