第32話 見知らぬ美少女とDQN
「やっほ、つくしくん」
「何しに来たんですか、先輩……」
恩返しをする予定だった土曜日の朝、何の前触れもなく真由美さんが我が家にやってきた。
「キミのことが大好きで仕方がないお姉ちゃんに、友達とのお出かけに向かう可愛い弟を見てきて欲しいって言われたの」
「……なるほど」
姉さんの仕業か。
「どうせ女の子とのデートに行くのに、いつもの地味でかっこよさの欠片も無い見た目で行くつもりなんでしょ? って言ってたよ」
「嘘つけ」
前言撤回。
どうやら真由美さん自らの行動みたいだ。
「バレた?」
「そりゃあね。姉さんは俺の見た目をチクチク指摘しないし。そもそも姉さんに『デートに行く』とは言ってないし」
ていうか、そもそもデートじゃねぇし。
「まぁ、それもそっか。重度のブラコンだし」
腑に落ちるような、それでいいのかと問いたくなるような言葉で納得した真由美さん。
姉さん、本当にそれでいいのか……??
「とにかくっ、早く支度して!!」
「あぁ、はい」
急かされて、自室からカバンを持った俺。
それを肩に提げてすぐ、玄関の扉を開けたのだが……。
「えっ? それで行くの?」
何故か驚いた真由美さん。
けれど構わず俺が首を縦に振ると、今度は頭を抱えて溜息を吐いた。
「……はぁ、マジかぁ」
「あの……、このカバン、まずいですか?」
「カバンじゃないわよ! 服装!! あとボサボサな髪型とか、汚れた靴とか、その他諸々!! これでよくもまぁ、彩乃ちゃんの隣を歩こうと思ったわね!!」
「……なんか、すみません」
「……まぁ、いいわ。とにかく行きましょう」
こうして俺は真由美さんに連れられ、服装や髪型を徹底改造された。
〇
「……彩乃のやつ、遅いな」
そして迎えた当日。
いつもの駅前で、俺はワックスに
久しぶりの散髪で髪は軽くなったものの、「絶対に髪型崩さないでよね」という真由美さんの言葉のせいで落ち着かない。
ちなみに真由美さんは、俺のファッションチェックとヘアメイクと題して、今朝から俺の家に来てくれたのだ。
ここまで尽くしてくれるあたり、姉さんにそっくりだ。
「それにしても、マジで来ないな……」
待ち合わせ時間は10時。
しかし腕時計の長針は12よりも右側を指していた。
ちなみに腕時計は真由美さん経由で姉さんから貰ったものだ。
「……ちょっと、電話してみるか」
そう言って、ケータイを取り出そうとした瞬間だった。
「どしたん? 一人?」
「良かったらオレたちと遊ばない??」
白昼堂々、複数のDQNが、見知らぬ美少女にしつこく迫っていた。
その少女の涼し気な水色の半袖ジャケットと花柄のワンピースは少し大人っぽくて。
そして耳の
だけど吸い込まれたのは、不幸にもDQNだったというわけか。
「──おい」
だから俺は、咄嗟に声をかけた。
ただ、俺の嫌いなDQNが彼女にしつこく迫ってたから、彼女を助けようと思っただけ。
ただ、相手が見知らぬ美少女でも、その子が楽しみな休日をDQNに台無しにされるのを見てられないと思っただけ。
「は? 誰だおまぇっ!!??」
そして声をかけてすぐ、俺は
「くっ……、がはっ! ……くそっ、またかよ!!」
あぁ、コイツ。公園で出会った奴と同じか。
「おい! しっかりしろ!!」
「あの先輩を一撃で……!! まさかアイツって……」
けれど以前と違うのは、仲間の数。
しかし連れは二人とも、襲いかかる雰囲気は無かった。
「……いや、違う。たぶん、……なんか、見た目が、違うっ」
「おい、もう喋るな。行くぞ」
「……ぉぇっ。吐きそう……」
ちょっと蹴りが強すぎたか。
そんな思いを抱きながら彼らの背中を見届けて、俺はすぐ立ち去ろうとした。
「あっ、あのっ!! ありがとうございましたっ!!」
お礼を言う美少女には一切目もくれず。ただ、ひらひらと手を振って。
「……てか、彩乃のやつ、まだ来ねぇのかよ」
そういえば、と思い出してすぐ。
たまらず俺は彩乃に電話をかけた。
きっと聞こえてくるのは寝起きの声か、あるいはゼェゼェハァハァといった荒息混じりの声だろう。
『あっ、もしもし先輩ですかっ?』
しかし電話に出た彩乃の声は平然としていた。
「『先輩ですかっ?』じゃねぇよ。今どこにいるんだよ」
『先輩こそっ! 今どこにいるんですかっ!?』
「は? もう駅にいるけど??」
『わたしこそ、10分前からずーっと先輩を待ってたんですけどっ??』
まさか、いつも通りの待ち合わせ場所で会えないなんてことあるか??
とりあえず辺りをキョロキョロ見渡してみるが、目に見えたのはさっきの美少女も同じく誰かに電話しているのが見えただけ。
……まさか彩乃のやつ。遅刻してるのに嘘ついてるのか?
「じゃあ今、どこにいるんだよ?」
『今はそのっ、先輩を探しにちょっとだけ動いて。……それでまぁ色々あって、今はバス停近くにいるんですけどっ』
バス停近く?
しかしそこには、さっきの美少女しか立っていない。
……いや、まさか。
『……もしかして』
「……その、まさかだよな」
見知らぬ美少女が、俺に指をさす。
そして俺もまた、信じられないと言いだけに彼女を指さした。
親友に彼氏をNTRされて泣いてる後輩美少女に、初対面の俺が「話聞こうか?」と聞きまくってみたら 緒方 桃 @suou_chemical
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