実話怪談エッセイ『遊びの誘い/呪いにかけられて』

 前回で最終回にする予定でしたが、エッセイコンテストに実話怪談を応募するという、ある種の暴挙に出た作品を発掘しましたので、紹介します。



『遊びの誘い』


 高校二年生の秋、文芸部に所属していた私は機関紙用に実話怪談を執筆することになった。

 元にしたのはゲームセンターで出会った友人Sの体験談で、粗筋はこうだ。

『Sさんが中一の夏に帰省した際の話。ある日、渓流釣りに出かけた先でNと名乗る小学五年生くらいの少年と出会った。穴場を教えると言う少年に案内されるがまま川を下ると、洞窟のある静かな滝壺に出た。

 そこではかなりの釣果をあげることができたそうだ。Nが次は洞窟探検をしようとしきりに誘うので、じゃあ明日もここで遊ぼうと約束した。

 翌日、大人達の騒ぐ声で早くに目が覚めた。滝壺近くの洞窟から子供の遺体が発見されたらしい。死後一ヶ月は経過していると聞き、Sさんは震えた。ある予感を覚え、母に少年の名を尋ねた。

 Nだった。

 今でも洞窟に誘う少年の笑顔を忘れられないそうだ。』

 ある日、いつものように放課後ゲームセンターに寄ると、Sが導入されたばかりの渓流釣りの体感シミュレータで遊んでいた。

「あれ、珍しいジャンルやってるね」

「実は釣り、好きなんだよ」

 Sは笑いつつ、上記の思い出を語ってくれた。

 その後、何度か本物の釣りにも誘われたのだが、日程が合わずに断り続け、卒業後は会うこともなかった。

 ところで、この前当時のゲーセン仲間達と久々に飲む機会があったので、「Sって、どうしてる?」と尋ねてみた。すると皆一様に「そんな奴いたっけな?」と首を傾げるのだった。


《自作解説①》


 『文章トレーニングジム』の第8回、技術的課題「リズム」・エッセイのお題「忘れえぬ人」に応募した作品です。エッセイコンテストに実話怪談はアリなのか試してみたくなり、執筆してみました。

 実はこの回、もう一作品応募しておりまして、以下に紹介するのがそのエッセイです。



『呪いにかけられて』


 怪談が苦手だ。

 聞けば耳がゾワゾワ、読めば目がチカチカする。なぜか? 原因はバスガイドさんだ。

 話は小学五年生の林間学校に遡る。私の組の往路を担当したガイドさんは話の上手な人だった。乗車後すぐにユーモア溢れる自己紹介で生徒の心をつかむと、次に目的地の名所を子供にも興味がわくエピソードをまじえて紹介。名所案内が終わると、私たちは次の話をせがんだ。

「どんな話が聞きたいの?」

「怖い話!」

 すかさず友達がリクエストした。恐ろしい体験をすることになるとも知らず……。

 人里離れた雪の山荘。老いた管理人夫婦。美しい孫娘。日本人形。事故、殺人、繰り返される非業の死――。あまりにおぞましく、耳を塞ぎ、目を閉じたくなるほどの物語。だが、結末が気になり、語りから逃れられない。

 そして、ガイドさんは最後にこう結んだ。

「この話は二日以内に忘れてください。忘れないと一人きりの時に背後から声を掛けられます。でも、絶対に振り向いてはいけません。ふりむいたら……霊に連れていかれます」

 もはや林間学校どころではない。二日間を怯えて過ごした。林間学校を終えて家に帰ってからも落ち着かない日々を過ごし、そして、怪異は起こらなかった。心底ホッとした。

 あれ以来、怪談が苦手になった。けれども、題名に『怪談』の入った本や映画を見かけると気になってしまう。ゾワゾワチカチカに耐えながら、話を追いかけずにはいられない。今も、バスガイドさんと、あの日、語られた物語を忘れられずにいる呪いだろう。



≪自作解説②≫


 生まれて初めての自己責任系怪談(しかも後出し!)の衝撃は強烈でした。本当に林間学校を楽しむどころではなくなりましたから。なんと罪作りなバスガイドさんでしょうか。

 でも、おかげでホラー小説や、映画、実話怪談のおもしろさを知ることができ、執筆のおもしろさにも目覚めました。正直、散々怯えさせられた怨みもほんの少しはありますが、感謝の念のほうがはるかに大きいです。


 これからカクヨムさんで発表する作品も、ホラーもしくはホラー要素を含んだミステリーやファンタジーが中心となる予定です。執筆の際はこの時感じた恐怖体験を原点に書いていこうと思います。


 まずは他サイトさんで発表しましたホラーミステリー短編作品を、カクヨムさんのフォーマットにブラッシュアップし、三回ほどに分けて発表する予定です。

 そちらもお付き合いいただけたら幸いです。

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吉冨いちみ(旧名えもとえい)公募ガイド投稿掌編小説集 吉冨いちみ @omelette-rice13

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