第45話

 話が終わりカグヤは戻って来た。

 それと驚いた事に見送りにミチルさんも来ていた。


「まだ怪我は治ってないんですから家で休んでいた方がいいですよ?」

「まあそうなんだけどね。命の恩人を見送らないっていうのは流石にないでしょう?」

「俺的には目を覚ました時にお礼は言われたし十分なんですけど……まあ、これ以上は野暮ですね。そのお気持ちありがたく受け取っておきます」


 軽い会釈するとミチルさんは満足そうに頷く。


「まあ、見送りもあるけれど此処までの道中お嬢ちゃんが心配だったのもあるけれどね」

「カグヤですか?」


 カグヤは今運転席にはいない。戻って来るなりコンテナの方に行ってしまったからだ。


「しっかりしてる様に見えるけどアレは生粋の甘ちゃんだ。見てるこっちが心配になるくらいに」

「あー……確かに」

「此処で少しは必要最低限の世渡りを覚えただろうけど、根っこの部分は変わらない。それが人間って生き物だ」


 そう、人は……カグヤは変わらない。


 この時代の生き方を分かったうえでもなお、この先きっと善性を捨てないだろう。

 たとえ力のない彼女が不条理を突きつけられ度し難い輩と相対したとしても。


「……でもですね。その甘さが必ずしも弱さに繋がるとは限りませんよ?」


 ミチルさんは首を傾げる。


「人がどれだけその考えは弱さだと言おうと当の本人が正しい事だって貫いてるならそれはもやは強さですよ」


 例えるなら大樹の様に地に太い根を張り鉄の様な硬さを持つ。それがカグヤという女なのだと俺は感じた。


「ようするにとんでもない頑固者ってことだ」

「そうとも言いますね」

「は、こんな世界で頑固を貫き通せるならそりゃあ確かに強さだ」


 やれやれと呆れた様に笑うミチルさん。

 

 さて、楽しい談笑はこの辺りにしよう。


「そろそろ行きます」

「すまないね。話し込んで足止めさせた」

「そんな事はありませんよ。標的と違って目的地は幸い逃げませんから」


 そう口にしトラックのエンジンをかけた。


「手紙を届ける仕事、郵便屋になるために許可証を貰いに行くんだったね」

「はい」

「そうか……あぁ、その方がいい」

「え?」

「いや……人を殺して自分も死ぬ危険がある仕事なんかより人の想いを届ける仕事の方がなんだか良いと思ったのさ」

「——」


 ミチルさんが感慨深そうに口にしたその言葉は少し嬉しかった。


 まだ始めたわけじゃないけど自分のやろうとしている事が認められた。今の時代、誰に言ってもなんの役にもたたないと馬鹿にされてもおかしくないのに。


「がんばんな。今度は正式に頼むだろうから」

「——はい」


 その会話を最後に街を出発した。


 それから程なくしてコンテナの方からやけに楽しそうにカグヤが戻って来た。


「なにか良い事でもあったのか?」

「あ、わかります?」

「それだけ楽しそうにしてれば誰でもわかる。と言うかよかったのか?ミチルさんと最後に話をしなくて」

「それならトラックに戻る前に済ませましたから問題ありませんよ。ほらこの通り品物と報酬も受け取ってますし」

「ふーん、まあいいならいいんだけど——ちょっと待て。なんだその手に持ってるのは?」


 カグヤの右手には封筒に左手には何かの種。


「何って、アカリさんの初仕事ですよ。手紙を届ける対価に花の種を幾つか貰いました」

「……はい?」


 こいつ今なんと言った?

 初仕事?正式に始まった訳でもないのに……いや、それよりミチルにまた言ったのか?あれだけ強く拒絶されたのに?


「少々業腹でしたがアカリさんの言う通り対価を求めて説得したら預けてくれました。これは信頼に応えないといけませんね!」


 両手ガッツポーズでやる気満々のカグヤ。


「はぁ、俺の断りもなく勝手な事を……」


 俺はやると一言も言っていない。しかも報酬が花の種だなんて誰得って話だ。まがりなりにも仕事として引き受けたのならもう少し身になるものを要求してくれればいいものを。


「……でもまぁ、それがお前やミチルさんのやりたい事なら俺がとやかく言う事でもないんだよな。幸い目的地は一緒だし」

「そう言ってくれると思っていましたよ」


 最初から俺が引き受けると分かっていた様な態度に少しイラッとする。でもだからと言って投げ出す気もなく次の目的地でやる事に加える。


「ちゃんと手伝ってもらうからな」

「勿論です!」


 こうして目的を達成できた様で出来てなく面倒事と初仕事を抱えて俺達は次の目的地へ向かうのであった。

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