第7話 二週目

あたしはリセットに成功してガッツポーズを作る。

ふと、あたしが倒れていた場所を見てゾッとする。


そこには「深淵の迷宮」の壁に書かれていた歌の歌詞があった。

綺麗な石畳の一部の色が変わっており、そこに書き記されている。


こんな場所であたしは転んだのか……。

前回は気が付かなった。


それよりもサミュエル……サミュエル=ロスガードを探さないと。


彼が生きていることを確認したかった。

あたしはスカートの裾を持ち上げて走った。


『まあ、なんですか?』

『はしたない』


あたしが走り回っていると聞こえてくる声。

ただ、走り回るあたしを見た他の貴族たちの感想はどうでもいい。


今はあの火傷の跡の顔が見たかった。


初めて見たときは気味悪がってしまったが、今度は普通に接することが出来るはず。

普通に彼に会って、挨拶をする。

ただ、それだけでいい。


何故?という疑問は自分の中にある。

彼の顔を見て、挨拶して……どうする?


あたしは、ただ…………安心したかった。

彼が生きているということをこの目で確かめたかった。


そろそろ息が上がり走るのが辛くなってくる。

強化魔法を使うのを忘れて走り回ったせいで吹き出る汗。


……いた!


後姿だがはっきりとわかった。

黒髪コンビ!

長い黒髪はロゼッタ、短髪はサミュエル=ロスガード……のはず!


あたしは黒髪コンビの前に回り込む。


「「???」」


不思議そうにあたしの顔を見る黒髪コンビ。


ビンゴ!


あたしが探していた人物に出会う。


「あ、えっと……こんばんは?僕はサミュエル=ロスガードっていいます」


行き成り目の前に息を切らした女の子が現れて驚く二人。

しかし、サミュエルは不思議そうな顔であしたを見るが、とりあえずの自己紹介をしてくれる。


「……良かったぁ。ぐず……本当に……ぐず……よかったぁ」


彼を見た途端、あたしは張りつめていたものが一気に緩み体の力が抜け、そして目から汗が噴き出る。


「え?ちょっと、あなた大丈夫?」


サミュエルだけでなくロゼッタもあたしの行動に狼狽える。

こうしてあたしはサミュエルの無事を確認したことで安堵することが出来た。


見てなさいよ、今度は絶対にあの書面にサインなんてしてやらないんだから!

非人道的行為だと言って破り捨ててやる。



☆彡



爆弾が使われるイベントは絶対に発生する。

どう足掻いても回避しようがない。


まあ、回避してしまうとこのマギネスギアというロボットの存在意義がなくなくなってしまう。

ここは現実だというのにそのゲームの都合が採用される世界だ。


あたしはトニーに問い詰める。


「どうして……どうしてよ!なんで、あなたはそんなことが出来るのよ!」


もう絶対に爆弾に関することにはサインをしないそう誓っていたのだがトニーが勝手にサインをしてしまったのだ。


「モニカは何を言っている?」


あたしの発言にトニーが困惑しているのだが、その困惑している表情自体があたしを困惑させる。


「何を言っているって、人に爆弾を背負わせて敵陣に向かわせるなんて……トニーのほうがどうかしているよ」


癇癪持ちと思われてもいい。

今はあまりに腹が立ち冷静にいられない。


「だから、何度も言っているように無力は人ではない」

「無力だろうと人は人……民は民よ!」

「君は何も分かっていない」

「分かってないのはトニーじゃない!」


あたしは作戦本部を飛び出した。

今からでは間に合わない。

そう思って走りだす。


ドドーーーーーーン


作戦本部を飛び出してすぐに地鳴りが発生する……爆弾が爆発したときの地鳴りだ。


「イヤァァァァ、サム……サムゥゥゥゥゥゥ」


作戦本部の近くで爆発地に向かって泣き叫ぶロゼッタ。

数名の侍女に押さえつけられながら彼女は爆発の中心地に手を伸ばす。


あたしは何が起こったのか理解している。


ロゼッタを横目にあたしは再度、走り出す。



向かったのは「深淵の迷宮」



彼を助けたい。


だからこそ、サインをしない。


神風特攻なんて絶対に拒否する。


……そうやって始めた三度目の人生


……何が間違っていた?


正直、二度目の乙女ゲーム世界はコツを掴んでいたので黒騎士などのカードを使って最短距離で走り抜けた。


もしかしたら、それが良くなかったのだろうか?


それとも……もっと別の方法を取るべきだったのだろうか?


彼を助ける……それに特化した方法……


「深淵の迷宮」に向かいながらあたしは思考を巡らす。




「深淵の迷宮」に到着するとあたしはすぐに讃美歌を歌った………………


壁の文字を見ることなく歌い始め一節を歌い終わると、目の前にまたしてもウィンドウ画面が現れる。


---------------------------------------------------------------


リセットしますか?


→YES

NO


---------------------------------------------------------------


よかった。

まだ、サミュエルを救える!


そして、あたしは迷うことなく「YES」を押した。


そして迎える、4回目の人生。

もう、こうなったら聖女の道を捨てて彼の傍にいよう。

そう決心する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リセットするためにうたうもの バカヤロウ @Greenonion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ