第4話 令和三年七月に突然変わったスマホの絵文字変換が元に

 第1部で触れた女のスマホの絵文字変換事件について再度記す。

 女のスマホの絵文字は、いにしえのガラケーのそれに近いらしい。

 ダイアモンド、と文字を打つと、ピンク色の線画の絵文字が候補に上がり、それを確定してそのままピンク色のダイアモンドの柄が画面に現れていた。これが通常であった。

 令和三年七月に入り、六月二十八日に「世界線シフトしたかも」と呟いたA氏と翌日DMにてやり取りするうちに、A氏のスマホ画面のダイアモンド(青色で線画ではなくて全て彩色)と同じ絵文字に少しずつ変化し、候補はピンク色の線画の絵文字、確定後は青色の彩色ダイアモンドの絵文字にと変わってしまい、時々確定後にピンクと青の両者の絵文字が混ざるといった妙な画面になってしまったのだった。

 それと、たまに確定後にピンク色のダイアモンドが出ても、裏画面と呼ぶのか正式には分からないが、各種アクティビティの確認画面では必ず青色のダイアモンドに固定されるようになったのである。これを第一次絵文字変換事件と名付けた.他にもループやマスク、人の顔などが変わってしまい、確認すると他の人たちと全く同じ絵文字になったのだった。他のフォロワーには殆ど見られない現象であった。ただ一人、お師匠と呼ぶC氏を除いて。

 その人は、アカウントはひとつであるがアプリが複数(2個?)あるとかで、詳しくは女には理解出来ないが、両者の絵文字が出るとスクショして説明をしてくれた。  

 それからずっと、候補の絵文字は原始世界線の頃の絵文字のままで、確定後は他のフォロワーが通常使用している絵文字に変換されたままであったのだ。他人のプロフィールページを見ても、女がそれまで見ていたとは異なる。他の人たちは以前からそれが普通に見えていたのだ。女だけが、見え方ががらりと変わってしまった。


 令和五年の二月のとある日曜日。

 女は家事の合間にマンデラ関連やタイムリープ関連(注:タイムリープを回避するべく視聴)の動画を見ていた。そろそろ正午になるので、お昼ご飯の準備でもしよう、と思った途端にツツツー、ポタッ、と鼻血が流れだしたのだ。

 「は?え?……あっ、血だ!」

 まるでアレルギー性鼻炎の鼻水の様な水滴に近い出方であったので、女は珍しい鼻水だと高を括っていたら赤色で驚いたのだった。随分久しぶりの鼻出血である。ここ十年以上は経験していなかった。急いでティッシュを丸めて片側の鼻腔に詰め、動揺しながら鼻をつまんだ。

 (え、何だろう?何かを食べ過ぎた?や、でもそんなに鼻血の出やすいものを食べた覚えは……血圧高い?動悸がしてるのは驚いたからだよね?)

 冷静にならなければ、興奮してはいけない。静かに、体を動かさない。余計出血しそうになるから……と、時間を見ながら丸めたティッシュの具合を見ながら取り替えて出血具合を見た。五分以上は流れていた。が、勢いはなさそうだった。そのうちつまんだ鼻から手を離し、丸めたティッシュに吸収を任せると手持ち無沙汰になった女はSNSの画面を開き、ある違和感に包まれた。

 (あれ……?なんか、違うかも……?何だろう?印象というか……?)

 流れているタイムラインには、殆どマンデラーのそれは流れない。が、そこに偶然A氏の他者へのリプライが流れたのであった。

 (ん……?なんか、変?)

 画面の印象が柔らかいと感じるのだ。何故だろう?と眺めていると、タイムライン上で使われている絵文字が、いにしえのガラケー絵文字と同じになっているではないか!

 「えっ!コレ?まさかっ!!戻ってる!?嘘っ!!マジ!?」

 急いでA氏のプロフィールページへと飛ぶ。そこには、懐かしい令和三年七月よりも前に見ていた絵文字が賑わっていた。アイコンを以前のものとは変えていたため、全く同じとは言えないが、絵文字が異なることにより、雰囲気が違うと感じるのだ。

 「え~っ!!こっちも戻ったぁ~!!えっ!いつからだっけ?確か令和三年七月からだから……えっ!一年七ヶ月ぶり!?」

 興奮してはならない時に大興奮してしまい、鼻出血に影響するのでは、と我に返り自らを落ち着かせようと試みる。

 「でも、でも、嬉しいなぁ……前はずっとこの絵文字だったんだよ……スマホを変えてないのにいきなり入力がおかしくなっちゃって……ずっとこのままかも、って……!あ!東京タワー!!」

 女は急いでウィキペディアを開く。世界線を跳んだかも知れないと思った時、真っ先に確認するのが東京タワーの彩色である。赤一色ならば、原始世界線か又は近い世界線に移れた可能性が高い。

 「……あ、なんだ……赤白だ……」

 女はガクリと肩を落とした。ガッカリしたのだ。ぬか喜びをしてしまったのだった。

 気を落としたためか、鼻出血は完全に止まった。女はこれを機に、パラレルワールドを移動しているという意識が微妙に変わっていくのだった。

 何故か分からないが、二度消えたDMが十一ヶ月で完全復活し、いきなり変わった絵文字が一年七ヶ月ぶりに何もせずに戻ったのだ。

 少しずつだが、関連動画も視聴して、女と似通った体験や、絶対回避したいタイムリープ関連の体験を知る度に、また自らの体験を踏まえて、女はだんだんと考えるようになる。


 マンデラエフェクトとは、パラレルワールドをのみで移動しているのではないだろうか。

 同時刻であっても、平行移動をしているため、躰の構造や世界の地理や歴史、また人間も同じ様であるのに異なる。鬼籍に入った人が生存していたり、氏名が変わっているのにも納得がいく。

 さながら反復横跳びの様に、行きつ戻りつしているのではないだろうか。

 

 また、タイムリープは反復横跳びと垂直跳びを同時に行った様な作用で、年月が異なるのではないだろうか。


 そして更に。精神体のみで移動(若しくは別世界線の自分とチェンジ)だけであるならば、有名な『ゲラゲラ医者』の様な人物の介入は皆無で、自らの躰ごと別世界線へ移動してしまった場合は、元の世界線若しくは近い世界線へ返すために現れるのではなかろうか?確か、跳んだ先の世界線にも同じ自分が存在するのだと思う。


 それから、人の気配も周囲の気配も無に近い異次元というか時空の狭間に躰ごと入り込んでしまった際には、有名な『時空のおっさん』が現れるのではなかろうか。躰ごと元の世界線若しくは近い世界線へ返すために。


 女は、無意識で行われた平行世界線への数回の移動により妙な体験を何度も味わう羽目になった。

 意識して行う『引き寄せの術』の存在を知っても、移動自体を好まない女はむやみやたらと移動するのを拒絶しているため、跳ぶならばピンポイントで原始世界線への移動を望んでいる。


 もうすぐ母の一周忌がやって来る。墓前に嬉しい報告をしたいものだと思いつつ、鼻腔からティッシュを引き抜いた。

 


 

 

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世界が何処かで変わってる ~マンデラエフェクトとパラレルワールド体験記~ 第3部 永盛愛美 @manami27100594

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