とっても幸せな放課後デート
加藤那由多
『とっても幸せな放課後デート』
終業のチャイムが鳴る。
部活に行く人、残って勉強する人、色々な生徒がこの学校には居る。
だけど私は、真っ先に学校を出て、自転車を走らせる。
何を隠そう私には、他校に彼氏がいるのです!
毎日学校終わりに彼の元に向かって、一緒に放課後デートするのが大好きなの!
まだかなぁ、まだかなぁ。今日は前から
彼より前に校門をくぐる人達が、出待ちする私をチラチラ見てくるのはもう慣れた。逆にいつものか、とか思ってスルーする人も増えた。
「
私は顔を輝かせる。
好きな人が、私の名前を呼んでくれた!
あぁ好きぃ、大好きぃ。
「
今日もかっこいい。ていうか昨日よりかっこいい。なんで? なんで見るたびにかっこよくなってるの?
「今日も一段とかっこいいね、メイク変えた?」
「元々してないよ。それより、そっちこそ変えた?」
あぁ私ってどうしてこんな素敵な人とお付き合いできてるんだろう。今とっても幸せ。
「包帯。昨日も帰れてないんじゃない?」
彼は血が滲んだ腕に巻かれた白い布を見てそう言った。
たとえ私の親が毒親で、毎日暴力を振るわれてても、幸せだ。
充くんと一緒に放課後デート。まずはクレープ屋さん。
あ、あったあった。
「あれ! あそこに行きたいの!」
ズキ…
「おおっと」
足に痛みが走り、もつれ、よろける。
だけど充くんが私を優しく支えてくれた。
充くんさすが! かっこいい!
「ありがとう」
「大丈夫? 紫になってる」
彼は私の足を見て言った。昨日蹴られたとこ、アザになっちゃってたんだ。
「へーきだよ。充くんに心配してもらえるだけで、痛みなんて飛んでっちゃう。そんなことより、早く並ぼ」
私が最後の一口を食べ終わったのを見計らって、彼が切り出した。
「この後、俺の家来ない?」
「えっ……」
「俺の家ここからすぐだから。翼女って、家帰りづらいだろうし……」
「あ、え、うん。行く」
え、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
なんで私は彼氏の家に連れ込まれてベッドに座らせれてるの?
「あの子が噂の彼女ちゃん? 怪我してるけど大丈夫なの?」
しかもなんかお母さんいるし。
え、こういうのって『うち、今日親いないから』みたいなのじゃないの? 最近の若いのは親の目とか気にしないの?
あ、足音が大きくなってきた。戻ってきたのかな。
「入るわね〜こんにちは、翼女ちゃん」
……お母さんでした。
え、そういう感じ? もちろん、私は充くんの全てを受け入れるつもりだったけど、そういう趣味があったのね。大丈夫それも受け入れる。ところで、これってどの趣味に該当するのかしら。
「服、脱いでくれる?」
あ〜お母さんも結構本気だ。は、恥ずかしいな。恥ずかしいけど……彼氏のため! 脱ぎますとも!
「……肩と、ほっぺ、あとは脚、背中もだね」
そう言って彼女は救急箱を取り出した。
そして慣れた手つきで包帯を取り、消毒をして、ガーゼを変えて包帯を巻き直してくれた。
「これでよし」
最後に、傷の小さくなったほっぺに可愛い絆創膏を貼ると、そう呟いた。
「充から聞いたよ。お父さんに暴力を振るわれてるんだって? それに、家じゃまともな処置をしてもらえないって……もしよければわたしの方から専門的なところに相談しようか?」
「……それは、だめ。こんなことするけど、一応私のお父さんだし、これ以上の幸せを望んじゃダメだから」
お母さんは少し言いにくそうな顔をしたけど、すぐに笑って言ってくれた。
「わかった。今は、あなたの意思を尊重する。でも、困ったらいつでもおいで。わたしね、翼女ちゃんがうちの息子と付き合ってくれて、嬉しいの」
「はい!」
「じゃあ、夕飯にするけど食べるでしょ? 今日は焼きそばなの」
「あ、私焼きそば好きですよ」
「ほんと? 充も小さい頃から大好きでね〜」
そんな私たちを、充くんが優しい顔で見ていた。ありがとね。
夕飯を食べ終えて、家に帰る。
今日は楽しかったなぁ。充くんとクレープ食べて、お母さんに包帯変えてもらって、そのお母さんにちゃんとお付き合いを認めてもらえて。更には同じ食卓を囲んで焼きそばを食べた。
「ただいま〜」
だから私今、とってもしぁ……
鈍い音が響いた。
とっても幸せな放課後デート 加藤那由多 @Tanakayuuto
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