第92話 崖
「誰だよ、最新鋭の移動兵機なら崖でもうまく下りれるなんて言ったやつ! おまえだろミラクル! こら!」
『そんなこと言ったって、この機械に乗った事ないんだから知らないですよ! 聞く人を間違えてるんです!』
「くそ! いつもこれだ。この役立たず!」
――5分前までは順調に進んでいた。
とても景色のいい崖の上に到着した。遠くには海のように大きな川が流れており、そこから映る夕日はまるで宝石のように輝いて見えた。
しばし、感嘆に打たれていると。ミラクルがつまらなそうに話しかけてくる。
『早く行きましょうよ。なにぼうっとしてるんですか? やる気あります? 早くダンジョン全て攻略して惑星から出て私を探してください』
「ちっ……うるさいな」
一昨日からずっとそれだ。優しく言ってあげたのが裏目となり、前よりも現状把握が適当になっている。とにかく早く攻略してとだだをこねる始末だ。
崖下を見ると数百メートルはありそうで深い森がかすかに見える。周りを見ても崖が数十キロは続いているようでかなり迂回しなければならない。
「本当にこの道でいいのか?」
『はい! ここが一番の近道です。遠くに見える海の手前に砂丘が広がっていますよね。その中にダンジョンがあります』
「まさか、この崖から下りれというんじゃないだろうな?」
『そうですよ、だって一番近いじゃないですか』
「おいおい、本気で言ってるのか?」
実は、本来ナビしていた道はここでは無かった。テワオルデから教えられた道は遥か東側だったのだが、ミラクルは『そこは遠回りになります。絶対こっちのほうが近いです。本当ですよ! 信じてください。この軍用最新鋭のBrynkを信じられないんですか』とやけにしつこく言ってきた。ミラクルの発言は適当な事が多いが、そこまで言われたら仕方がないと、進んで到着したのがこの崖の上だった。
「どうやってこんな崖下りるんだ?」
『この機体は崖も下りられる最新型です! 本当です。信じてください!』
「本当か?! そんな機能あるのか……すごいな」と半信半疑ではあったが、そこまで言うならとゆっくり下りる事にした。一度テワオルデか誰かに相談しなかったのは完全に俺のミスだ。こいつの、「本当です! 信じてください!」は、2度と信じないと決めた。
下りるといっても高所恐怖症の感覚など吹っ飛ぶくらい高い。まるでスカイダイビングをするような高さだ。こんな崖からも下りられるとはこの機体は本当にすごい。まだまだ知らない性能が沢山あるかもしれない。もしかすると、空を飛べるような機能もあるかななどと考える余裕をもちながら進んでいく。
最初はうまく足を使って崖を下りていたのだが、足が滑った時から明らかにおかしくなった。手や足を崖のくぼみやでっぱりに当てるがうまくつかめずに下りる速度がどんどんと増していく。……とうとう、頭や肩をぶつけながら完全に操作を失い落下した。
「待てよ! 本当に大丈夫か! これまずいんじゃないのか!」
『あれ……おかしいですね』
「おかしいね……じゃないだろ! どうにかしてくれ!」
『そんなこと私に言われても何もできないですよ! そういうのは操縦者の仕事じゃないですか』
「くそ!!」
加速度や遠心力は機体の中では感じないような作りになっている。この機体は特に優れている……が流石にこの落下速度はその範疇を超えていた。過度な重力加速度がのしかかり、ノマドロボの手や足を崖に当てブレーキをかけるたびに、内部も激しく揺れた。モニターにヘルドの顔が出る。
「おい! ウエノどうなってんだこれ! だいじょ……痛!! 頭打った、クソ! どんな運転してんだ、こら!!」
「今、それどころじゃない崖から転げ落ちてんだよ!」
「ばかやろうーーー!! この下手くそが! 死ね!!」
思わずモニターを切る。
「誰だよ、崖くらい降りれるって言ったやつ!」
目の前でミラクルが屈託のない笑顔で『えへ!』っと笑う。
ヘルドの通信は全員に流していたので、みんなが異常に気が付き慌てている。このままでは機体ごとぺしゃんこだ。
ギルガメキラムとエルザレットは、即座に風の魔法を崖下に向かい唱える。だが、それでも速度は収まらない……。
あまりの重力にまともに立てない中、マオゥはおもむろに傾いているホールを平然と歩き、ドアを壊してノマドロボの外に出る。身長を6メートルほどまで大きくさせ片腕でノマドロボを抑えながら片腕を崖に当て急ブレーキをかける。
ドドゥゥゥゥ――――――――――――――!!!
急ブレーキに内部がさらに揺れ重力に押しつぶされそうになる。
とうとう、轟音をあげ地面に落下した。激しく土煙が舞う。地面に激突したかに思ったノマドロボは、マオゥが持ち上げていた。
中のメンバー全員がしばらく動けなかったという。
――サンミラ――350年後の未来へ スノスプ @createrT
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