エピローグ
――あれからの話をしよう。
カイと相談をし、どこまで話すかを決め俺たちはダンジョン課……巌さんへ事件について話す。
ダンジョンイーター自体を話してしまうと、なんでそんな存在を知っているんだという流れになり、ともすればダンジョン排斥の流れになりかねなかったのでSランクでもようやく対処できるかどうかの凶悪なモンスターが居ることを伝えるという結果になった。
俺と山田は、現在ダンジョン課のある施設の一室にいて、これまでの経緯を伝え終わる。
ちなみに、カイは部屋の外で待機だ。
うっかり言わなくてもいいことを言ってしまったら面倒なことになるしな。
「……なるほど、にわかには信じがたいが君と山田君がそう言うのならば警戒はしておくよ」
俺と山田の説明に対し、巌さんは渋い顔をして腕組みをしながらそう答える。
……どういうわけか、星之声と出会ってからの映像がきれいさっぱりなくなっていたのだ。
リスナー達も画面越しに見ていたはずなのだが、俺とカイ、山田以外は覚えていなかった。
俺達が覚えている理由は分からないが、おそらく山田と初めて会った時のような記憶操作か何かを施したのだと思う。
そのせいで俺達の証言以外の証拠がなくなってしまったが、今までの実績などもあるために、ひとまず信じてもらうことに成功した。
「それにしても、侵略者どもの手のひらの上で躍らされている……か。随分と穏やかじゃないね」
「彼らは完全にダンジョンを敵と見做していました。もし、過去に不可解な状況がダンジョンで起きていれば、星之声が関わっている可能性が高いです。今もそういった被害が広まっているかもしれません。僕のようなケースもありますしね」
山田は自身の手をギュッと握りながらそう話す。
「確かに、過去数年を遡れば原因不明な事件、事故などはあったね。ダンジョンが急に消滅したり、なんてこともあったよ。あとはモンスターの異常発生……いわゆるスタンピードってやつだね」
おそらく、ダンジョンイーターがそのダンジョンを喰ってしまったのだろう。
「それがきっかけで、ダンジョンへ潜るのが禁止されるみたいなのは無かったんですか?」
「まぁ、無かったと言えば嘘になるかな。……これは口外禁止で頼むよ? 未だ全てが解明できていないダンジョンで、突如消滅するようなものは禁止すべきだという声も上がった。だが、その時にはすでに世界中にダンジョンが点在しており、ダンジョン市場も巨大化していて、おいそれと閉鎖もできなくなっていたんだ」
まぁ、組織でも何でもデカくなっていけば、おいそれと動かせなくなるわな。
「消滅のケースも極稀ということで、このことは一般公開はせずに臭い物に蓋をするってことになったんだよ。面倒くさいよね、国って」
と、その国に仕える巌さんは疲れたような表情で笑う。
「今のところ一般人への被害もないというのも大きいだろうね。本当は娘にもDiverは辞めてほしいけど、頑固だからねぇ。まぁ、そういう事情もあってSランクには依頼をするんだよ」
まぁ人格に難がある奴らが多いとはいえ、Sランクであれば大抵のことは対処できるだろうしな。
「そんなわけで、これからも君には色々お願いすることになると思う」
「はい、それは構いません。俺も星之声については気になりますし」
星之声とダンジョンイーターとの関係性はいまいち把握しきれていないが、放置できないのは確かだ。
俺は、巌さんの言葉に力強く頷く。
「そう言ってもらえて何よりだ。星之声やダンジョンに対する対策については、必ずなんとかしてみよう」
「よろしくお願いします」
そこで一度会話を打ち切ると、巌さんは山田の方を見る。
「で、君のSランク昇格についてだけれど」
「それについては事前に伝えていた通り、辞退でお願いします。……本当はあの武器がなければAランクすら怪しいとは思うんですけどね」
山田は苦笑しながらそう答える。
「さすがにAランクすら降格となると、色々問題というか面倒な手続きが必要になるんだよね。武器ありきとはいえ、君の実績は本物だ。……早くAランクにふさわしい実力を身に着け、Sランクをまた目指してほしい」
「ありがとうございます」
そうだよな。
確かにステータスだけ見ればAランクすら怪しいかもしれない。
だが、ゾタグァと対峙したときはまさにSランクにすら匹敵する心を持っていると感じられた。
山田なら、いつか誰にも文句を言われないSランクになれると信じている。
その後は、混乱を防ぐためにも必要以上に今回の件を吹聴したりしないなど、細々としたことを決めて解散となった。
山田は他にも手続きがあるとのことなので、俺はカイのところに戻る。
「お待たせ、カイ」
ベンチに座って暇そうに足をぶらぶらさせていたカイは俺に気づくと、パタパタとこちらへと駆け寄ってくる。
「話終わった?」
「あぁ、とりあえず警戒はしてくれるそうだ。……だけど、効果がどれほど出るかって話だけどな」
何せ、向こうには記憶や映像を改竄できる奴がいるのだ。
向こうから接触してこない限り、見つけることは困難だろう。
「なぁ、カイ。カイは他のダンジョンとも連絡が取れるんだよな? 怪しい人物とかダンジョンイーターの気配とかって分からないのか?」
俺の質問に、カイはふるふると首を横に振る。
「まず、人間を怪しいかどうか私達で判断するの難しい。人間は多種多様、だから基本的に全員通すか通さないかになる」
あー、まぁそりゃそうか。
一般人でもぶっとんだ奴がいるし、黄色いローブとかも着てる奴は探せばいるかもだしな。
しかも人間とダンジョンでは感覚が違うだろうし、そこから不審人物を探せってのは無理があるのかもしれない。
「あと、ダンジョンイーターも出現前に感知することは難しい。あいつら、隠密性が高い。基本的に、姿を現すまでは感知できない。だから、わかる時は殺される直前が多かった」
それなんて人狼?
人狼は、味方になりすましたウソつき……人狼を会話で見つけ出すゲームだ。
プレイヤーは、全員とある村の住人として振る舞うが、その中の何人かは人狼役で、村人に化けていく夜な夜な村人を殺していく。
敗北条件を満たす前に、会話やそれぞれに割り振られた役職によってヒントを見つけ出し、すべての人狼を見つけ出すというのが基本的な流れとなる。
村人は基本、殺されるまで誰が人狼かは分からない。
先ほども言ったように実際の人狼ではいくつか役職があり、人狼役を見つけ出すための能力があるんだろうが……それは現実では望み薄だろう。
誰が
「ま、結局こっちは後手に回るしかないってわけか」
俺は、カイを安心させるために頭を撫でながらそう話す。
これが一般の女性ならば頭を気軽に撫でるなんてセクハラまがいなことはできないが、カイは長年一緒にいて家族みたいなものだからこそ気軽にできる。
「ん……私も、他のダンジョンから情報とか集めてみる」
「あんまり無理すんなよ?」
「ん、大丈夫。ホーセンが頑張るなら私も頑張る」
これからSランクとして活動するなら、依頼もどんどん入ってくるだろう。
あくまで俺の勘だが、星之声とはまたどこかで対峙する気がする。
ダンジョン攻略や依頼をこなしていく中で、奴らと出会ったら今度こそふんじばって一網打尽にしてやる。
「ま、それまでは気長にダンジョン配信でもやってますかね」
土魔法の地位は徐々に向上し、ダンジョンの攻略Wikiなどにも土魔法の情報がちらほら載ってきたそうだが、まだまだ足りない。
目指すは属性人気1位である。
オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い土魔法坂をよ……。
ダンジョントラップに引っかかって最下層に落ちて10年。ダンジョン配信者に見つかった結果、ダンジョンの主としてバズったらしい 已己巳己 @Karasuma_Torimaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます