20輪目【わたしたちに優しくない世界】
「……大好き」
放課後の学校。下校時間はもうとっくに過ぎている。
静まり返った誰もいない屋上で、わたしたちはキスを交わし合う。
わたしこと〝りり〟と恋人の〝まどか〟のあいだに甘い吐息が漏れた。
「……そのままわたしを押し倒して」
わたしがそう言うと、まどかは荒い息遣いで、こくりと大きく頷いた。
そして、優しくわたしを押し倒す。
「覚悟は出来てるよ。わたしを抱いて」
心臓の鼓動が早くなる。まどかはわたしの上に覆いかぶさり、そして、慎重にその先を続けた。
「……んっ」
再度わたしの口から、甘い吐息が漏れる。
その声を聞いたまどかは、驚いた素振りで、わたしの身体から手を離した。しかし、すぐさままたその続きを始める。
「……わたし、人生で今が一番幸せ。だって、今まどかの瞳に映っているのは、わたしだけだから」
〝ありがとう〟
わたしがそう呟くと、まどかは笑いながら泣いた。
ギュッと。強く強く、まどかを抱き締める。
「何度でも言うけど、わたしはまどかが好き。わたしはまどかが大好き」
わたしはまどかの首に手を回すと、そのままそっとキスの続きを交わし合う。
――フィナーレはもうすぐだ。
しばらくして。わたしたちは起き上がると、互いの顔を見合わせる。
「もう思い残すことは一つもないよ」
いい頃合いだ。
「そろそろ行こう。準備はいい?」
少し驚いた様子のまどかだったが、しかし、すぐにはっとする。
小さく、それでいてしっかりと、首を縦に振った。
改めて言うが、ここは学校の屋上。
わたしたちはフェンスに手を掛けると、そのまま勢いよくフェンスを乗り越えた。
そして、二人でパラペットの上に立つ。
「手を繋ごう」
わたしたちは痛いくらいギュッと手を握る。
不安の為か、まどかの手が小刻みに震えていた。
「……大丈夫、怖くないよ。わたしたちは次の世界に行くんだよ」
深呼吸をする。二人で思いっ切り。
「さあ、サヨナラの時だよ」
この世界はわたしたちにとって、優しくなかった。
これ以上この世界にいても、多分辛い思いをするだけ。
もはや、残された選択肢はたった一つ……。
わたしたちはもうこの世界に見切りを付けていた。
「もしも、叶うなら、痛くないといいな……」
まどかに聞こえないようにポツリと呟く。
どうかどうか、〝死〟が一瞬でありますように……。
全ては、嗚呼、全ては、次の世界で
「いつまでも、ずっとずっと一緒だよ」
〝またね〟
『地獄の底まで愛してる』
貴方に捧ぐ百合の花 木子 すもも @kigosumomo
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