彼女は少女じゃありません‼︎
シシリーに出されたお茶を飲み、一息ついたところで彼女は話し始めた。その様子はとても落ち着いており、先程とはまるで別の人間の様だ。と同時に俺は小さな違和感を感じていた。
「約束して、佐久間。これから話す私の正体はこの世界では迂闊に口外しないこと。特にエルさん、シシリー夫人にも知られてはいけないわ」
『しかし、二人にも知られてはいけないなんておかしな話じゃないか?隣で話をしているのに…』
俺はエルとシシリーの方を向いて二人の顔を見た。そしてロナリーが話を始めた瞬間から感じていた違和感の正体に気づいた。二人の動きが止まっていたのだ。目線も指先も微動だにしていない。
「おい、ロナリー、どういうことだこれは?」
「ごめんなさい、とりあえず佐久間にだけ話したかったから力を使わせてもらったわ」
「力…?やっぱり魔法なのか?」
「魔法…とは少し違うのだけれど、『時間を止める』に近い能力ね。正確には『時の流れを限りなく遅くする』だけなんだけど。時間自体を制止してしまったら宇宙全体の流れを止めてしまうことになるからね」
そう話す彼女の目は能力が発動しているからか虹彩の部分が青色に光っていた。魔法に詳しくない俺でも「それ」が魔法使いたちが日常生活で使う魔法と一線を画した能力であると察しがついた。もうそれだけでロナリーは本来この世界に迂闊に存在してはならない【異物】であるという種明かしをされているようなものだった。
「なるほど、で、なんで俺だけ体感時間は正常に流れているんだ?」
「簡単なことよ。この能力の効果範囲指定からあなたを「排除」しただけ。安心して、あまり長い時間この能力を使わない限りは能力の対象者と非対象者の体感時間の整合性は取れるようになってるから」
「なるほど、馬鹿げた能力だが内緒話をするには最適だな。どれくらいの時間なら大丈夫なんだ?」
「静止に近いこの状態では一秒が二九二〇分の一の長さで流れるの。能力を使った私の体感での一年は世界での三時間程度だから…、まぁそれを前提に程よく使ってるわ」
「なるほど……、ん、まてよ…。じゃあさ」
「『さっきの騒動は能力を使えばあんなに騒がれずに済んだんじゃね?』って思ってるでしょ」
「わかってんのかよ、なんであんな大事にしたんだよ…?」
「残念ながらこの能力は一度使うと七日は使えないの。丁度七日前のこれくらいの時間に使っちゃってたからさっきは使えなかったってわけ。あまり短いスパンでボカスカ使っちゃうとどこかの星がうっかり一つ二つ消えてしまう状態異常が発生しかねないのよ」
「なるほど…言いたいことはわかる」
彼女の理屈は納得したが溜飲が下がったわけではない。が、俺もこの世界にとっては【異物】である以上同じく【異物】である彼女を責めることは少し気が引けた。それにこの少女より俺は大人だからな。困ってるのであればやはり見捨てることはできない。
「それで話の続きだけど…」
「…あぁ、約束するよ。二人だけの秘密にすればいいんだろ」
「なろう系嫌い」による破茶滅茶異世界生活 真本ヒロタカ @hirotaka_mamoto
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