第2話

「何を、言っているのですか?」

青年はスマホを指さした。近くで見ると、指が幽霊のように青白く、骨が浮き出ていた。

「この日付。一年前の八月。これ以降の写真は?」

 少女は後ずさりする。青年はじりじりと詰め寄った。

「あるわけないよね。さっき写真のフォルダ見えちゃったもん。メールも、もしかしたらブロックされてるんじゃない? さっきブロックという単語が予測変換に出てたもんね」

「・・・」

「今日の価値を聞いた時、黙ってたよね。僕、思ったよ、君は同類だって。毎日、楽しくないんでしょ。妄想に狂って生きてるけど、咄嗟の作り笑顔は出来ない」

 少女の手が壁に触れた。よりいっそう青年は声を低くして言った。

「ねえ、その友達、本当に友達?」

少女の頬を涙がつたった。

「嫌われているんじゃないの?」

「嫌われてないから!」

少女はふるえた声で叫んだ。じゃあ、と青年は言った

「疎遠になってから何ヶ月?」

「・・・一年」

「その間、友達は話しかけても来なかったわけでしょ。こうやって友達の為に何かを買うの、何回目?」

「三回目」

「それでも、元の関係には戻れなかった」

 少女は顔を手で覆った。青年は暗い声で言った。

「もう、無理じゃない? 諦めなよ」

 少女は泣き崩れ、床に座り込んだ。青年はただ見下ろしていた。少女の嗚咽する声だけが、部屋に響いた。

「一年前、ちょうど遊びに行った次の日、私の陰口が聞こえたの」

 少女はぽつぽつと話し始めた。

「その友達の新しくできた彼氏が、彼女に言ってた。彼氏さんとは部活が同じで、私は怒られてばかりいたから。私、のろまでどじで、馬鹿だから」

 少女は涙を拭って苦笑した。

「その友達はどんどん彼氏さんとべったりになっていって、私のメールの返信もそっけなくなった。やがて、メールは無視されるようになった。実際に話しかけに行くと、うざいと言われて、それっきりだった」

 写真の画面に涙が落ちる。

「友達は、変わっちゃったんだ」

でも、でも、と少女は縋るように言う。

「彼氏さんが居なくなれば、元の彼女にもどってくれるはず。きっと彼氏さんに、洗脳されただけだから・・・」

「人はそう簡単には変われないよ」

青年はため息をついて言った。

「仮に変われたとして、また同じような彼氏ができたらどうすんの? そんな友達とは縁を切って正解だよ」

 それから、と青年は続けた。

「バッグに入れてる本、今日発売のでしょ。よっぽど本好きなんだね。そんな君には、これ」

先ほど今日の星の棚にあった栞を青年は少女に持たせた。

「今日は僕のせいで最悪な日だろうから、ただであげるよ」

 少女は栞を見つめたまま、しばらく泣いていた。青年は優しい目をしていたが、目の隈のせいで、幽霊が恐ろしい笑みを浮かべているようにしかみえなかった。やがて肩のふるえも落ち着いてくると、少女は言った。

「もう、諦めます」

 少女はメールを開いて、その友達を削除した。

「最悪な日じゃありません。現実を突きつけられて、ようやく諦めることが出来ました」

少女は今度こそ作り笑いじゃない笑みを浮かべて言った。

「悲しいですけど、思考を邪魔する靄がとれたみたいで、少しすっきりしました」

 少女は財布を取り出した。

「お礼に、今日を最高の日として、お金を払います」

 青年は手を振って言った。

「いや、良いよ。それよりこれを見て欲しいんだけど」

青年はいそいそと店の奥に行って、一枚の紙を持ってきた。

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 またもや現実を突きつける一品だった。

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星の魔術師と、今日の思い出に価値をつける夜 @yakumokohaku

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