卒業生の苦労

ある土曜日。

珍しく、Juice組、SALASA組、signo組が数人で歩いていたところ、向こうからヨレヨレになったOLが歩いてきた。

「……あれ? どこかで見たことが……にしてもヨレヨレだなあ」

Juice組のグリーンが呟くと、SALASA組のブルーグレーが

「あれって……今なくなったhybrid組の黒先輩じゃない?」

と答えた。

昔は、学園はhybrid組、HI-TEC組、signo組、特待クラスの4クラスだった。そのうちhybrid組、HI-TEC組の2クラスが生徒数減少により廃止、代わりにSALASA組とJuice組の2クラスが新設された。

こちらに気づいたhybrid組卒業生の黒は、力ない笑顔で皆に声をかけた。

「ああ……学園の……私が3年だった頃に1年だった子たちよね……」

「そ、そうですけど、黒先輩どうされたんですかその目の下のクマ……しかもなんかフラフラしてるし……」

signo組の0.38が声をかけると、覇気のない声で

「知っての通り、hybrid組とHI-TEC組は生徒数減少で廃止されたでしょ……昔はミルキーやメタリック、絹物語たちもいて賑やかだったのに」

と話し始めた。

「私、今となっては社畜よ。まだ今日は午前上がりだからマシだけど……毎日毎日深夜まで。土日もなにもあったもんじゃない、サービス残業当たり前。ほんと、学園生活が懐かしい……」

遠い目をする黒に、みんな二の句がつげなかった。

「上手いこと才能を活かしてどこかで活躍している子たちもいるみたいだけどね、私みたいな真面目しか取り柄がない子たちはみんなこう。ほんと……盛者必衰って感じよね。signo組はまだ残っているのね、良かった……」

心底安心したような顔を見せた黒に、signo組の0.5が

「本当に大変なんですね……社会人……」

と語りかけると、

「あなたたちはまだ未来あるから……。消えかけたクラスの卒業生の末路なんてこんなものよ」

と答え、ふらり、と踵を返した。

「帰って寝なきゃ……明日は休みだけど、今日のうちから寝ておかないともうね、睡眠負債が……じゃあね」

そしてヨロヨロと歩き出した。


hybrid組卒業生の黒が去った後には沈黙が残った。

明日は我が身。そんな言葉を思い浮かべながら、各々自分の将来を案じた。

「と、とりあえずショッピングモールでも行く?」

SALASA組のペールブルーが口を開くまで、重苦しい空気がその場を包み込んでいたが、いつまでも落ち込んでもいられない、と、わいわいとショッピングモールに向かう一同。

歴史の長い学園ではこういうこともある、しかし彼女たちは日々、それぞれの特色を生かしながら学び、遊び、生きているのだ。

限られた貴重な期間を大事にして、卒業までの日々を。

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ようこそ! 文房具女学校へ! 天竺葵 @aoitenjiku

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