19輪目【可愛いキミが大好き】

 まず最初に思ったのは可愛い。

 次に抱き締めたい。

 最後にちゅーしたいだった。

 一目見た瞬間、あたしの心は、その子に打ち抜かれてしまった。

 あたしにとって、初めての恋。

 それは高校一年生の秋、突然訪れるのであった。


 ショッピングモールの最上階にある、クレーンゲームやアーケードゲームなど、様々なゲーム機が置かれている、広々としたゲームコーナーで、小さな子供たちが楽しそうな声を上げている。

 子供たちは思い思いのゲームに興じていた。

 あたしは一人その中に混ざって、女児向けゲームの『コイカツ!』に夢中になっている。

 『コイカツ!』とはトレーディングカードを使った『国民的女帝を育成するアーケードゲーム』だ。

 詳しい内容は割愛するが、一年前、『コイカツ!』と出会って以来、あたしはこのゲームに大ハマりし、毎日欠かさずここで遊んでいるのだが、ここに来ている理由は秘かにもう一つあったりする。

 それは――、

「か、かなえちゃん、こんにちは……」

「あ、うたちゃん! こんにちはです」

 あたしが好きな女の子、かなえちゃんはひらひらと手を振る。

 かなえちゃんはあたしと同じ、『コイカツ!』にハマっている女の子だ。

 年齢は少々あたしと離れていて、現在小学五年生。

 一緒にいるところを傍から見られたら、明らかに違和感を感じる年齢差だ。

 でも、『コイカツ!』を通じて、あたしたちには確かな友情が芽生えていた。

 いや、ぶっちゃけて言うと、あたしのこの思いは友情とかじゃなくて、やましい系のあれなんだけど……。

「なんかうたちゃんと会えると、凄く安心します」

「えっ、えっ!? ど、どういうこと?」

「あははっ! さぁ。どういうことでしょうね」

 一言で言うと、かなえちゃんは小悪魔だ。

 小学生特有の何とも言えない可愛さがある。

 もしも、たった一つだけ願いが叶うなら、かなえちゃんを抱き締めて、そのままちゅーをしたい。

 あたしは切実にそう思う。

 ここまで言っておいて、今更かもしれないが、一応言っておく。

 あたしはロリコンではない。

 たまたま好きになった子が小学生だっただけだ。

 だから、勘違いしないで欲しいのだけど、あたしは正常だ。

「なあに、難しい顔してるんですか?」

「い、いや、その……、ちょっ、ちょっとね……」

「わたしに……変なことしたいとか思っていたりして」

「え、ええっ!? な、なんで、急にそんなこと言うの?」

「だって、うたちゃん、なんか悪い顔してるから。あははっ!」

 あたしってそんなに顔に出るタイプなのかな……。

 鏡が見たい。顔を弄りながら、あたしは赤面する。

「図星だったみたいですね」

「い、いや、そ、そんなことは……」

「警察に通報しますよ」

「ひゃあっ! ご、ごめんなさいっ! 本当にそんなつもりはなくて……」

「じゃあ、どういうつもりで?」

「あ、あたし……!」

「場所を変えましょうか」



 あたしたちはゲームコーナーを離れ、店内のくつろぎスペースにいた。

 今は二人でベンチソファーに座っている。

「で、わたしに何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

 かなえちゃんはあたしの目をじっと見ながら、意地悪そうににたにたと笑う。

「そ、そそそその……!」

「なんですか?」

「あ、あたし、かなえちゃんのことっ……!!」

 一瞬間を置いて、大きく息を吸い、そして、吐き出す。

 そのままはっきりとした声で言った。

「す、好きなんだっ!」

(あばばばばばばっ!!)

「それは困りましたねぇ」

 ごめんなさい。小さな声でそう呟くと、かなえちゃんは下を向いた。

「……だよね」

「わたしたち、小学生と高校生ですよ? もし付き合ったりなんかしたら、大人たちから怒られちゃいます」

「うん……」

「だから」

「?」

 あたしは疑問符を浮かべながら、その先を促す。

「……が」

「うん?」

「わたしが……大きくなるまで……その、待っていて欲しいです……!」

 かなえちゃんは顔を真っ赤にしながら、上目遣いがちにゆっくりとそう言った。

「かなえちゃんが大きくなったら、付き合ってくれるの!?」

「はい。わたしが大きくなったら、良いですよ」

「やった!」

「……それまで、うたちゃんが他の女の子に浮気してなきゃですが」

 かなえちゃんがジトっとした目であたしを見てくる。

「う、浮気なんかしないよっ!」

「じゃあ、約束です」

 互いに小指を差し出すと、少し強めに指切りを交わし合う。

「未来が楽しみですねっ!」

 ほがらかに笑うかなえちゃんだったが、あたしには少々の不安があるのであった。


          *


 そして、時は流れ――。

 あれから、五年の歳月が経った。

 かなえちゃんは高校一年生になり、今ではあたしを見下ろすほどに成長した。

「……ねぇ、うたちゃん。今でもわたしのこと好きですか?」

 あたしは神妙な面持ちでこう答える。

「……小さかった頃の方が好きだったかな?」

「くたばりやがれです!! このロリコーン!!」

 強烈無比なぐーぱんを顔面に食らい、あたしはその場で意識を失った。


          *


「――はっ!」

 勢いよく飛び起きる。

 目覚めると、あたしはショッピングモールのくつろぎスペースにいた。

「あたしはいったい……」

 ぼーっとする頭を叩き起こす。

「うたちゃん、わたしに告白したあと、何故かそのまま意識を失っちゃったんです……」

 かなえちゃんは泣きそうな声で、『心配しました……』と言った。

「そうだったんだ……」

「ごめんなさい。わたしが悪いんです」

 あたしは自分がロリコンという事実を確認した。

 このままかなえちゃんと一緒に居ても、恐らくかなえちゃんを傷付けるだけだろう。

 あたしはかなえちゃんから、身を引く決心をする。

 しかし――、

「わたし、実は小学生じゃないんです」

「え?」

「うたちゃんと同じ、高校一年生なんです……」

 かなえちゃんはさめざめとそう言った。

「ど、どうしてそんな嘘を……?」

「だ、だって、高校生にもなって、女児向けゲームに夢中って恥ずかしいじゃないですか……! 周りもみんな小さな子供たちばかりですし……」

「い、いや、それは、若干偏見が入っていると思うよ……。高校生が女児向けゲームを好きでも、別にいいじゃない……」

 たまにだけど、あたしたちより年上のお兄さんお姉さんも『コイカツ!』で遊んでいたし……というと、かなえちゃんは『でも……!』と大きな声を上げた。

「……うたちゃんがそれで良くてもあたしはそうじゃないんです! だから、うたちゃんにもずっと小学生って言ってました。わたし、童顔で小柄だから、いつも高校生に見えないって言われてるし」

「そ、そうだったんだ……」

「あとっ……!」

「な、なに?」

「うたちゃんにだけ言わせちゃうところでしたが、その、わたしも……、うたちゃんのこと……」

「?」

「実は好きなんですっ!」

 ありったけの声で、人目もはばからず、かなえちゃんはそう言った。

「ええっ!?」

「だから、うたちゃんがもし良かったら、わたしと付き合って貰えないですか……?」

 あたしの手を取りながら、切なげな表情で、かなえちゃんは懇願する。

「あ、あたしで良ければ、それはもちろん喜んで」

 まさかの合法ロリ。

 その事実にあたしは、欣喜雀躍きんきじゃくやくした。

 あたしたちは互いに笑い合いながら、そっと優しく手を絡ませる。

「これからよろしくね、かなえちゃん」

「こちらこそよろしくです、うたちゃん」

 あたしたちは人目をはばからず、その場で口づけを交わそうとする。

「お巡りさん、こっちです」

 が、突然の闖入者ちんにゅうしゃによって妨害された。


 ――あたしの未来は前途洋々だ。

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