ミどリボッこ

せかいのはら

01

    

  ミどリボッこ アラワレル ガ イドウカクニンデキズ


めがねからの双眼鏡そうがんきょうの景色はきのうのまま。

鮭いろスニーカーのひも、ちょうちょ結びはかたっぽちょうちょ。

「ま、いいよね」

ドガチャンという音を立ててとびらじたから

いってきますは、わたしだけのおまじない。

隙間すきまがたくさんある前かごにリュックサックをのせてから、ココアいろの自転車にまたがった。今日の風はスローな自転車をうしろからしてくれるそうです。「わたしの味方、風ヒューヒューーマン」

風と自転車、少女からケタケタとした音がなります。

すこしくだると、坂がみえてきました。いろいろな形のいし、カラフルなタイルでおめかしをした坂は、でこぼこです。この道をゆけば、ひと息つくことができます。緑茶を一口飲みすっきりしてから、空気と気合で口をふくらませます。それから、おしりを上げ、足と腕に力をこめピンっとまっすぐにします。前のめりになったカラダは下を向くペンギンのようです。


ドンドン ぐんぐん。 デンデン かんこん。

おおきな段差をのりこえた自転車少女の、

地面に向いていた視線しせんは空へ、うつり変わりました。

そこでは双眼鏡からみていた「ミどリボッこ」が顔をのぞかせていました。今日はえだをさわさわ、しきりに動かしています。少女はあがった息を整えながら、みどりぼっこ、と呼んでみます。もちろん返事はありません。


 みどりで遠くからみるとぼこっとでているから、ミどリボッこ。

それはそれは。おおきくておおきくて。

歴史があってそれに大きいからみれるのは側面そくめんだけなんだって、お父さんはいっていた。どこかさんの、地面に描かれた絵は、上から見ることができるのに。

いつでも、どこからみても、おひさまがっていても、ミどリボッこは横顔だけ。少女はこのおおきいことが遺産いさんのみえない部分を、証明写真しょうめいしゃしんのように、自分の目でみてみたいのだった。

「遺産って言われているこれのどこが、遺産遺産しているのよ。そんなの横顔から人をみて、この人は美人でしょうかって言ってるようなものよ」

そんな批評家ひひょうか風少女には夢があります。

このでかぶつが顔をうごかすところを目撃もくげきすることです。

ずっと同じ姿勢しせいではつまらないし、かたがこるだろう、おしりもいたくなるだろう。「みどりぼっこはすごい。わたしだったら校長先生のお話より、ずっと多くの時間をすわってすごすなんてたえられなし、できない」


 少女は目の前に広がる青々あおあおとした横顔をながめていたが、ふと伝え忘れていたかのようにぽつっと、夜はまっくらで夏はとってもくさいけどねとくわえた。

けれども今はハル、春真さかり。

すずしい夜には、遺産を住処すみかにしようとねらうユーレイがでるやもしれません。そうなったら全国の虫取り少年がいつもより、すこしおおきなあみとカゴを持ってユーレイ取りをしたり、ミどリボッこの周りをコースに徒競走ときょうそうが始まるでしょう。


 瓶底びんぞこのようなめがねは明日も双眼鏡をのぞきこむだろう。

少女のやわらかいくるくるっとした髪の毛は、風になびかれ今は三拍子さんびょうしきざんんでいます。ワルツでしょうか。

黄も ももも ひかるみどりもかおるひとときでした。


                   イチ ニッ サーン

                    イチ ニッ サーーン

                      イチ ニッ サン

   


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ミどリボッこ せかいのはら @WR_wara

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