夕焼けをあなたと

紫吹 橙

夕焼けをあなたと

 私は、みんなが帰った美術室にただ一人いる。

 誰に指図されたわけでもなく、自分がそうしたいからだ。

 なぜ、私がそう思うのか、その理由はグラウンドを見ればわかる。


 サッカーボールを楽しそうに蹴る彼がいるのだ。

 サッカー部はとっくに帰っているのに、彼だけはいつも残って練習をしている。

 私はそんな彼を見るのが大好きだ。


 誰にも言ったことはないけれど。

 言うことはないだろうけど。


 彼のその姿を写したくて私はキャンバスに絵を描く。

 誰かに気づかれてしまうから、描いたらすぐに消すけれど。

 この時間は誰にも消せないから。


 さて、そろそろ帰ろうかな。

 私は荷物を持って立った。


 美術室を出て下駄箱に向かって、外ぐつに履き替えて外に出た。


 学校の坂の左側にあるグラウンドをもう一度見た。

 彼はもういなかった。


 帰ったんだな、と思って進もうとした。

 その時、こちら側に走ってくる音がした。


若菜わかな!一緒に帰ろうぜ!」


 彼だった。

 彼は私のことを気にかけていないと、そう思っていたのに。

 同じクラスなだけだと思っていたのに。


橋下はしもとくん?良いけど、どうして?」

「前から話してみたいと思ってたんだ!若菜が描いた絵がさ、飾られてんの見て色使いがキレイだなって!」


 見てくれてたんだ…

 誰も見てないと思ってた…

 こういうところも好きなんだ。


「ありがとう。私も橋下くんのボール捌きすごいと思ってるよ。」

「見てくれてたのか?ありがとな!」


 彼の笑顔は眩しい。

 顔が赤くなってしまう。


 それから他愛のない話を続けた。

 そして分かれ道に出た。


「じゃあ、俺こっちだから!

 また一緒に帰ろうな、若菜!」

「う、うん。また…」


 彼に控えめに手を振る。

 顔が赤くなっているのはバレなかっただろうか。

 いや、この夕日で隠せていたら良い。


 明日にはこの景色をキャンバスに描こう。

 彼に気づかれたら、告白をしよう。


 これは、私の決意だー

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