第10話 トリック


バカげた嘘八百。だが、話し上手もあって、令息令嬢たちには大いに受けている。声を上げて笑ったり、突っ込みを入れたりする者さえいる。その話が最高潮に達しようとした時、会場が凍りついた。


どっと憲兵隊が流れ込んで来た。


多くの令息令嬢の間を縫い、ハリスン・パッカー公を先頭にぞくぞくと憲兵隊がカーティス・ゴードンへと向かう。瞬く間にカーティス・ゴードンは囲まれてしまった。


カーティス・ゴードンは何が何だか分からないようだった。パッカー公を大きな声でののしっている。パッカー公はというと、聞く耳を持たない。粛々とカーティス・ゴードンとその息子ジュードを連行し、会場をあとにした。


憲兵隊が去ると会場は騒然となった。みな、全く意味が分からない。集まって話し合いを始める者。出口に向かって走る者。会場の中を行ったり来たりする者。私たちは隅でそれを見ていた。


「どういうトリックを使ったんだい、君は」


私はふふふっと笑った。


「だから言ったでしょ。殺し屋はハリスン・パッカー公に事情を話して引き渡したって」

「だから、それがなぜこうなるんだって僕は聞いているんだ」


「私たちは慈善事業で貧しい人たちにほどこしをしてた。そこに殺し屋が現れて私たちを襲った。つまり、私たちが命を狙われた。誰に狙われた?」


ああって顔を、アレクシスがした。


「僕はウォルトンで、君はバニスター。貴族殺しは大罪。しかも、殺し屋の雇い主はカーティス・ゴードン。これはただの犯罪ではない。現体制に対する挑戦にも等しい」


「そういうこと」

「だから、憲兵か」


アレクシスの顔は晴れ晴れしかった。あれだけ私をいさめておいて内心は世のことわりに我慢がならなかった。まるでたまっていた鬱憤うっぷんがどこかに吹っ飛んで行ったかのようだった。


「君はすばらしい。僕にはもったいない女性だ。僕はずっと君のために生きるよ。そして、君と釣り合いが取れるよう、もっといい男になる」


はぁ? ってなった。この人は一体どういう目でいつも私を見ているのかしら。私が不安になるぐらいあなたはもう十分いい男なんですけど。


アレクシスがそっと私を抱いた。その顔が私の目の前に。


「今夜も君は綺麗だ」


ぷっ、てふいてしまった。あなたこそ、いっつもすっごくかっこいい。


「ソニア、愛している」


アレクシス、私も。


私はアレクシスの頬を包むように手で触れた。そして、アレクシスの唇に私の唇を重ねる。私たちは令息令嬢たちの混乱の中、いつまでも唇を交わしていた。






               《 了 》

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婚約破棄された令嬢を御見送りして、さぁ、私たちは婚約破棄パーティーの続きを楽しみましょ。最後にざまぁをご用意しておりますので 悟房 勢 @so6itscd

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