第2話 前の人

「イヤ、かな?」


アイザが切ない表情で訊いてくる。


「イヤとかそういうんじゃないけどさ」


アイザは1歩俺へと歩み寄る。

反射的に俺は1歩後ろへ退く。

アイザはその赤いドレスの後ろで手を組み、俺を上目遣いで見上げ言う。


「別に、ここに留まることでレンに不利益なことないと思うんだけどな...」

「ど、どうしてだ?」

「...レン、外に出たとしても、どうするの?」


目を細め俺をまじまじと見つめるアイザ。

確かに、そうかもしれない。

よくわからない世界に来た。そしてよく分からない王女らに出会った。でも少なくともここに居る人達は俺に危害を加えるようなことをしないと、そう思えた。

例えこの屋敷の中がこんなに和んでいても、この敷地外がどうなっているかは想像もつかない。

盗賊や、もしかすると魔物とか襲われてしまうとか、そういう線もあったりする。

俺自身この人達を完全に信用できてる訳じゃないが、それよりも信じれないのは外の世界。だが、この中に篭っていても、この世界の全てについては知ることが出来ない。俺はここで暮らす上ではここについて詳しく知っておく必要があると考えている。

アイザと共にここで暮らすか。

それとも、我が身を危険に晒しながら外の世界を知るか。

葛藤。

こんなにじっくりと考え事をしたのは初めてかもしれない。


「どうするの〜?」


アイザが再び訊く。激しい葛藤の末、俺が出した答えはこんなものだった。


「....分かった、じゃぁここで暮らして行こうと思うよ」

「やった!」


俺の返答に満足が言ったようで喜ぶアイザ。


「ただし」

俺は人差し指を彼女に突き立てる。


「俺の身の安全を確保して、保護して欲しい。そして出来ればだが、護衛やらなんでもつけていいから俺に外出する許可をくれ」


俺のその言葉に彼女は少し考える素振りを見せると、


「それじゃ、レンのその条件は飲むよ。有力なメイドちゃんのカティをそばに置いて、外出する時も同行させることになるけどそれでもいいかな?」

「カティ...?誰だその子?」


初めて聞く名前について言及する。


「あ、まだ会ってなかったんだ。えーとね、カティって子はね」


アイザは両手を胸前に出すと叩く。

パァンと、広い部屋に響いた。その余韻が消えるより先にアイザの隣に火の粉のような赤い光が集まり、次第に人間の姿を形成していった。


「お久しぶりですアイザ様。お初目にかかります、レン様」


アイザの横に現れたのは1人の少女。

年はアイザより少し上のようだが俺よりは低いようだ。背は俺とアイザのちょうど中間ほどで、幼さも大人っぽさも感じさせる顔つきに、黒白のメイド服に身を包む赤髪の少女。その少女の黒と透き通るような黄色のオッドアイは俺に向けられ、


「レン様、今日からレン様のメイドを務めさせていただきます、カティ・ムルジスト・フィリアです。気軽にカティとお呼びください。私は常にレン様のそばに居ますので何か困ったことがあればお聞きください」

「あ、あぁ、分かったよ。カティ、これからよろしくな」

「はい!こちらこそよろしくお願いします、レン様」

「...やっと異世界感が出てきたような気がするな」


テレポートと言うべきなのか、召喚と言うべきなのか。よく分からないが、魔法を目の当たりに出来たのは結構嬉しかったりする。


「どう?カティは気に入った?」

「ん?あぁ、まぁ気に入った...ってか物みたいに言うなよ」

「ふふっ、ごめんごめん」


手を合わせ舌を出して謝るアイザ。その姿がどことなく可愛らしく感じた。


「え?私の事可愛いって思ってくれたの?ありがとだよ、レン!」


そう言ってアイザが抱きついてくる。俺は驚きのあまり彼女を引き離しながら


「え、ちょ、なんで今可愛いって思ったって...」


確かに俺はそう思った。が、口外してないはずだ。


「私、こう見えても魔界王女様なんだよ?人間の心読むことなんか君の息の根を止めるのと同じくらい簡単なことだね〜」


しれっと怖いことを言うアイザ。


「待て待て、お前が凄いのは分かったが例えがおかしくないか?」

「事実だよ」


 きっぱりと言い切るアイザの顔には微かな笑みが伺えた。からかわれていたのか...。

そういえば、文字について聞くの忘れてたな。


「そうだ、アイザ、この世界の本って無いか?」

「本?どうして急に本なんか?」

「少し気になってな」

「....なるほどね、分かったよ、ならこれでもどうぞ」


そう言ってアイザが人差し指を一振すると、部屋の右奥にあった本棚から赤い太い本が飛び出し、俺の手元に浮いてきた。

楽だな、こんなの使えたら。練習すれば使えるようになるもんなんだろうか。...いや、ないか。いくらここが魔界って言ったって、俺は地球の住人。魔力とやらがないから使えないはずだし。

そんなことを思いながらその本を手に取り、観察した。そこには大きく白い字で古魔術と記載されていた。


「なるほど、そういうパターンか。これで俺が文字を勉強する必要はなくなったようだ」

「でしょうね」


その本の中のページも見てみたが、、ところどころ図のようなものがあるが日本語表記だった。ひらがな、カタカナ、漢字からアルファベットに至るまで存在していた。

もし文字が違えば、一から学ぶことになる。その点、俺の転生は随分と楽な世界に来れたなと安堵した。


「ん、でしょうね?!アイザってまさか俺が何考えるか、未来のことまで見えたりするのか?」

「いや、それは出来ないよ。何考えるかなんてその人次第だし、操るならまた別だけど...」

「ならどうして?」

「ただね、前居たレンみたいな人もね、それを聞いてきたらしいから、地球から来た人間はみんな心配性なのかなって思って」

「...前居た俺みたいな人?」


やはり誰か居たのか、俺と同じ体験をした転生者が。ライムが地球という言葉にあれほど過敏に反応したのもそのためか。にしてもあれほど崇拝対象っぽい人物なのか...なんだか会ってみたいな。

俺がそう尋ねるとアイザはムキになって手を振りながら言う。


「え、あ、いやなんでもないよ!この世界に来る地界の人間はレンが初めてなのであって、誰もレンより前にこの世界に来てなんてないよ!」

「...ほう」


いや、流石にもう手遅れだと思うのだが。

嘘下手な人はクラスメイトにも居たが、ここまでの嘘下手にはあったことがなかった。


「嘘下手で悪かったね!!」

「っ!?」


...そうだった、考えてる事は全部お見通しなんだった。


「本当になんでもないんだってばぁ」

「なんでもない奴がそんな焦りながら話さないけどなぁ?」

「...死にたい?」


アイザが手のひらを上に向けながら白色のエネルギーの玉を生み出す。


「い、いや、それはちょっと良くないぜ、王女様」


何とか鎮めようとする。流石に転生初日で死ぬのは御免だ。


「冗談に決まってるじゃん。何本気で止めてるんだよレン」

「そ、そりゃそんなのくらいたくなんてないからな!?」

「...ふーん、ぽいっ」

「っっっ!?」


アイザは不敵な笑みを浮かべるとその玉を俺に放った。咄嗟に悲鳴を上げてしまったが何故かどこにも痛みなどはなく。


「単なる治癒魔法だよ、男の癖に意気地無しー!」

「そうかもな」

「あ、ありゃ、認められるとこっちとしても困るんだけど」

「事実だからな」

「確かに」

「そこは否定してくれると俺は嬉しかったかなぁ」

「レン自身が言ったんでしょ!?」

それも、そうだな。

「そういえばレン」

「ん?どうした?」

「まだ確か熾天世界に行ったことないんだよね?」

「そうだな、というか転生したのここでそれからライムとアイザとカティにしか会ってないぞ。それにまだこの世界についても謎だらけだしな」

「そっか。まぁ確かにまだ転生して2時間くらいだね。それは理解できなくて当然だ〜」

「ちなみに魔界って言うと魔物とかが大量に居て危険な世界っていう固定概念が植え付けられてるんだが、正確にはどんなとこなんだ?」


するとアイザは中央にある赤いテーブルの席につく。


「座っていいよ、レン、カティ」


俺はアイザと対面の位置に、カティは俺の隣に座った。そしてアイザは魔界についての話を始める。


「まず、勘違いしているようだから弁解して置くけど、魔界ってタルタロスの事じゃないんだよ」

「タルタロス?」

「悪魔界、っていうのかな」

「理解した。それで?」

「うん、地界の人達はそれを魔界と呼ぶらしいけど、私たちの言う魔界はね、私の統べてるこの魔法世界のことを指してるんだよ」

「...要は、魔法世界、略して魔界って感じか」

「そういうことだね。だから君が想像していたタルタロスのように混沌状態でもないし、紛争なんかももちろんしてないよー!あってもたまに喧嘩が発展して起こる争いくらいだね」


つまりは治安がいい世界ってことか。

アイザは俺の心を読んでこくりと頷く。


「地界と同じように、海もあるし、山もある。川もあるし、森もある。科学技術を駆使した建築も、学校もあるよ。地界にあって魔界に無いものも中にはたくさんのあるけど、それは私たちにとっては魔法で補えるものだったんだ。だからわざわざ持ち込んで発達させる必要もなかった。科学文明が衰退した分、魔法文明が発達した。まぁ正直、私たちの魔法は科学なんかに負けてないと思ってるけど...」


ボソッと呟いたその言葉に、


「どっかで聞いたけど、やっぱり化学と魔法って対立するんだな」

「文明的相違って感じ?あ、そんなことよりそろそろディナーの時間だ」


アイザはカティに向かって言う。


「そうですね、既にアルト様が調理を終えて卓上に並べてらっしゃいます。レン様は私がご案内致しますので、アイザ様はお先にお召し上がりくださいませ」

「うん!ありがとねー!」


アイザはそう言うと、俺の前にあるさっきの赤い本を手に取り宙へ投げる。その本は落下することなく元あった場所へと戻って行った。


「それじゃ、また後で」


手を振りながら光の粒となってアイザがここを去る。


「って、今は夜なのか!」


普通に目を覚ましたあの時が朝だと思っていた。


「そうですね、19時を回っております。それではレン様、参りましょう」

「あぁ、よろしく」


後ろを振り返りドアを開けようとするが既に開いていた。


「あれ、開いてたっけ」

「私が今開けました。私についてきてください」

「どこまでもついて行くよ」

「えっ」

「えっ」

「...行きましょう」


そんな変な会話が終わり俺らは部屋を出た。


1階から階段を2階上り3階について、廊下の奥に大きな式場が見える場所へ出たのだが。


「...いや、広すぎんだろここ、あとどれ位かかるんだよ!?」

「2、3分かと」

「今まででももう5分以上経ってるとと思うけど!?この廊下、端から端まで何メートル

あるんだよ...」

「ざっと500mですかね」

「おかしいだろ!?」

「こんなんで驚いてたら聖皇都に行ったら死んで驚くかもね〜」

「死んでたら驚くも何も出来...ってん!?」


アイザの声がした。というか会話した。

「後ろ後ろ」


そう言われ後ろを振り返るとちゃんとアイザが居た。


「なんでここに?」

「あまりにも遅いからもう連れてこようと思ってさ。さてと、カティ、もう下がっていいよ」

「はい、それではまた」


そう言うとカティは光の粒になって消えていった。と、アイザが俺の手をがしっと掴む。


「行くよ、レン!耳塞いでおいて!」

「え、えぇ...?」


アイザに言われるがまま咄嗟に耳を塞ぐ。その瞬間俺の体は浮遊感に襲われ、同時に金属同士が擦れ合うような不快な高音が鳴り響く。

ふと、そんな感覚が消えたと感じ、目を開くとそこはさっき俺が遠くに見ていた式場のようなところの中で。

瞬間移動、そのものだった。


「うぇ...きもちわるっ」

「こんなので酔ってどうするのレン」

「そりゃなんの心構えも説明もなしにこんなことされたら...」

「お腹すいてたんだもん、仕方ないじゃん」

「...そうだな、仕方ない仕方ない」


早く食べたかったらしい。

俺は辺りを見回す。

黒いドレスを着た婦人や、ライムが着ていたような鎧を着た人々が大勢集まってワインのようなものを飲み交わしていた。十数mはあろう長い金と赤と装飾の成された鉄製のテーブルに適当な数並べられた食器と椅子。

卓上には溢れるほどの料理が並び、席の一つ一つにスプーンとフォーク、ナイフやワイングラスなどが置かれていた。

所々に人が座り始めていて、俺らも座ろうか、そういう雰囲気になっていたころ、突然横から、


「よぅ、兄ちゃん、話は聞いてるぜ」


と話しかけてくる黒いフードのついたマントを羽織り、中には鎧をまとうツンツン頭の若い男。年齢は20代後半ほどだろうか。声は明るく力強かった。


「...えと、誰?」

「あぁ、俺は魔界王女護衛団・黒薔薇騎士団(Black Rose)の団長をしているネイト・レブルゲル・カリストマだ。レン様、だよな?よろしくな!」

「あ、あぁ、よろしくな」


唐突だなぁ。

魔界王女護衛団・黒薔薇騎士団、か。どこに黒薔薇要素があるのかよく分からない。

周りにはネイト団長と同じ服装をした人々が多く集まっていた。恐らく団員なのであろう。

ってかここはアイザの城...なのか?

ここに来る道のりで何十店舗もの店が並ぶ通りや、また、小さい子供が走って騒いでるのも、300とか301とかホテルみたいな番号を振り分けられた個室とかも見た。アイザの従者が住んでいるにしろ、多すぎやしないか?何よりこんなに広くする意味はなんだ?城だったにしろ、幅が500mもあるのはおかしいし。

あまりにも気になって俺はアイザに訊く。


「なぁアイザ、ここって城なのか?」

「魔皇都だよ」

「...魔皇都?」

「さっきから色々と回想したり考察したりしてたけどさ、まずここは私一人の城でもないし、むしろここは1つの都市。日本で言う首都ってやつ?あと、君が通ったお店の並んでる所は商店通り(メトリア)って呼ばれてるとこ。小さな子供に関しては、ここの2階の南側にあるリロヴィア魔法学校の生徒たち。1年生から12年生までをここに育成しているよ。あと300と301ってことは、私の護衛たちの部屋」

「へー...ここが都市なのか」


と俺が納得していると


「...おーなーかーすーいーたーぁ...」


と、その場にアイザが座り込んでしまう。


「床に尻つくなよ」

「大丈夫、ついてなかいから、浮いてるから私」

「ドラえもんかよ」

「何その科学主義代表者・The・青狸みたいな名前」

「絶対知ってんじゃん」

「名前だけ、ね。詳しくは知らないよ」

「まぁ、食べよっか」

「そだね」


そう会話を終えると俺らはようやく食べ始めた。


「これは...カレー、なのか?」


俺は俺の席の前に並べられた黄色みが強いカレーのような食べ物を指して言う。すると、後ろから、


「それはケヌマという人参や芋なのと一緒に鶏の肉を炒めて煮込んで作った物を、ルーツェルイス産の白米にかける料理です。レン様のお住いになられていた地方の物に似せた味わいになっておりますので、お口に合うかと思われます。そちらのお飲み物はフェイツという茶葉から抽出したお茶になります。甘みが強いのが特徴で、スパイシーで辛めのケヌマと上手く調和していい味になります。あ、お熱いのでお気をつけください」


と丁寧に具材から説明してくれたのは茶髪の小さな少女。年や背が小学生ほどで、よく見る白いシェフ服に身を包んでいるが、説明に一切の詰まりも見えず、すらすらと言いあげたこの子に俺は、


「あ、ありがと」

「ちなみに僕はアルト・レスラルノ・クウェージェと申します。来年の春で13歳になります。至らぬ点もございますがここの料理長を担当しております。何か作って欲しいものがありましたらお気軽に言ってください。」

「お、おう、ありがとな」


思わず引いてしまった。

いや...凄すぎるだろ。

12歳にして料理をここで研究して、しかも料理長になって自ら作っていると。俺が小6の時なんか学校から家に帰ったら部屋に籠ってゲームばかりしてたのだが。

しっかりしてる子だな。どんな教育受けたらこんな天才染みた子になるんだ。

早速俺はスプーンを持ち、ケヌマと呼ばれるカレーに似た物をすくい上げ口に運ぶ。その瞬間、口いっぱいにスパイシーなトロトロしたルーが行き渡る。


「まじか...」


普通にカレーより美味かった。

本家超えるとかヤバすぎだろこの子。


「どうでしょう?」


アルトという幼い少女は俺の顔を伺いながら感想を待つ。


「普通に、カレーより美味しいぞ」

「本当ですか!本土の方にそう言われるほど嬉しいことは無いです!ありがとうございますぅ!」


俺の感想にあからさまに喜んでくれていた。


「嬉しそうで何よりだよ。このフェィツってのもケヌマとよく合ってて本当に美味しい」


えへへ、と可愛らしい笑顔を見せると、ルンルンとスキップしながら俺らの前を去って行くアルト。


「いきなり現れていきなり去っていくんだな」

「まぁ、いい子だよ。料理も上手いし」

「上手いどころの話じゃなかったけどな」


俺の右斜め横に座るアイザと話していると、俺の左席に座っていた誰かが話しかけてくる。


「初めまして、だね。レン君、今日は色々あったようだけどお疲れ様。これからよろしくお願いするよ」


紫色の長い髪が揺れ、紫の瞳がじっと俺を見つめる。その男は今まで会った人物のうち、最も大人っぽく、厳粛な雰囲気をどこかまとっているように感じた。


「あ、はい、よろしくお願いします...」


俺がそう堅い挨拶をすると、俺の肩をポンと叩き、


「そんなに固くならなくてもいいじゃないか。あぁ、自己紹介が遅れたね、僕は聖界王女様の使いのような者をしている、ソルハ・ニスチル・レヴァイルだよ。気軽にソルハと呼んでくれて構わないよ」

「あ、あぁ分かった」


聖界王女の、使い?

初めて会った聖界という異世界の住人。色々と訊いておこうと思い、俺は気になったことを訊いてみる。


「早速訊きたいことがあるんだが、いいか?」

「あぁ、構わない」

「ソルハは聖界王女様って人からの使い、なんだよな?」

「んーまぁ、概ねそうだと言えるかな」

「使いって、どんなものを頼まれて来るんだ?」

「んーと、どんな物...かぁ。基本的には代理交渉みたいなのが多いかな。聖界王女様が行けない時に、僕が代わりに行く。そんな感じかな。主に交渉するのは食料や衣類、あとは技術士、かな?」

「技術士を買い取るって...人身売買かよ!?」

「まぁそうだね。とは言え、その人の特定許可資格と籍を買い取るってことだから、特に拘束は無い。聖魔界間の行き来も自由だし、聖界に来てくれた人には最低限度の暮らしは保障している」

「なるほど、ならその技術士は選ばれて光栄だな」

「そうだね」

「ちなみに今日はどうしてここに?」

「レン君の歓迎会」

「あ、これ歓迎会だったの!?」


どうりで人数が席に収まらないほど来ているわけか。というかそもそもなんで俺はそんなに大きく祝われてるんだ?

そんな時、アイザが零したあの言葉が思い浮かぶ。

前の人。

俺が来る以前に、この世界に地球からの転生者が来ていて、その因果か俺までこんな風に歓迎されているのかもしれない。

いや、それにしても前の人、何やったんだ?

この世界救った勇者様だったり?!

分からないな。

その前の人がどんな人かは一切想像もつかないが、多分この世界では英雄のような存在なのだろう。その英雄と同じ境遇に居る俺を一目見ようとこの歓迎会とやらに参加した、って感じか。俺は見世物じゃないぞ...。

と、そんな考え事をしているとソルハが、


「レン君、君とは少し話す必要があるみたいだね」


と言う。


「あ、そうか?まぁ、俺はいいよ」

「ありがとう。そして、アイザ様」


名を呼ばれたアイザはビクッとしてソルハを見る。


「な、な、何....かな.....」

「あれほど強く言ったはずなのですが、どうしてこうなるのでしょう?」


ソルハが鋭い目付きでアイザを睨む。


「うぅ...勝手に王女様のプライバシー覗かないでよ、変態」

「変態扱いしないでください。全く...しっかりしてくださいよ、ほんとに...」

「分かってるよ...」

「まぁ時既に遅し、です。レン君、明日の朝10時にアイツォンド・レブルに来ていただけないでしょうか?」

「アイツォンド・レブル?」

「アイツォンド・レブルというのは、ここ魔皇都・アヴェルヴォの位置するエゾール州の西隣にある街の名前です。ソルハ様は基本そことここと聖皇都を行き来しています」


と、カティが言う。

ようはここの隣の州ってことか。地名区分はアメリカ似なんだな...不思議。


「そこへは私がお連れ致しますね。なので明日、約束の時間の2時間ほど前...8時頃に起こしに行きますね!」

「いいのか!ありがとな、カティ」

「いえいえ、私はレン様のメイドですから」


にっこりと首を傾げ笑うカティ。


「頼もしいやつだな」


俺はそう言って、ソルハの方を向く。


「あぁ、いいよ、その時間に行こう」

「ありがとう、レン君。それでは僕はそろそろ9時になるから王女様の元へ帰るとするよ。またね」

「はい、またおいでくださいませ」

「また明日な」

「アイザ様も、頑張ってくださいませ」

「う、うん...またね」

「はい、では」


そう言って彼はここを去る。

周囲の人々がざわざわと騒がしく食べ進めるのを見る。


「俺らも食うか」

「そうだね」


そして俺らは再び食べ進めていった。


「おはようございます」

「ん...あぁ、おはよう」


翌朝。

俺は昨日の鎖に繋がれ剣を突きつけられる最悪な目覚めとは反対に、ふかふかのベッドの上で寝たためかとても清々しい気持ちで起床した。


「朝起きるの早いですね、レン様」

「あぁ、まぁ...そうかもな」


これでも一応高校生だったんだ。朝は6時に起きて神奈川から遠く離れた埼玉の高校に電車で通っていた。なぜそんなに遠距離通学なのかと言うと、単純に頭が悪いせいで近場の高校の受験に落ちて、唯一通ったのがそこだったから、だ。にしても腹が減った。


「お腹は空いていますか?」

「ん、そうだな、空いてる」

「承知しました、ではアルトさんに作っていただきますね」

「アルト、もう起きてんのか」

「そうですね、彼は毎日10時に就寝、5時に起床されています。なんでも、料理の研究のためだとか」

「もう小学生じゃねぇ...」


やってる事が大学生なんだよな...。


「好きでやってることなので誰も口出ししませんけどね。それでは注文してきますね」

「ありがと」

「では」


カティが粒子状に散らばってここから消える。もうなんだかこの現象にもすっかり見慣れてきてしまった。


「さーてと」


ベッドから立ち上がる。


「着替えるか」


昨日あの後風呂に入ったのだが、いや、風呂と言うよりかは温泉に近かったのだが、風呂を上がったら白い綿生地のパジャマが用意されていて、脱いだ服は消えていた。

恐らくカティが洗濯するためにどこかへ持っていったのだろうが、なんとなく下着を見られたのが恥ずかしくなってきた。


「あれ?俺の服だ」


というか制服だ。制服は部屋の隅のクローゼットにかけられていた。既に洗濯してくれていたのか...。


「...え、俺これ着るのかな?」


流石に異世界でも制服で行動するのは少し動きやすさに欠ける。

何か他の服がまた用意されてたりしないのかとクローゼットの中をよく見てみると、


「え!?」

「えっ!?」

「え!?」

「えっ...?」


2度同じ反応で驚いた。

1度目はクローゼットの中に何故か俺の私服が入っていたからで、2度目は俺の驚いた声に驚いたカティの声に驚いたからだ。


「か、カティおかえり...」

「ただいま戻りました、が、どうなされました?」

「いや、この服って...どこから?」

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