裏庭を愛する小鳥来たりけり(西村和子)

 作者:西村和子(1948~)


「荒海や佐渡によこたふ天河あまのがわ」(芭蕉)、「五月雨や大河を前に家二軒」(蕪村)、俳句はこんな雄大で遥かな風景をよみこむことができる一方、掲出句のようなささやかで小さな世界を切り取ることもできる。たった十七文字の生む世界が、宇宙規模にもなれば、てのひら大にもなる。

 小鳥来る、というのは秋の季語だが、この鳥が裏庭を本当に「愛している」のかどうかはわからない。鳥にも愛着という感情があるのかどうか、それは文学とはまた違う話だ。昨年も見た同じ鳥が、またここにきているということか。他のどこでもないこの裏庭に降り立った、始めて見る小鳥に、この庭を愛しているのだろうという気持ちを読み取ったのか。

 あまりそうする人もいなかろう「裏庭」に目を向ける作者の気質が、小鳥のそれと通じたかのように感じ、小さな生き物との間に小さな共鳴を覚えているとも読めるだろう。とすれば、小鳥はいずれ作者自身だ。

 何に注目し、どんな気持ちを託して一句にするか、そこに作者の人となりが表れるのは、俳句のいいところである。

 この「裏庭」は、鎌倉の旧吉屋信子邸のそれだという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の好きな俳句たち 佐伯 安奈 @saekian-na

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ