創作置き場
神無創耶
神喰少女 番外 「黄金の甘味」
灰色の地面に赤い水滴が落ちる。
男の胸から湾曲した銀朱色の刃が生えており、刃を伝って地面に垂れ流している。
刃を引き抜けば男は前のめりに倒れ伏し、血溜まりを路地裏の通路に鉄錆にも似た臭いを充満させていく。
吐き気がする、怖い、けど死にたくない、ごめんなさい。
私は黒い十字架の意匠を施した紋章を背負う男の遺体に謝罪と祈りを捧げてその場を去り、路地裏から逃げるように去った。
表通りに出れば、先程までの静寂と血の臭いとは打って変わって大勢の人が行き交いしていた。
先ほどまでのそれは嘘であるかのような人々の日常が、そこにあった。
私は先程の死から逃れる為に、腰の鞘に2本の短剣を仕舞い固定して人々の中に紛れ込んだ。
人々の流れに流されるままに、何処となく歩んでいる、沢山の人達の顔は其々違う、けれど諦観めいた、つまらなさそうな雰囲気があるのは共通していた。
──これからどうしよう、またあの追っ手が来るんじゃ……
思わず視線だけを何度もあちこちに巡らせては、何もいない事を先程から確認する。
誰も私を見ていない、分かってはいるけどそれでも恐ろしくてたまらなくてしかたがない。
気づけば沢山の三角の窓が螺旋状に絡み合う高いビルの前にいた。
沢山の色とりどりの魔導車が道路を走っては横断歩道を沢山の人が渡っている。
地下街への入り口前の学園と書かれたオブジェクト前に見覚えのある大きくもガタイの良い青年、オルコシアスがいた。
学園を見上げていたようだが、私に気付いたのか見るのをやめて陽気な顔で呼びかけた。
「アマルフォス!良かったここにいたのか」
「……オルコシアス、あまり撫でないで」
「まあまあ、こういう時くらい撫でられてろって、お前に食べさせたい奴があったからさ!」
「……」
私よりもずっと背の高いオルコシアスが力強くも優しく撫でる、胸中にジワリとした温もりが広がってきたけど、今の私がそれを享受してはいけない。
だから、拒否してもオルコシアスは笑って感情豊かに接してくれた。
……殺人を犯し続ける私にそんなの必要ない、って言ったのに……それでも私を笑わせようとしてくるのは苦手
そんな私の様子をよそに、オルコシアスは私の手を掴んで歩んでいく。
歩幅も違うので追いつくのも大変だ。
着いた場所は810シネマーと書かれた看板のある建物に組み込まれているバンリマートのイートインスペースだった。
初めてきた中はそれなりに広く、食べることが出来るように机と椅子が一部のスペースを占めていた。
席に座って待っているとオルコシアスが茶色の包みを私に差し出す、それを受け取り中を見ると紫色の熱く太いモノがあった。
「こういうコンビニの焼き芋は美味しいんだ、ほれ、ガバッといってみろって美味しいから」
「う……うん……」
恐る恐る齧り付くと熱くも濃厚な焼き芋の甘味が一気に口内に広がっていき焼き芋の甘い匂いが鼻腔をくすぐる
噛むごとにとても甘くて、熱くて美味しくて、何故か苦しくなった。
……美味しい、でもこれは食べてもいいのだろうか?
「どうだ、アマルフォス、美味いだろ?」
「……美味しい、みんなにも食べて……」
そこまで言って村での突然の厄災の記憶が頭をよぎってしまい、表情を柔らかくしないようにとてかたくする。
「アマルフォス、今は食べろ、そんな顔はお前には似合わないぜ」
「……」
「今は少しでもお腹に入れて元気になって進もうぜ、アマルフォス。」
「……うん、ありがとう」
焼き芋の残りを頬張るようにしながら食べて、悲しみを飲み込むようにしながら1日は過ぎていく。
少しでも、力を……仇をとるから
心からの誓いを再度確かめるようにしていく。
END
創作置き場 神無創耶 @Amateras00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。創作置き場の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます