戦いの後
「……ん、こごは……?」
ゾタグァを倒した後、糸が切れたように意識を失っていたアーサーがようやく目を覚ます。
ゾタグァの中に取り込まれた影響か、あのきつい香水の匂いは消えている。
あとはちょっと鼻声か?
……まぁ、今はあいつの粘液やら何やらで別の意味で臭いが。
せっかくのご自慢の金ぴか鎧もボロボロで輝きが失われている。
ちなみに、カイもひどいことになっている。
せっかく買った服がダメになってしまったことで落ち込んでいたので新しく買いに行こうと約束したらめちゃくちゃ喜んでいた。
「起きたみたいだな。さっきまで何があったか覚えてるか?」
「オラば……」
「オラ?」
「っ! あぁ、いやなんでもない! 先ほどまでの事はもちろん覚えているとも。星之声とかいうわけのわからない団体を名乗る黄色ローブ、そして化け物へと変わった僕の剣……迷惑をかけたね」
俺が首を傾げながら尋ねれば、アーサーは慌てて取り繕いながらも先ほどの状況を羅列する。
ふむ、記憶の方は大丈夫そうだ。
「ねぇ、金ぴか。オラって?」
せっかく俺が親切心でスルーしてあげたのに、空気を読まないカイが突っ込んでいく。
「~~~~っ! はぁ……実は、こんれがオラの本来の喋り方だべ」
カイの問いかけに、何かを葛藤するような様子を見せるアーサーだったが、やがて観念したように話し方を変える。
「オラは青森の方の出身だば、育った村はちいせぇ村でな。わけぇのはみーんな都会さ行っちまって、ジジババしか残ってねぇんだ。過疎が進む少しでもオラの村さを盛り上げるため、都会に出稼ぎにきたんず」
そう言って、アーサーはなまりの強い口調で話を続ける。
「オラは何の取り柄もねぇだが、顔だけば良いって皆から言われてきただ」
確かに、顔は良いよな。
イケメンは滅べばいいのに。
「ホーセンは人のこと言えないと思う」
俺が心の中で呪詛を吐けば、またサラッと心を読んだカイがツッコミを入れてくる。
くそ、ガチの読心術持ち相手だとやりづらいったらありゃしない。
「んで、Diverっちゅうのは人気が出れば儲かるって聞いて、んだらばこの唯一の取り柄である顔の良さを活かしてDiverさなろうって決めただ。出稼ぎに来た時に出会った先輩に、そのままじゃ芋くせぇから都会風にしろって言われで色々直していっただ。……それがこの口調ってわけですよ」
元の……いや、演技の方の口調に戻るとアーサーは苦笑する。
「アーサーというのも、ただ単純に有名でかつカッコイイ名前を付けただけ。本名は
うん、確かに香水はマジでひどかった。
つけない方がマシレベルまであった。
つーか、意外と男らしい名前ですね権兵衛さん。
「もちろん、そんなガワだけ取り繕った人間の配信など人気が出るはずもなく、チャンネルの登録数は伸び悩んでおり低迷が続きました。……そんなときです、奴に出会ったのは」
「星之声か」
俺の言葉に、山田はこくり頷く。
奴は、山田にゾ=タ・カリバーを託したと言っていた。
どういう理屈か分からないが、そのことを山田は忘れていたらしいが、今はそれを思い出したらしい。
「正直、なんで忘れてたのか分からないくらいです。奴は言いました、僕には見どころがある。これを使えばSランクに上がるのも容易いと。奴の言葉は真実でした。ゾ=タ・カリバーのおかげで次々と依頼をこなすことができ、気づけばAランクまで上がり、Sランク間近になっていた……そして……」
今回の事件、というわけか。
どういう理由で渡したかは不明だが、まぁ奴らの目的にピッタリの素質を持っていたのだろう。
全然嬉しくない素質だが。
「あ、そうだこれ……」
俺は、ゾタグァが倒れた後に残っていたゾ=タ・カリバーを山田に渡す。
「さすがに神話級の力は残っていないみたいだが、一応相棒だろ? 要らなければこちらで処分するが」
カイに鑑定してもらったところ、そもそもが神話級の力は持ち合わせていなかったということだ。
例の星之声が小細工をしたことで神話級まで底上げされていたらしい。
今は、ゾタグァの力が無くなったことでちょっと強い武器程度におさまっている。
「……そうだね、今後の戒めとしてこれからもソイツと共に戦うよ。もちろん、今回の試験も辞退だ」
「いいのか?」
「あぁ……今回の事で、僕はいかに増長していたかがよく分かった。ゾ=タ・カリバーの実力を僕の実力だと勘違いしてしまってね。なまじ評価されていたから、ますます調子に乗っていたんだろう」
そう語る山田の表情はどこか清々しかった。
「まぁ、それに関しては星之声がなんかしてそうだけどな」
記憶を消すくらいだ、性格の改変くらいなら軽くやっていけそうである。
文字通り憑き物が落ちたような表情を浮かべる山田を見ると、なおさらそう思ってしまう。
「とりあえず、今聞いたことは巌さん……ダンジョン課に報告だな」
ダンジョンイーターの件はともかく、星之声の事は流石に報告しないわけにもいかない。
奴は他にも目的があるようなことを言っていたし、犠牲者が山田だけとも限らない。
ダンジョン課に報告し、国レベルで警戒してもらう必要があるだろう。
「お前も、さっきの事をそのままダンジョン課に報告してもらうことになると思うがいいか?」
「構わないよ」
俺がそう問いかけると山田はこくりと頷く。
その後、山田の体力が回復するのを待ち、カイがユグドラシルの迷宮に交渉し入口まで帰還する魔法陣を用意してもらう。
カイ曰く、ユグドラシルの迷宮は何とか無事だったらしい。
あのままダンジョンイーターを放置してたら喰われて消滅してたらしいのでマジで危なかった。
地球外生命体だろうが、こちらに害がないのならば殺されるのはしのびないしな。
「さっきの戦いもそうだが、そこの彼女は何者なんだい? 複数の属性に見たことのない魔法。それに魔法陣まで出現させるなんて」
「あー……カイは世にも珍しい全属性扱える覚醒者で。スキルはダンジョンの機能への干渉。魔法陣くらいなら用意できるみたいなんだ……ってことじゃダメ?」
まずい、色々あったせいでカイの能力についてすっかり失念していた。
山田にツッコまれ、俺はとっさにすげー雑な言い訳をしてしまう。
さすがにダメか……?
「全属性だって? それに、ダンジョンへの干渉スキルとか、それこそ……いや、君たちは僕にとって恩人だ。恩人がそう説明するのなら、そういう事にしておこう。恩人を困らせるわけにはいかないからね」
だが、山田は何かを察したのかフッと軽く笑いながらひとまずの納得をしてくれた。
俺的には素の山田の方が好感度高いぞ山田。
いけ好かないキャラ路線はやめて、そっちで行けば今ならモテそうな気がするぞ山田。
でも他人がモテるとムカつくからやっぱやらなくていいぞ山田。
あと、事情を知らない人間の前では、もっとカイの力をセーブしてもらわないといけないかもしれないな。
とはいえ、ダンジョンイーター相手だとそうも言ってられないだろうが……難しいところだ。
そんなことを考えながら、俺たちはダンジョンから出るのだった。
◇
――都内某所。
人がごった返している中、フードを目深に被った黄色いローブの人物が歩いている。
雨も降っていないのに黄色のローブを着こみ、さらには怪しげな仮面をつけているというのに周りの人間は、まるでそれが普通だと言わんばかりに誰もが気にせず彼、または彼女を通り過ぎていく。
黄色ローブの人物は、そのままとある建物へと入ると、エレベーターを使い地下深くへと潜っていく。
そこは星之声の教団支部。
教団員専用のキーが必要となるため、一般人は入れない。
「おい、幻惑の。おぬしは、まーた横着してその恰好で外を出歩いとったんか」
エレベーターから降りれば、幻惑と呼ばれた人物は自分に声をかけてきた相手を見やる。
相手も、自分同様に黄色のローブを着こみ、仮面をつけており一見すれば誰かは分からない。
しかし、身長が自分よりも低く130㎝ほどで、特徴的なしゃべり方から幻惑はその人物が誰かは分かっていた。
「私は無駄を省いているだけだ。他の者のようにわざわざ違和感のない服に着替え溶け込む、という無駄な作業をしている暇があったら教皇より与えられた仕事をこなしたいのだ」
「カッー! この効率厨人間め! そんなこっちゃから足元をすくわれるんじゃぞ」
「……何?」
自慢ではないが、幻惑は今まで己の与えられた任務を失敗したことがない。
それ故に、相手の言っている言葉が理解できなかった。
「ほれ、おぬしが破壊を命じられた富士のダンジョンあるじゃろ? あそこ、失敗したらしいぞ」
「バカな。神の落とし仔の顕現は確かに確認した。人間が2人ほどいたが、落とし仔には勝てないはずだ」
「ただの人間であれば確かに勝つのは不可能じゃろうな。じゃが、おぬしが無駄を省きすぎるせいで本来なら得られたであろう情報が抜け落ちておった。全身鎧の男がいたと思うが、あやつはSランクじゃ」
「ランクなんぞあくまでダンジョンに騙されている人間が定めたにすぎん……」
目の前の人物の言葉を否定しようと幻惑は言葉を紡ぐが、そのあとに続く言葉を聞いて押し黙る。
「奴はただのSランクではないわい。なんと、ワシらでさえ入ることがかなわんかった新宿駅ダンジョンに10年も住んでおったんじゃぞ。ダンジョンの主とも言われている生粋の変態じゃ。おまけにステータスはオールSというバグっぷり。あいつ、ほんとに人間かの?」
実際は運だけがGの運カスであったが、大した要素ではないと判断しその情報はあえて補足しなかった。
「もう1人おなごの方はカイと呼ばれておったが、詳細は不明。わかっておるのは覚醒者として登録されていることくらいかの。まぁ、ただ者ではあるまいて」
確かにカイの方は危険だと判断し、神の力を行使した。
簡単に吹き飛ばされたために大したことがないと判断していたが、それが間違いだったと幻惑は自身のミスを恥じる。
「……男の名は?」
「君の前前「ふざけるな」っと、ほんとに冗談が通じんのう。あーつまらん!」
ふざける目の前の人物に殺気をぶつける幻惑だったが、相手はそれを柳のように受け流す。
「わかったわかった。男の名は宝仙。Diverをやっておる土魔法使いじゃよ」
「宝仙」
幻惑はその名を聞き、歯を強くかみしめながらその名を深く自身の胸に刻み込み、憎悪の炎を燃やすのだった。
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【あとがき】
作中ではマイルドにしてますが、ガチの津軽、南部弁は地元民でも何言ってるか分かりません。
異国の言葉です。
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