高架下
梅林 冬実
高架下
夫もいるし
だからあなたとは関われない
なんてね
真夏の真昼の高架下
10年ぶりの思わぬ再会
こんなにも人を愛する心が
備わっていたなんてと
時を重ねるごとに
驚きを覚えた
恋慕すればするほど
あなたの心と体に宿りたいと望んだ
若かった
そして青かった 幼かった
我儘だなんて微塵も考えなかった
迷惑だなんて全く思わなかった
これほど人を愛し 愛されて
永久に繋がる2人の緒
何色でもいい
この世界のどこかに
2人でいられる場所があるなら
青かった 幼かった
あなたは私を持て余した
別離をあなたは考え
私はあなたとの嚮後に思いを馳せた
突然下ろされた幕は重く分厚く
視界を遮る漆黒のベルベットに
なす術もなく立ち尽くすしかなかった
すっかり大人になったあなたと
日々の暮らしに草臥れた私と
高架下ですれ違った一瞬
懐かしい香りを全身が捉えた
ちびたサンダル
よれたシャツ
型崩れしたバッグ
手櫛で整え結わいた髪
それらが全て一瞬で
若やかだった私に立ち戻り
何の迷いもなく
懐かしい人に声をかけた
緩慢な日々に終止符を打った
あの日に戻るための星霜を経て
今日も私はあなたと「再会」する
束の間の立ち話
聞かせてくれる
子供の話 奥さんの話
そんなの耳元を擽るだけ
私はあなたという人を
真っ直ぐに見つめている
夫がいる
最愛の人が
私の人生から消え
空白を埋める何かが必要だった
誰でもよかった 誰でも
私を妻と了知し
道すがら目にする赤子に
温かな微笑を浮かべる
そんな人だから
裏切るつもりなんて毛頭ない
けど
けど でも
「買い物にいく途上で偶然会う」
それはどうしようもない
高架下 私は息を潜める
会えるか会えないかは
あなたの仕事次第
私は毎日オシャレして
いつあなたに「遭遇」してもいいように
あらゆることを拵える
高架下の先
パーキングに
その名が入った車があったなら
私はあなたの行き帰りの
いずれかを待つ
高架下で図らずも
再会してしまった2人
もしこれが運命なのなら
身を任せてみようかと
胸に熱く未来を描く
高架下 梅林 冬実 @umemomosakura333
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