第36話 ゲルダ
お祭りの後梅ちゃんの家に行った。
梅ちゃんは自分の部屋で布団に潜り込んで泣いていた。あゆむちゃんと高木のことを誤解したんじゃなくて、覗き見をしていたのが恥ずかしくて逃げたみたいだ。カッコ悪い、もう高木に嫌われた、そう言って泣いている。
「高木の気持ちは高木に聞かなわからんやん」
そう言っても、アタシはアホや、アホやアホやと独り言を言いながら泣くばっかり。もうっ!
今の梅ちゃんはカッコいいゲルダじゃなくて、可愛い女の子だ。でもそんな梅ちゃんもやっぱり可愛いし、大好きだった。
梅ちゃんと高木が会えたらいいのに。また仲良くなったら良いのに。今日の高木は梅ちゃんに会いたそうだった。折角会えそうだったのに……
まだチャンスはある。これからも梅ちゃんを誘い続けよう。きっと梅ちゃんと高木はまた元の仲良しに戻れる。野口君にも相談しよう。もう従姉妹やって隠さなくても良いし、野口君も梅ちゃん達を会わせてあげたいと思ってる気がした。
秋祭りからしばらく経ったある日曜日、野口君がうちに来た。学校では毎日会ってるけど、うちに来るのはめずらしい。私が野口君の家に行くことはたまにあるけど……
ピンポンがなって玄関を開けたら野口君が鉢植えの花を持って立っていた。
「渡したいもんがあって……」
野口君はちょっと緊張してるみたいだった。
「これ、プーさんときららの子ども。交配させてみてん」
野口君が持ってきた鉢植えを地面に置いた。
黄色いバラ。プーさんより薄くて、きららちゃんよりちょっとだけ濃い黄色。プーさんよりトゲが優しくて、きららちゃんより花の形がぷっくりしてる。二つの花の特徴が混ざってる、ホンマに子どもなんや。そして……
「ブーケみたい」
小学生の時シンプさんが見せてくれたブーケみたいな「恋きらら」
きららちゃんと同じく、この子もブーケみたいな咲き方だ。
「スゴい……」
人間みたいに結婚して赤ちゃんが生まれて……その中にみんな刻まれている。プーさんの良いところ、きららちゃんの良いところ。つながっている、つづいていく。そう思うと何だか涙が出て来た。
「えっ?!あれ、ごめん。嫌やった?喜ぶかと思ってんけど……どうしよう、ごめんな」
泣き出した私に気づいて野口君が慌て出す。違う、全然違うねん。
「……違う、そうじゃなくて……うれしくて……こんなん、スゴい……野口君スゴい……」
ぐいぐい目を擦って何とか涙を止めようとすると、野口君が私の手を押さえた。
「擦ったらアカン」
そう言って指で私の涙をそおっと拭いてくれた。
「嫌で泣いたんちゃうやんな?」
心配そうに野口君が見つめてる。
「違う。うれしくて、感動して。ありがとう、ホンマにありがとう」
まだ涙が止まってなかったけどニッコリした。感謝が伝わるようにおもっきり笑った。
「良かった、笑ってくれて。スーちゃんを笑顔にしてくれってたのまれてんねん、俺」
野口君も笑った。
「誰に?」
「カッコいい奴に……」
誰のことやろ?
野口君は鉢植えを持ち上げて私の方に差し出した。
「名前つけてん、コイツに」
「なんていう名前なん?」
わくわくする。なんて言う名前やろ?!
「ゲルダ」
野口君が誇らしそうにその名前を口にした。
「ゲルダにした。スーちゃんは俺にとってゲルダやから」
野口君はそう言うと私の目を真っ直ぐに見た。
「俺、スーちゃんのこと好きや。今までもこれからもずっと。ずっと一緒に花を育てて、ずっと一緒に笑って、死ぬまでずっと一緒に居りたい」
頭の中が真っ白になった。野口君の言葉を理解するのにスゴい時間が掛かった。
ゲルダが私?ゲルダは梅ちゃんやのに……
ずっと一緒に居たい、それは私が思ってることやけど野口君が言うたんやっけ?私が思ったんやっけ?
あれ?死ぬまで一緒って結婚するってことかな?恋人になってからするんちゃうんかな、結婚って……
ずっと黙ってる私に野口君が
「嫌?アカンかな?」
と泣きそうな顔で聞いてくる。
「あー えっとー それはプロポーズ?この子、ゲルダは結婚式のブーケ?」
野口君は えっ?!と驚いた顔をしたけど、すぐに真面目な顔で言った。
「プ、プロポーズじゃないけど結婚したい。もうちょっと先になるけど、でも絶対!結婚式の時はもっと上手に交配出来るようになって、スーちゃんが好きな花を俺が作る」
わあぁぁぁぁ、結婚申し込まれてる?今?何かスゴいことになったなあ。でもうれしい。
「ブーケはこれが良い。これが私の一番好きな花やから。私も野口君好きや。だから結婚する。もうちょっと先やけど」
野口君の顔がふわぁと笑顔になる。花が咲くみたい。それを見たらおんなじように私も笑顔になった。
「花が咲いたみたい、キレイやな」
野口君はまた私が思っているのとおんなじ事を言った。
桜梅桃李 大和成生 @yamatonaruo
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