19. いつか
――以上が、千代子とのイチャイチャ動画を撮影することになった経緯である。結局、男であることを隠したまま、千代子から頬にキスをされ、今度は自分が千代子の頬へキスする番になった。
(うぅ、こんな話、聞いてないんだけど)
しかし、流れ的にやらざるを得ない。
ユイは覚悟を決めると、千代子の頬に顔を近づける。自分の鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほど近づき、舌を突き出せば、舐めとれる距離。間近で見る千代子の顔は、陳腐な表現に聞こえてしまうかもしれないが、人形のように見えた。これほどきれいな肌を、自分の舌で汚してしまう。急に罪悪感の波が押し寄せて、ユイは指でクリームの汚れをとり、それを指で舐めることにした。
「チョコちゃんも、クリームついていたよ!」
「う、うん。ありがとう」
意外だったのは、千代子が少し寂しそうに見たことだ。直接舐めるのが正解だったのかもしれない。今更つけるわけにはいかないし、ユイは笑って誤魔化すしかなかった。
(こういうところだよね。友達ができないの)
しかし、反省している時間は無かった。丸子もやってきて、他のメンバーも混ざり、あれこれ話しているうちに、カラオケ大会になった。
企画として成立しているのか? と思いながらも、ユイは彼女たちとの時間を普通に楽しんだ。東子から「OK!」の言葉が出たのは、撮影を開始してから3時間後のことだった。
「なんか、最後の方は、普通にカラオケをしていたね」と丸子。「これで、動画になるの?」
「ん。東子様に任せなさい」と東子は胸を張る。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだねー」
千代子たちが帰ることになったので、ユイは途中まで見送ることにした。一緒に外の世界へ帰ることはできない。途中で変身が解けてしまうからだ。
千代子たちとお喋りしながら駅に向かう。くだらない話をしながら、友達と歩くのは初めてだった。だから、その時間がとてもキラキラしていて、一生続けばいいのに、と思う。
でも、終わりの時間はあっという間に来て、ユイは駅舎の前で千代子たちと別れる。
「ごめんね。私はもう少しやることがあるから、まだここにいるね」
「そうなんだ。ねぇ、ユイちゃん」と千代子がユイの手を握る。「また、会えるかな?」
その答えは微妙だった。もはや、ユイの姿でこの世界にいるのは難しいと思う。それでも、千代子を悲しませまいとユイは明るい表情で頷いた。
「うん。会えるよ、きっと!」
「そうだね!」
「動画、楽しみしてるから!」
「うん!」
そして、ユイは千代子たちを見送り、フードを被って、その場から離れる。人気のない路地に入り、次に出てきたときには、半蔵になっていた。
半蔵の姿で列車に乗り、1人で座席に座る。いつもなら、寂しいと思う時間だったが、今日は不思議と寂しくなかった。千代子たちとの余韻が残っているからかもしれない。
トンネルに入り、窓に自分の顔が映る。今はただの冴えない男に違いない。しかし、ユイに変身すれば、千代子たちのような女の子とも楽しく遊べることがわかった。つまり、自分にはその素質はある。今はまだ、うまく発揮できないけれど、いつかはそれを発揮して、千代子たちと仲良くなれる日が来る予感がした。
トンネルを抜けると、灰色の街並みが広がる。自分が自分にしかなれない面白味の欠ける世界。それでも今日は、いつもよりカラフルに見えた。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作品は、こちらでいったん完結とさせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました!
女装を極めた陰キャボッチの俺、最強になる~女の子になって人気配信者を助けたら、後戻りができなくなった~ 三口三大 @mi_gu_chi
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