第6話 拠点
ウミを先導する三人は、迷うことなく道を進んだ。道とはいっても、両脇は様々な高さの木に囲まれ、足元には細かな草が生え僅かに土が露出した獣道のようなものだ。歩き始めてすぐに整備された道から外れたので、そこはウミの知らない場所であった。いつまでも同じような景色ではあるが、同じところをぐるぐると回っているような様子はなく、ウミはひとまずあの異常な空間から抜け出せたのだと悟った。
「こっちに行けば敷地外に出られるの?」
「うんうん、まぁそんな感じ。あ、そういえば名前訊いてなかったよね」
「……ウミだよ」
しかし、このままこの人工とも思えない道を進んでも正規の出口がないであろうことは流石にわかったので、本当にこちらであっているのだろうか、自分は何か怪しいところに連れていかれているのではないかと心配になってきた。それで、相手に嫌悪感を与えないように、一番気のよさそうなクマ面に暗にこちらでいいのかと聞いているのだが、ずっとこうしてはぐらかされていたのだった。
「ウミ」
クマ面は、複雑な味わいの料理をよく噛みしめて味わうように、迷子の少女の名前を口の中で小さくゆっくりと反復した。
「あなたの名前は?」
「サユ。覚えられなかったらクマって呼んでもいいよ~」
儀礼的に訊き返すと、クマ面ことサユは、ウミの一歩前に出て小さく振り返り両手を広げて自らの存在と名前をアピールするようなポーズをした。
「ライオンのお面の男子がハルで、ウサギの子がユミね」
「よう」「よろしくね」
前を歩くハルは片手で小さく、横に並んだユミは言葉で挨拶をしてきた。
すぐ近くにある出口へ向かうだけでわざわざ名前の交換をするとは考えづらい。やはり時間がかかるのか、もしくはもっと面倒なことに巻き込まれているとウミは直感した。が、ここで自分だけ離脱してもどうせ無事には帰れまい、それならこのままついて行ってみよう、そう覚悟を決めたときには、もう地面は草で埋め尽くされ獣道ですらなくなっていた。
先頭を行っていたハルが足を止めたのは、落ち着いた性格のハル、動きが大げさでコミュニケーションが盛んなサユ、物静かでおしとやかなユミと、それぞれの特性がわかってきたあたりだった。
「ついたぞ」
こちらを振り向いたハルの背後には、先ほどまでの、長くて太い草木が生い茂った道とも呼べないところとは一転して、背の低い草花が生えた広い空間が広がっていた。
「あれは……御堂……?」
そしてその空間の奥には、小さな建物がポツンとたたずんでいた。
祭 風和 定数 @fuwathiusu
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