第27話 九月
砂浜に繋がる階段に腰を掛けると、砂のじゃりっとした感覚が気になる。
日笠は海辺で、寄せては返す波をじっと眺めていた。
海特有のしょっぱいような生臭さのあるような匂いが鼻についたが、風が吹くとあまり気にならない。遠くに響く波の音がなにか心地よかった。
日笠の隣には帆景がいて、苛立たしげに電話をしている。
「緑川いつ来んのー? もー先帰っちゃうよ! 仕事と日笠どっちが大事なわけ!?」
「勝手に俺を巻き込まないで」
『悪い……日笠のほうが大事だから……でも仕事が全然終わんなくて……』
緑川の声には申し訳なさがにじみ出ていた。
「無理しなくていいよ。仕事頑張って」
スピーカーフォンにしていたので日笠も会話に混ざる。
「いいもんね、二人で楽しんでやるから! お仕事頑張ってーばいばーい」
『くそっ、絶対行くから待ってろよ!』
帆景はぶちっと通話を切ってスマホをしまう。
「じゃー二人で昼ごはん食べよっか。なんか食べたいものある?」
「そうだな、あっちの方に海鮮丼屋があるらしいから行ってみない?」
日笠がさっき調べた情報を元に提案すると、帆景は目をぱちくりと瞬かせた。
「……あれ、魚嫌いだった?」
「ううん、超好き。いいよねぇ海鮮! いってみよ!」
二人は立ち上がり、服に着いた砂を払った。
「にしても休みかぶってよかったねー。マジ大変じゃない? 日笠、ほんとに部隊辞めなくてよかったの?」
彼女に消してもらったはずの能力は、三日もすれば元に戻ってしまった。彼女の能力が壊れていたからとか、そもそも能力は失っても回復するのかも、とか色々言われたがよくわかっていない。あの行動は予知になかった、と緑川が苦々しく言ったのはまだ記憶に新しい。
その後日笠は、再編された能力犯罪者対策部隊に協力することを選んだ。
「迷ったけど……。気づいたんだ、帆景たちと一緒に戦って、帰りにご飯食べるのとか楽しかったなって」
つらいことも多かった。でもそれだけじゃない。
それに、能力が戻った時ひどくほっとしたのだ。この能力のことも案外嫌いではないのかもしれない。
「そっかぁ……でも無理すんなよ」
「うん、もう大丈夫」
日笠は砂浜に目をやる。
もうシーズンは終わったためか海にはあまり人がいない。犬の散歩をしている人やサーフィンしている人なんかがぽつりといるくらいだ。
「そういや海で良かったの? もうクラゲやばいから泳いだりできないけど」
「うん」
ここへ旅行に来ることは、日笠のリクエストだった。
「海が見たかったんだ」
日笠はスマホを取り出し、海の写真を一枚撮る。
遠くから見る海はなかなか悪くないと、そう思った。
夏の終わりに報いを受けて死ぬ君へ 真樹 @masaki1209
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