第44話
ミチルさんの体調が戻って数日が経過した。
当初目的だった町の噂をまく黒幕、つまりニッコウを捕まえる事は出来なかった。しかし奴の目的であっただろう俺との再会が果たされた事でもうこれ以上町の噂をまく心配はないであろう。
そして裏切り者であるネズミは死んではいないが二度と悪さが出来ない様に仕置き済み。
情報屋をこれからも続けるかは、まあ彼のガッツ次第だろう。
結果だけみれば目的は達成と言えなくない。
よってこの後は予定通りエリア5首都へ向けて出発するわけである。
しかしその前にカグヤはミチルさんに話があった。
・〜〜〜○
出発前である最後の機会に私はミチルさんの家で向かい合う。
「ミチルさん……その、色々とすみませんでした」
「散々言ったけど謝る必要なんてない。あれは1から10までこっちが悪いんだから」
「そうかもしれませんけれどこれは私なりのケジメなんです」
「呑気そうなくせして中々に頑固だね」
「芯が強くないと色々大変な環境で育ちましたから!」
まぁ、この時代の地球の人達に比べれば当時の私の大変なんて精神的なものだけなのだけれど。
「ふーん、アンタみたいなのでも色々あるって事か……でもこれで用は済んだんだろう?ならもう行きな」
「いえ、ここからが本題なのでもう少し」
考えに考え迷いに迷った。
何もしない方がいいのかもとも思った……しかし私は決めた。例えエゴと拒絶されようとも、踏み出さなければ何も変わらないし始まらない。
「娘さんへの手紙を私達に届けさせてください」
ミチルさんは驚き数秒だけ固まるとその目が鋭くなって私を睨む。
「……勘違いしているようなら言うけど、手紙の話で怒ったのは演技じゃないんだけど?」
「分かっています」
「また私を怒らせるって分かったうえで?」
「はい」
鋭かっただけのミチルさんの目にはっきりと怒りが宿る。
「でも前とは違います」
ミチルさんへ右手を差し出す。
「対価を要求します」
「……なんだって?」
「対価を要求すると言いました。手紙を運ぶかわりに私の望む物を貰います」
「——」
驚いた顔から察するに信じられないと言った気分なんでしょうね。
「……なにが目的?」
「強いて言うなら虎の威を借る狐をするためでしょうか」
「と、とらに、きつね?」
「簡単に言うならアカリさんに商売人として信用を得てもらって私はそれを利用したいという事ですね」
ま、冗談ですけど。
善意の人助けは信用されないとアカリさんはそう言った。受け入れ難かったけれどこの世界の実情などを改めてゆっくりと考えるとそうなのも頷ける。
アカリさんの言った見返りを求めるやり方こそが現状私や相手にとって最適解……アカリさんをだしにするのは我ながらずるいやり方ですけど。
「ふーん、世間知らずの嬢ちゃんが少しは世間のやり方を知ったってことかい?」
「そんなところですね」
「ふーん」
ミチルさんの目から怒りが薄まる。
完全とは言い難いですけれどこれなら前のようにならずすみそうですね。
「分かった。対価って何を払えばいい?」
「あー、それはですね……え?」
「なんだい?」
「いや、いいんですか?」
「なにが?」
「分かったってことは、つまり手紙を運ぶ事を許してくれるって事ですよね?いいんですか?そんなに簡単に信じて?私達が無事届けられるともかぎらないのに」
予想外の展開に驚いているとミチルさんは呆れたようにため息を吐いた。
「何を今さらそんな事を気にしてるんだい?ネズミや傭兵、それにあの狂った人殺しをどうにかしちまうようなアンタらが」
う、うん、それは確かに。
でもそれをやってのけたのはアカリさん個人であって私は何もしてないんですよね……。
「それにだよ」
「?」
「必死に信じてもらおうと努力した子供を信じてやらない大人が何処にいるってんだい?」
「——」
考えが読まれて驚いた——ではなく、人柄の大きさに関心……いや、嬉し恥ずかしくなってしまった。
どうにもこの時代の大人というより母親というのは器の大きい人達ばかりようですね……少しこいしくなっちゃいました。
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