エッセイ「まさかの時のゆとり裁判」(公募ガイド『文章表現トレーニングジム』第4回優秀賞受賞作品)

「僕らの扱われ方って、魔女狩りに似ているんですよ」

 そう語るのは会社の後輩B君、二四歳。ゆとりについてどう思うか尋ねた私に、彼は日ごろ感じる憤りをぶちまけてくれた。

「やれ、ゆとりは常識を知らないだの、根気がないだのと上の世代は難癖をつけてきますけど、そんなのは根拠のない言いがかりですよ。普通の人を魔女と決めつけて宗教裁判にかけた異端審問官のように理不尽です」

 なるほど、言いえて妙である。「魔女」というレッテルを「ゆとり」に貼り替え、現代社会は若者を責めさいなむ。

 それにしても宗教裁判とは……。『スペイン宗教裁判』――英国のコメディグループ『モンティパイソン』が演じた名作コントを連想させる言い様ではないか。三人組の異端審問官が現代の様々な人々の前に現れて、唐突に宗教裁判を始めるというこのコントは、三人組が繰り広げるとぼけたやり取りがとにかく可笑しい。特に番組終盤、ネタふりがあったにも関わらず、出番に間に合わず、ついにはスタッフロールが流れ『The End』が表示される大オチなんて最高だ。

「ちょっと、なに笑ってんですか。話聞いてます? 先輩!」

 おっと、いけない。どうやらB君のうっぷんは文字数六〇〇字で『The End』とはいかないようだ。これはとことん彼と飲み明かす覚悟が必要か。やれやれ、奢ると約束したけれど、財布にもあまりゆとりはないのだが……。



《自作解説》


 本作は公募ガイドの定期購読を開始して、最初に挑戦した600字エッセイです。ビギナーズラックで優秀賞をいただき、本誌に全文を掲載していただきました。多くの人に自分の文章が届く機会を得た嬉しさを噛み締めたことを覚えております。


 『文章トレーニングジム』は表現技術とエッセイのテーマ自体の二重の課題のもとに、600字内でエッセイ作品を仕上げるコンテスト。第4回の技術的課題は「気の利いた結末」で、テーマは「ゆとり考」でした。


 「ゆとり」。エッセイのテーマとして、それだけでも難しい課題です。しかも技術的課題が求めるのはユーモア。実際に自分が体験したすべらないエピソードトークはすぐには思い浮かびません。しかし、課題には挑戦したい。すみません。白状します。悩んだ私は一から十まで創作しました。


 ということで、本エッセイは創作ショートショートとして、とらえていただきますようお願いいたします。


 公募ガイドへの応募作品紹介シリーズは今回をもって一応の最終回とさせていただきますが、もし、これまで紹介した12作品の中から、一作でも印象に残ったよ、おもしろかったよ、という作品がありましたら、作品ごとにハートか感想をいただけますと、筆者である吉冨いちみが喜びます。


 気に入った作品が一作なら、評価欄で★をひとつ、二作なら★をふたつ、三作以上なら★をみっつ押していただき、さらに気が向いたらレビューでも感想を伝えていただけるとより嬉しいです。今後カクヨムさんでの発表を続けるモチベーションにも繋がります。重ねてよろしくお願いいたします。


 ここまで読んでいただきました皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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