懸念

 その後、娘のマリア=リサが退室してからも、ラダンは一人デスクに着いたまま、あらためて考えていた。


 軍上層部には、自身とアロウとの関係を知る者もいる。となれば、もう10日ほども経っている事だし、やはり自分も、すでに監視されていると思っていいだろう…と。


 その懸念からラダンは、先程あのような『筆記』によって娘を制したのである。


 一方、確かに軍上層部は、ラダンの懸念通り、すでに同軍内偵機関を使って、ここ1週間ほど彼を監視していた。


 身を隠すにアロウが、ラダンを頼って、密かに彼と連絡を取るのでは、という予測の下に。


 実は、アロウ逃亡の報をラダンの耳に入れるのが遅れた…もとい、遅らせたのも、しばしラダンの動向を窺うべく、同上層部が仕組んだ事だったのだ。


「ファロウ(アロウの父)よ…お前の息子は何を考えているのか…」

 


 

 ラダンの執務室を出てまもなく、なお動揺したままマリア=リサは、本基地の地下は、そこに与えられている自室へと入った。


 ちなみに、先の戦闘によるケガはなかったが、機体の方は修理が必要とあって、さしあたり本日の再出撃はない。


 よって、その動揺を鎮める時間が少しはありそうだ。 


 否、いっそ再出撃した方が、かえって気持ちを切り替えるのに役立ったかも知れない。


 ともあれ、このワンルームの中、しばし呆然とソファにもたれていたマリア=リサだったが、やがてフッと一息つくと共にシャワールームへ。


 そして、それからしばらく後…バスタオル1枚の姿で再び部屋に戻った18歳の肉体は、シャワーの湯を受け、一層その輝きを増したように見えた。


 が、それとは対照的に、


「…おじ様…いったい何があったというの…」


 いまマリア=リサの心は、まるで嵐の前の空模様のように、どんよりと曇っていた。

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