第5話 現実

「こんな感じで、まずは元担任と再会して、その後に元カレの弟とも再会して……」


「偶然が続きすぎだよね。でもまだまだ、シズの偶然はこんなものじゃないんだよ」


「そうなんですね」


 そうなんだと頷くしかない。佐々木さんから聞いた話だと、ここから怒涛の展開になるのだ。


「元カノの弟から、元カノである兄の話になって、さすがに後輩のいる前でその話をするのもどうかと思い、やましい理由は無いので弟と連絡先を交換しました」


「注文のビール三つと唐揚げ、枝豆、刺身盛り合わせ、フライドポテトをお持ちしました」


 話している途中に注文していた料理や飲み物を店員が運んできた。せっかくなので、料理は温かいうちに食べたほうがおいしい。


「ここからは、食べながら聞こうかな。いつ聞いても、シズの話はおもしろいから」


 佐々木さんも私と同じ気持ちだったらしい。シズさんも私たちに同意でまずは食事を楽しむことにした。



「すいません。長々とお話してしまって」


「いいの、いいの。たまにはシズも気分転換しなくちゃ。あいつらに予定を合わせていたら、シズの身体が持たないでしょう?」


 話はその後、元カレと出会い、さらには中学の幼馴染と出会うという、波乱の展開が待ち受けていた。そして、元カレと幼馴染の衝撃の関係。そこからの流れで、お互いのシズさんに対する思いがあふれて、二人はとんでもない行動に移る。その後、後輩は元担任と浮気して、元カレの弟がシズさんに猛アタックを仕掛ける。


「シズ、こんなに遅い時間まで飲んでいたらダメだろう?連絡をくれたのはえらいけど、今度からはもっと早く切り上げないと」


「ごめんね、コナツ君。このことはマコトやユウイチは」


『残念でした』


 シズさんの話を思い返していたら、彼女の話に登場した彼らがシズさんの迎えに現れた。居酒屋を出たのは午後十一時過ぎ。次の日は、私は仕事だが午後からの勤務で、彼女達は休みだった。駅近くの居酒屋で飲んでいたので、終電には間に合う予定だった。


「お久しぶりです。三人ともお元気そうで」


「ああ、佐々木さんか。結婚、決まりそうなんだよね。オメデトウ」

「まさか、佐々木さんも高校時代の元カレと成婚なんて、すごい偶然だよね」

「俺の場合は、元カレの弟だけ」


『俺たち三人がシズの旦那だろ』


 なんだか現実味のない展開が目の前で繰り広げられている。シズさんに最初に声をかけたのが書類上の夫の元カレの弟「コナツ君」。その後に来たのが元カレでコナツ君の兄「マコトさん」と幼馴染の「ユウイチさん」。


コナツ君とマコトさんは兄弟ということでよく似ていた。目がぱっちりとした健康的な肌をしたイケメンだ。ユウイチさんはシズさんと同じ色白で銀縁メガネをかけたインテリ系のイケメンだった。



 最終的にシズさんとコナツ君が婚姻届けを出して夫婦になった。しかし、マコトさんとユウイチさんはそれを認められず、シズさんとコナツ君の家に乗り込んだ。そして、シズさんとコナツ君は兄たちの執念に負けて、四人で住める家に引っ越した。


 こうして、シズさんとイケメン三人の奇妙な同居生活が始まったというわけだ。下世話な話になるが、夜の方はいったいどうしているのか。気になるところだったが、他人の性事情なんて気軽に聞けないので、謎のままだ。


 私の予想ではシズさんとコナツ君はノーマルにやっている。マコトさんとユウイチさんはもともと同棲していたくらいで、コナツ君も二人は付き合っていると公言していたので、ここもカップルとしてやっている。だとしたら、その他の乱交がどうなっているのか。


 もし、彼らの同性カップルの間に子供が欲しいとなった場合、どうするのか。シズさんに頼る可能性が高い。そうなると不倫になってしまうわけだが、一緒に住んでいる以上、彼らともやっている、と思われる。


 三人のイケメンが迎えに来たとなれば、その場で解散せざるを得ないだろう。この後の展開は容易に想像できる。シズさんを取り囲んでの乱交パーティーでも始めるのかもしれない。


 相談に乗ってほしいということだったが、シズさんは今の生活を不安に思っているが、辞めようとは思っていないらしい。だとしたら、ただ私たちに話していたのはのろけだったと言えよう。私も話を聞くだけでアドバイスはしなかった。



「面白いでしょ。彼ら、シズのことが好きだけど、意外に彼女の意思を尊重しているみたい。まあ、自由にした分の代償は身体で払っているみたいだから、それもどうなのかなとは思うけど」


「面白いですね。こっちの方を漫画にしたいくらいです」


「漫画?」


「ああ、弊社で相談所の魅力を伝えるプロモーション漫画を作ろうということになっていまして。失礼ながら、佐々木さんのことを元に原案を考えていまして」


「私?」


 シズさんは彼らのお持ち帰りされてしまったので、帰りは佐々木さんと二人きりだ。駅までの道のりをのんびりと歩いていく。私は、この際なので会社のプロモーション漫画のことを佐々木さんに話すことにした。もしかして、私の案が採用された際にプライバシーの権利を主張されて掲載が中止になったら大変だと思ったからだ。


「ああ、元カレと再会して成婚、っていうのが受けるから、という事ね。確かに、それだけなら、時を経て出会った彼と……という感じだよね。私は別に構わないよ」


 佐々木さんからは許可を得ることができた。今日はとても有意義な時間を過ごせた。私たちは駅で解散した。月が夜空にきれいに見えていた。



 後日、私は佐々木さんヲもとにした原案を社長に提出した。


「いいんじゃないの。元カレと再会とか、少女漫画みたいな出会いからの結婚とか憧れるわ」


「そうですよね」


「なんだか不満そうな顔だけど、自分で出した案に納得がいかないのかしら?それとも、もっとすごい隠し玉を持っている?」


「いえ、これはプロモーション漫画としては最高に良いと思います。ですが……」


 私はおずおずともうひとつの原案を社長に手渡した。それは、居酒屋から帰った後に、睡眠を忘れて書きだした、シズさんの体験談の箇条書きだった。


「すごいことになっているけど、これはいったい……」


「プロモーション漫画にはできないので、私がこれから小説にしようかなと思っています」


 もし、これを宣伝に使ったとしたらどうだろうか。彼女自身は幸せそうだが、はたから見たら、男を三人も囲ったみだらな女に見えるだろう。それを可能にした結婚相談所は悪魔とでも呼ばれるかもしれない。


「そういえば、人見さんは趣味で小説を書いていたわね。いいんじゃないの?会社の名前を出さなければ、私は気にしないわ。私もぜひ、小説の形で読んでみたいし。期待しているわ」


私は社長のお墨付きをもらって、シズさんの許可も得て、彼女の体験談を小説にすることにした。


 ちなみに私の原案(佐々木さんの成婚談)は無事に漫画の原案に選ばれた。後日、漫画家さんと打合せする予定が入っている。


 結婚相談所には出会いがたくさんある。もし、婚活を考えているのなら、ぜひ当店にあなたの婚活をサポートさせて欲しい。もしかしたら、幸せな出会いや再会、悪魔の再会もあるかもしれない。


 それは入会してみないとわからない。それに、結婚の形や幸せの形は人それぞれだ。誰にも文句を言われる筋合いはない。

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最高の出会いが待っています!~結婚相談所にぜひ、ご入会下さい~ 折原さゆみ @orihara192

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