第6話 返して

「クスッ」

「どうしたの? 思い出し笑いなんてして」

「ガクさん、目が見えないとき、ルナちゃんにお肉切ってあげてたでしょ」

「ああ」


 ルナの口元へ切っては運んでいた。

 レイがそれを見て慌てて止めた。

 ルナの口には肉が溢れんばかりに詰め込まれていた。

 喉を詰めたらいけないから出しなさいって言っても、首を横に振るルナはニコニコと口を動かしていた。


「ルナちゃん、ガクさんに食べさせてもらって、よほど嬉しかったのね。お風呂に入る間際まで、お口をモグモグさせていたんですって」


 ガクは照れ笑いを浮かべた。

 レイは自分のお腹を撫でさすった。


「ルナちゃんみたいないい子、生まれたらいいなあ」

「レイちゃんの子だ、きっといい子が生まれるよ」





「ガクさんのこと気になるから、ちょっと調べてみたんだ」


 あのクラブ界隈では有名なDJで、ガクを目当てに来る女の子は引きも切らなかった。真奈美もそんな女の子のうちの一人だった。

 

 あるとき、一人の女の子に言い寄る男がいて、あまりにもしつこいので、その女の子を逃がしてあげた。それが真奈美だった。

 

 男友達の前で面子を潰されて快く思っていなかった男は、ある日、偶然、ガクの運転する車を見付けると、後方から突っ込んで行った。

 後部座席に座っていた両親は即死。ガクも角膜を損傷し失明した。


 その突っ込んで来た車の男は意識不明の重体。

 どうやら大麻をやっていたらしい。


 事故を起こす前、放蕩息子に親が言った。生前に少しでも良い行いをしてくれ。せめてドナー登録をしておいたらどうだと。親の頼みに屈し、息子は不承不承同意した。


 ガクが角膜移植をした日に、その男の呼吸器が外された。


「て、いうことは、ガクさんに移植された角膜は」

「たぶん、そういうことだ。でも、ナオさん、このことは秘密だぞ」

「うん、一平さん、何だか奪われたものを返してもらったみたいやね」

「そいつの仲間が復讐心で、まだガクさんを探しているらしい」「やーねえ、逆恨みってやつ。あら、ルナ、おしっこなん?」


 目を擦りながら首を横に振るルナ。


「ねむ、ねむ、できない」

「じゃあ、ママがお話を聞かせてあげよう。さあ、ベッドに戻ろう。そう言えば豆ははこ先生がルナちゃん、歯は上手く磨けてますかって」

「はのちぇんちぇい?」

「そう、仕上げはママが……」

 

大谷家の夜は更けていった。




         【了】





🌻 歯科医役で最後にご登場戴いた豆ははこさん、ご協力ありがとうございました。

作品『転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったので勿論婚約破棄せずに幸せに…』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859466678575




最後までお付き合いくださいましてありがとうございます!

次にルナがお目にかかるのはランドセルを背負っているかもしれません。

それともサザエさんちのタラちゃんみたいに、永遠の3歳にしておきましょうか。

またね👧ありがとでチュ💓


『🏠哲平の煩悩💖』に続きます。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330662276349857/episodes/16817330662277167979



 

 


 






 



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10🏡ガクの過去💓 オカン🐷 @magarikado

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