法律

高黄森哉

法廷


「どうして、世の中には法律という不合理があるのだろう。例えば、若かったというだけで減刑されたり、二重人格とか、あるかどうかも分からない精神病で、罪がなくなったり。どうして。嘱託殺人のような理不尽が、今もきっと法律の奥底に隠されていて、それらがどうしようもない、社会への不利益や、我々の一般感覚への乖離を引き起こしているのに違いないのに。法律は完璧なのではなかったのですか。それとも不公平で不確実な規律を、例えば宗教の戒律のような、そんなただの幻想を、我々は押し付けられているのでしょうか。第一、人の感情が、陪審制度という形で現れ、人の感情では計り知れない、犯罪までの経緯や、その内部にある事情を、裁いてしまうなんて傲慢じゃありませんか。どうして、我々は誰かが勝手に決めた善悪に縛られて生きなくてはならないのでしょうか。どうして、その道の専門家でもない人が、大雑把に決めた、ルールがまかり通ってしまうのでしょう。例えば、ある種の猛毒である蠍は、その蠍が属する種ごと、国内への輸入が禁止されました。その種の中には、無毒な蠍もいるというのに、おかげこうむって、そいつらは輸入できませんよ。他方で、国内で人を殺した実績がある大型犬は、輸入規制どころか、素人が買うのになんの特別な手続きさえ、要らないってのに。この矛盾を含んでいる規則を、我々はどうやって、素晴らしいシステムだと、信仰できるので。法律なんてどこにもなくて、人が勝手に作った幻想じゃあないか」

「あれを見てごらん」


 彼は指さした。それは法律の公平さを表す、女神像だった。彼女は胸の前に、天秤を吊るしていた。罪を量る天秤。


「彼女、ちゃんと目隠しをしているから」

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法律 高黄森哉 @kamikawa2001

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