第6話

王城へ戻り、あたしはトニーと話し合いをした。

彼を信じたい.。でも、何かに引っかかる。

だからこそ、彼を信じるために真剣に話をした。


「ねえ、トニー、爆弾の話をしてもいいかな?」

「なんだ?」


彼はまだ仕事中であったが、聞いておかないとあたしの身が持たないので話をした。

すると、書類に視線を向けたまま、あたしの方を見ることなく返事だけが返ってくる。

あたしはそれでも構わず話を進めた。


「あの爆弾で亡くなった人がいるのは知っている?」

「いや、犠牲者はいない」


トニーの言葉にあたしは少し安堵した。

やはり彼も爆弾のことは何も知らされていないことが伺えたからだ。


「それじゃあ、サミュエル=ロスガードのことも知らなかったの?」

「サミュエル=ロスガード?ああ、あの無力の男か。あいつは丁度良い駒だったな」


安堵した次の彼の言葉にあたしの心臓は大きな警鐘を鳴らす。


「え?駒?どういうこと……トニーはサミュエルが爆弾を持って敵陣へ行くことを知っていたの?」

「まあな。ただ、あれは無力だ。人ではない。犠牲者にカウントされるわけないだろ」


この話を聞いてあたしはトニーが怖くなった。

いくら王族と言えど……人が人を殺すことに何のためらいもないなんて……



☆彡



それ以降、トニーと話をしなくなった。

あたしは自室に籠り、トニーが訪れても体調不良ということで逃げた。


悶々とする日々を過ごしていたが、ふとゲームのエンディングが残っていることに気が付く。


このエンディングを12歳の時から首を長くして待っていたというのに訪れたときには最悪の気分で迎える。


正直、「やり直したい」……これがゲームならリセットボタンを押してやり直し、一から始めたい。

そうしたら、絶対に彼を死なせることなんてしない。


もし仮に、これがゲームならエンドロールが流れている頃だろう。


そして、エンドロール終盤で見たことない場所が映し出されているのを同時に思い出す。


あたしはもしかして!と……ひとつの希望を見出した。


先ほど思い出した乙女ゲームのエンドロールだが、最後に出る選択肢がもしかしたらサミュエル=ロスガードを救えるかもしれない。


その選択肢が


「もう一度、やり直しますか?」


というものだ。


ゲームの場合だともう一度、ゲームをやりますか?的な意味だと思っていた。

だが、ゲームが現実となった今、もしかして、やり直しが出来るかもしれないとその望みに掛ける。


ラストの画面は洞窟の中にある小さな礼拝堂。

ゲームの行ける場所で一番に思い出されたのは二週目以降に入れる学園地下のSSSダンジョン「深淵の迷宮」


あたしは翌日の早朝に学園の地下へと足を運ぶ。

「立入禁止」と書かれた紐を潜り抜けて中へと侵入。

特に誰かが見張っているわけでもないのですんなりと入ることが出来た。


出入口は特に何も変化がない。

いたって普通の白い扉。

しかし、開けて中に入るとそこは空気が違った。


明らかにこの世界というよりも別世界のもの。

そして、入ってすぐの右側の壁は乙女ゲームのエンドロールに現れるものと瓜二つだ。

小さな祭壇が祀られていて、壁にはこの世界にはない文字が書かれていた。


「え?これは……英語?……歌の歌詞かしら……あ、アメイジ?」


あたしの前世は日本人だった。

しかも根っからの日本人だったから英語が全くできない……アメイジングって……


あっ!もしかして、キリストの教会で歌う讃美歌のアメイジンググレイス?


これを歌えってことかしら?


「あ~め~~~じ~~~んぐれいす♪」


……案外、歌えちゃうのかな?

歌詞を見ながら音程は……転生特典のチート能力だより、やってみるしかない!


---------------------------------------------------------------


Amazing Grace, how sweet the sound,

That saved a wretch like me.

I once was lost but now am found,

Was blind, but now I see.


---------------------------------------------------------------


そう、歌詞の通り

盲目のあたしには見えていなかった。


本当に必要なもの、大切なものは何か

彼を助けたい。


壁に書かれている一節を歌い終わると、目の前にウィンドウ画面が現れる。


---------------------------------------------------------------


リセットしますか?


→YES

NO


---------------------------------------------------------------



そして、あたしは迷うことなく「YES」を押した。





次の瞬間、目の前が真っ暗になるが、次第に光が見え始める。






「ちょっと、モニカ大丈夫?」


あたしが目を開けるとそこには青空が広がっていた。


「お嬢様……モニカお嬢様、大丈夫ですか?」


そして、その傍にいてあたしの心配をしてくれているのはマクスウェル男爵家の執事のトマス。


「あ、モニカが目を開けた、大丈夫?」


あたしを心配そうな顔で覗き込むのはあたしの母親、エレノア=マクスウェルその人だ。


「え?ここは?」


あたしは自分の発した言葉に驚いた。

声が幼くなっている。そして、自分の手を見つめると転生時に見た手になっていた。


「ここは宮廷の別館よ」


宮廷?そして、この手、この声……間違いなく転生時と同じ状況だ。


あたしはすぐにガッツポーズを取る


「ちょっとモニカ大丈夫?」


あたしの行動に母は困惑していた。

そりゃあ、転んで頭撃ってガッツポーズをする娘ですから……トマスもなんか不安そうな顔をしている。


リセットは成功した。


さあ、ここからよ。

サミュエル=ロスガード、今度はあなたを救ってあげるわ!


12歳に戻ったあたしは太陽に向かってガッツポーズをする。


この人生でサミュエル=ロスガードを救うと決心するが……これが全ての始まりであったことにこの時はまだ気が付かなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る