第21話 カキ氷
「キミはテオについててあげてね」
『もちろんよ! 少しだけ情けない子だけど彼にはワタシしかいないんだもの』
やっぱり土の精霊とサクラが会話しているよね。二人は目線を合わせているし、今は二人揃って俺を見て笑っている。
「有り得ない。俺が呼んだ精霊は俺にしか見えず、声も聞こえないはず」
「普通はそうらしいねー」
あははと両手をプラプラと振るサクラに対しタラリと冷や汗が流れ落ちた。
髪の毛の色が変わるし、複数の精霊を使うことができるし、他人が呼んだ精霊と会話しちゃうしで何もかも規格外過ぎる。
この子……一体何者なんだ。
魔王が倒されるまでは彼女も兵士をしていたのかな? これだけ精霊に愛されているとなると戦うことができないにしても重宝される。
もし彼女が俺と同じ兵士をやっていたとしても、俺と出会うことはないか。
彼女なら上層部か最前線だろうし、僻地で一人砦のメンテナンスをしていた俺と接点などあろうはずがない。
『じゃあねー。浮気したらダメよ』
「しません。しません。僕には土の精霊さんしかいません」
突然でてきた土の精霊が気まぐれにバイバイをして消えて行った。
「ね、あの白い建物がテオのおうち?」
「うん、完成したばかりなんだよ」
土下座する勢いだったので、両ひざをぽんぽんとして埃を払う仕草をしつつ何事もなかったかのように我が家に向かう。
そんな俺に対し、彼女は目をキラキラさせながら横を歩く。
「おおー。真っ白の豆腐みたいなおうちなんだね」
「豆腐?」
「こう、四角い白い食べ物なんだよ。知らない?」
「聞いたことないなー」
なんて会話しつつ、ペタペタと真新しい白い壁に触れるサクラ。
「入っちゃっていいの?」
「うん、まだ何もないけどなー」
「わああ」と声をあげたサクラが物珍しそうに部屋の壁や床に触れる。
楽しそうにしている彼女の姿を見て俺も嬉しくなってきた。
単なる新居じゃなく自作したものだから、誰かに見て欲しい気持ちも強く楽しそうにしていたら自分の作品を褒められているようでさ。
「広いところがリビングとキッチンになるのかな? それと、寝室が二つ。同居人もいるんだね」
「一時的のつもりだけどね。まだ他に家が建ってなくてさ」
「そうだったんだ。何も無いところからだと大変だよねー」
「そそ」
みんなどうするつもりなのかな?
同じタイプの家だったら俺とタニアで建築可能である。
どうしようかなと考えて立ち止まっている俺と異なり、彼女はさっきからずっと動きっぱなしだ。
今度は窓をはめ込んでいない窓枠から身を乗り出し、外を眺めこちらに顔を向ける。
「地下室を作ったのってテオだよね?」
「そうだよ」
「家は別で作ったんだよね?」
「そそ」
「白にしたかったからかなー?」
「色は白だと綺麗だけど、家の形をしていたら拘りは無かったかな」
どうにも彼女の意図が伝わってこないな。一体何が言いたいのだろう。
俺の疑問に応じるかのように彼女が地下室の壁を指さす。
「掘って、固めるんだよね。だったら、家のようになるようにして固めることもできそうだよ?」
「あ、屋根なしにして部屋みたくするならできそうだ。いやそれも固めることと元に戻すことをしたら漆喰の家みたいにはできそう」
「でしょでしょー」
「次に作る地下室で試してみようかな」
この発想はなかった。だけど、漆喰の家を作る前の俺だと思いついても実行に移せなかったと思う。
今この時に彼女から良いアイデアをもらえたのは一番良いタイミングだった。
うんうんと彼女の意見を嚙みしめていたのだが、彼女の興味は次に移る。ほんとクルクルクルクルと忙しい。
「テオ。ボク、見たいところがあるの」
「ん、農場かな?」
「地下室で農業をしているの? それも見たいなー」
「農場じゃないとしたら、保冷庫くらいしか」
「それ、それが見たい」
腕を引かれ、新居見学も早々に地下深くに移動することになった。
「すごいすごい」
「そ、そうかな」
「冷凍庫もあるんだよねー?」
「お、おう。更に下だよ」
寒すぎて長居はできないけど、凍らせてある食材も多少ある。
保冷用の地下室は所せましになってきているが、冷凍の方はまだまだスカスカだ。
「もっと冷凍の方に運ばないのー?」
「奥深くになって運ぶのも大変だしなー」
冷凍用の地下室のガランとした様子を見て彼女が尋ねて来た。
そのまま彼女にありのままを伝えたら、「うーん」と顎に指先をやった彼女が続ける。
「保冷庫にあったたくさんのお肉ってすぐ食べるのー?」
「保冷しているとかなり持ちがよくなるんだけど、それでも傷むから腐る前に食べるつもりだよ」
「冷凍するともっと持つよー。解凍が大変だけど」
「そうなのか。解凍が大変だからなあ。外に置いておくとすぐ解凍されるけど、放置したらすぐ腐る……」
「難しいねー」
「んだんだ」と頷き合う。
次にサクラが目をつけたのは氷だった。
水をためておいておくといくらでも氷を作ることができるんだよね。
「食べたい」と言っていたけどここじゃ寒いし、氷を持って住居のある地下室まで戻る。
「削るのはないよねー?」
「ノコギリならあるけど」
「あはは。よおし、じゃあ、風の精霊にお願いしよう」
「氷を削るのに精霊って……」
なんて贅沢な使い方をと思ったが、価値観は人それぞれ。
氷の塊を一体どうするんだろう? コップに入れるだけなら砕けばいいんだが、違う用途に使うのかな?
彼女が指をパチリと鳴らすとあっという間に氷の塊がシャリシャリと削られていき、器に重なっていく。
「これにい、水あめとブルーベリーを乗せてっと」
「よく持っていたな」
「えへへー。ブルーベリーはそこの森で採集してきたのだー。水あめは王都で買ったものだよ」
「へえ」
「これでカキ氷の完成! 食べよ、テオ」
「ありがとう」
氷をふわふわに削って水あめにブルーベリーか。
どれどれ。
「牛乳を凍らせて削るともっとふわっとするんだよー」
「ほほお」
などと言いながら、さっそくカキ氷を頂くことにした。
悠々自適な砂漠の地下室スローライフ~案外快適なので街を目指してみようと思う~ うみ @Umi12345
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