進まずの青信号

押見五六三

全1話

 これは以前、付き合っていた彼女が生前に言っていた事なんですが、京都には本当に本物の幽霊が出る、超心霊スポットの某トンネルが有るそうです。

 その場所は霊能者の方々からも御墨付きを貰っており、何でもトンネル内を走行中に女性の生首がボンネットに落ちて来るとか、フロントガラスにベタベタと手形が付き出すとか、昔から怪奇現象が絶えないんだとか。

 霊能者さんの話では、そのトンネルは近くの霊まで呼び寄せてしまうほどの負のパワーが有るそうで、沢山の霊達の溜まり場に成った場所なんだそうです。

 そんな幽霊のショッピングモールみたいなトンネルですが、中でも有名な話は『進まずの青信号』という話だそうです。

 どうやら、そのトンネルの手前には信号が有るらしく、いつも決まってその信号は『赤』に成っているそうです。だから必ず『青』に成るまで一度はトンネル前で止まらないといけないのですが、偶に最初から『青』の時が有るそうで、その時はそのままトンネルに突入せず、一度止まって『赤』に成るのを待ち、再び『青』に成ってから入らないといけないルールが有るそうなんです。このルールを守らず、『青』だからといって一度も止まらずにそのまま突入すると、必ず幽霊に遭遇するのだとか……。


 というわけで僕は本日、その噂が本当かどうかを検証に来ました。

 実は近くまでは何回か来た事が有るのですが、実際にトンネルの中を通った事は有りませんでした。でも、僕にはどうしても会いたい幽霊が居るので、今日は1人肝試しです。


 真夜中の車道を愛宕山方面に向かって直走ると、どうやら見えて来ました。お目当ての某トンネルです。

 なんと、信号は『青』です。

 これは期待しか有りません。

 僕は止まらずにそのまま突入しました。

『進まずの青信号』のルールをやぶったのです。

 ある幽霊に会いたいが為に。


 トンネルの中は思ったより明るく、オレンジ色の照明が永遠に続く感じです。

 出口が見えないので、かなり長いトンネルなのでしょう。

 周りは湿った雰囲気で、確かに薄気味悪いですが、これは別にこのトンネルに限った話ではないと思います。

 そのままスピードを抑えながら走りましたが、自分の車の走行音が響くだけで、幽霊の声らしき物は聞こえません。

 勿論、手形が付く事も生首が落ちてくる事も有りませんでした。

 やがて眼前に出口が見えて来ました。

 はっきり言って拍子抜けです。

 何も起こりませんでした。


「ん?」


 今、ちょっとだけ車が何かと接触した感覚が有りましたが、小石でも踏んだのでしょう。

 特に何事もなく車はトンネルを抜けました。

 結局『進まずの青信号』の検証はデマという結果に成りました。

 これは当然だと思います。

 実は『進まずの青信号』の話には裏が有りまして、元々このトンネルは小さなケーブルカーが通る為に作られたのですが、ケーブルカーが廃線に成ったので一般道に変わったみたいです。その為にトンネル内は非常に狭く、車1台分がやっとの1車線しかないので、入口に信号をつけて相互通行を行なっているんです。青信号でも一度止まって次の青信号に変わるまで待つのは、もし、トンネル内走行中に信号が変わってしまったら、反対側から対向車がトンネルに入って来て正面衝突をしてしまう可能性があるからの安全対策だったのでしょう。それがいつの間にか幽霊話の都市伝説に変わってしまったんだと思います。

 それでも彼女は、「必ず幽霊が出る」と言ってたので期待してたのですが……。

 そうです。僕が会いたい幽霊は死んだ彼女です。

 僕が殺しました。

 最初は殺す気が無かったのですが、思わずカッと成ってしまって仕方なかったんです。

 死体は近くの山に埋めたので、彼女の事だから魂は溜まり場のココに来ているのでは、と思ったのですが……やっぱり、そんな都合のよい話はないですね。

 呪われたら嫌だから彼女の幽霊に会って謝りたかったのになあ。


 僕は口笛を吹きながら、そのまま車を走らせ、広い場所まで来ると、家に戻る為に転回しました。

 そこで変なカーブミラーを見ました。

 カーブミラーには何故か僕も車も映って無かったんです。

 不思議なミラーだと思いながらトンネルまで戻って来ると、嫌な物が目に入りました。

 事故現場です。

 入口付近で車どうしが正面衝突を起こしてました。

 あのように成るから『進まずの青信号』のルールが有るんですね。

 悲惨な事に向こうから来た車はフロントガラスが割れ、車体はボコボコ、運転手は血塗れのグチャグチャ状態なので即死でしょう。比べて助手席の女性はシートベルトをちゃんとしてたのか無事そうなんですが、なぜかグチャグチャ死体の運転手の方を見てケラケラと笑ってます。

 あれ?

 あれは死んだ彼女じゃないか!

 やった!

 会えた、会えたぞ!

 あれ?

 ちょっと待てよ……。

 あのナンバープレート……。

 あの事故ってる車、僕のじゃないか。

 じゃあ、あのグチャグチャ死体の運転手は……。

 僕?


〈おしまい〉

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進まずの青信号 押見五六三 @563

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