#6日目 Last Beginning
「看守さん…」
「…なんだ?」
「…命って…なんなんでしょうね…」
…ふと、そんなことを考えた。
『命とは何なのか』
…親友の命を奪った俺が…マトモに考えていいことではないかもしれない。
だが…生物であればたどり着く、唯一共通の
少なくとも、彼は『死』を間近で体感できる環境…監獄の中にいる。
そこに居た期間は長くないにしても、そこに死はある。
肉体的な死だけではない、精神の死も。
「私は余り囚人と関わってはいけないんだが…」
そう前置きしてから
「お前は…生きてるよな。」
看守さんは、一言だけ。
そう言った。
「…そうですね。」
そう簡単に、答えが出る問ではない。
少なくとも言えることは、今、俺は生きている。
「…我思う、故に我あり。」
フランスの哲学者ルネ・デカルトが考えた、世の中のすべてのものの存在を疑う方法的懐疑に対して、それを疑っている自分自身の存在だけは疑うことができない。
哲学の第一原理となる考えだ。
これもまた…殺人を犯した上で哲学なんていうものを考えるのも変な話なんだがな…
「看守さん…」
「今度はなんだ?」
「いや、これで最後ですよ。」
俺もあくまで前置きを挟む。
「今から、自首をします。」
「は?」
看守さんの言っていた、『俺の罪』
俺自身の記憶にある、『俺の罪』
…まあ、そこに至るまでに相違なんかはない。
あるのはただ1つ。
『俺が殺した』
その認識の違いだ。
どちらにせよ、親友から頼まれたことで…俺も、薬物なんかで衰弱していくアイツを、見て見ぬふりなんて出来なかった。
俺が久しぶりに会うまでに、
それでも…止められなかった。
俺が来てからも2、3度ほど捕まり…
怒りにも近い狂気の
だから、俺は殺した。
それでも親友だったから。
学生時代、一緒にバカをやって来た親友だったから…
俺はアイツの頼みを…断れなかった。
手に持った包丁で乱雑に親友の腹を八つ裂きにする度、衰弱し切って
それになんともまあ…言い表せようもない
そして同時に、これで親友は薬に
俺は…泣きながら、青春を一緒に遊んだ親友の腹を裂き、その心の中で…充実していたんだ…
アイツは最後にこう言ったよ。
「…あり…がとう…」って
「これで…地獄に…行ける…」って。
「お前は…こっちに…来るなよ…」って。
「どうしてだ…」
思わず、口から思いもよらない闇が
「どうしてアイツは…!」
『後悔』…
それは果てしない『後悔』の思いだった。
「アイツが薬に溺れる必要なんて無かったんだ!!!」
そう…
「アイツは優秀だったんだ!!俺なんかよりもずっと優秀だった!!!」
それだけじゃない
「アイツは俺に何度も何度も救いの手を差し伸べてくれた!なのに俺は!?アイツが苦しい時、辛い時、俺はアイツとは違う道を日の光の
こんなのが…
「こんなことがあっていいハズがない!!死ぬべきは俺で、アイツじゃなかった!」
だって…アイツにはそれを受けとる権利があった。
「薬に溺れるのも俺で!死ぬのも俺1人だけ!!地獄の業火に焼かれるのも、俺で良かった!!」
…
「なのに……アイツは
俺なんかよりも、ずっと素晴らしい人間だった、アイツが。
「どうして…薬物なんかに…」
「私…いや…俺もそこまで長く看守やっちゃ居ねえが、聞いたことはある。」
『人は生きている内に、少なからず色んなものを失くす。生き急げばそれらを見落とし、充実した人生を送る。1つ1つ拾い集めれば、回りからは
「…なんてな…俺なんかに知識を問うより、1度死ぬレベルの思いをしたお前たち囚人の方が、使う頭がいいんだろうよ。きっと。」
「…救われるかどうかは別なんでしょう?」
「まあ、現実はそう甘くねえってことだよ。それでも、失いながら…なるべく長く生きていくのが、俺たちの運命なんだろ。」
「…一理あります。」
「さあ、これで話は終わりだ。」
「え?何も無しですか?」
「何がだよ?」
「僕は、
「ああ、情状酌量の再審請求も、減刑もしない。お前はここで、『お前自身の罪』と、しっかり向き合え。」
「…」
若干…いや、かなり強引だが、彼は僕に、考える時間をくれたんだろう。
あと数年間という時間を。
「…分かりましたよ、看守サン。」
「口を
―結果報告
―…受理した。
危険性の心配はもうないのか?
―…受理致しました。
危険性の心配はなく、今はほぼ、精神的にも健康な状態が続いております。
…そして、1つだけ聞きたいことがあるのですが
―受理した。
危険性の心配が無いようでなによりだ。
聞きたいことがあれば、ここで言うといい。
―受理しました。
では…なぜ彼は、『20番』だったのでしょうか?
今まで居た20番が丁度出所したとは言え、急に20番になるのは変だと思いまして…
―受理した。
それは、彼が
罪認《ざいにん》 夜桜カユウ @NightKayu
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