ex2.なんてことのないある日。(記録にない、記憶の一ページ)

〇場所 幼馴染の部屋。

〇シチュエーション 小さな頃の話(少女は四歳くらい)。あなた(聴き手)は幼馴染の誕生日を、彼女と共に過ごしている。


・(台詞は可読性のために、年齢に合わせて開くことはしない)

リビングでのパーティーも終わり、彼女の部屋でいつものように遊ぶことになった。床に座っている。

 正面に向き合って、嬉しさの混ざった声を発する。ケーキを食べた後のなので、口のなかに残る甘さを意識しているようなイメージで。

「ありがとう!」


「お祝いしてくれて」


「おめでとうって言ってもらえるの、すごく嬉しいんだ」


「なんでだろうね?」


「おっきくなってるから?」


「んー……?」


「ちょっと、違う気がするんだ」


・自分のなかの言葉にならない感情の輪郭を探るように。

「えっと……」


「むずかしいんだけど」


「わたしがね」


「おおきくなることをお祝いしてもらうのが、嬉しいんじゃ、ないと思うんだ」


「その、ね」


「ゆっくりでだいじょうぶ?」


「……ありがと」


「きみはいつもやさしいね」


「あ」


「そうだよ」


「やさしいんだよ」


「だからね」


「お祝いするって、その子のことをおめでとうって思うことだから」


「そう思ってもらえることが、やさしくて、嬉しいんだ」


「わたしも、そんなひとになりたいなぁ」


「ひとに、おめでとうって言える、そんなひとに」


「……なれる?」


「えへへ」


「きみがそう言ってくれるなら、信じたいって思えるよ」


「そだ」


・少し前のめりになる。互いの輪郭線を眺めることができない距離。

「あのねあのね」


「お誕生日プレゼント」


「何が欲しいかって聞いてくれたよね」


「きみの、お姉ちゃんになりたい」


「どうして、って?」


「だってきみは、わたしのずっと前にいるんだもん」


「きみみたいになりたい」


「けどね、わたしはわたし」


「だから、きみにはなれない」


「けど、わたしのなりたいわたしには、なれるから」


「……うん」


「このまえやってたアニメのせりふ」


「おぉーって思ったんだ」


「それでね、今、思ったんだ」


「わたしは、きみのお姉ちゃんになりたいなって」


〇SE 髪が手指にこすれる音。


「頭撫でるなぁ……」


「お姉ちゃんなんだぞー」


「撫でるのは、お姉ちゃんの仕事でしょ」


「あ」


「……いじわる」


「嫌」


「撫でて」


「それで、わたしも撫でる」


「いいの」


「今は、それでいいの」


「でも」


「いつかきみのこと、お姉ちゃんがあまやかしてあげるから」

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不眠なあなたをあの手この手で寝かしつけようとする、幼馴染お姉ちゃんの奮闘日記 綾埼空 @ayasakisky

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