二十話 見た目


「…………」


【異次元の森】の奥にある滝に隠れた洞窟。その先にある分厚い扉の向こう側へと、俺は今こそ入ろうとしていた。


 何故だか知らないが、急にここへ入れるようになったんだ。細かいことは覚えていない。


 さあ、いよいよ扉が開くぞ。次は一体どんな場所なのやら……。


「クククッ」


「イ、イレイド……⁉」


 信じられないことに、そこには満面の笑みを浮かべたイレイドが立っていた。こいつ、死んだはずじゃ……?


「待っていたぞ、ルーフウゥゥッ。聞いて驚け。ここはなあ――」


「――マウス島だあぁっ! マウス島が見えてきたぞー!」


「はっ……⁉」


 気が付くとそこは自室だった。ってことは、な、なんだ……夢だったのか……。


 じゃあ、マウス島に着いたっていう声がしたのも夢……?


 でも、その割りに歓声やら太鼓やらが聞こえてきてやかましいな……いや、待て。これに関しては夢じゃない。本当の本当に到着したんだ。ふと窓の外に目をやったら、灯台のある丸みを帯びた小さな島が見えるのがわかった。


 俺はいてもたってもいられなくなり、甲板へと足を運んでいた。そこにはエミルやビリーの姿もある。


「「あ、ルーフ!」」


「エミル、ビリー。夢じゃなかったんだな。本当に着いたんだな……」


「うんっ! 長い航海だったけど、やっとね! 涙が出ちゃう」


「エミルはずうーっと泣いてるだろ!」


「ふんだ。これは嬉し涙だもん!」


「ははっ……」


 俺たちだけじゃなく、あちらこちらから弾んだ声や拍手が上がっていた。


 ただ、気がかりなこともある。マウス島っていうのがやたらと小さいんだ。


 そりゃ、マウス島っていうくらいなんだから小さい島なんだろうが、それにしたって小さすぎる。あれじゃ、島というより小さな岩礁じゃないか。人が数人住める程度にしか見えない……。


「なんか凄くちっちゃい島ね。お兄ちゃんのアソコみたい」


「え、エミルゥゥー⁉」


「ご、ごめん。アソコって、お兄ちゃんの脳みそのことだよ」


「あ、そのことかぁ。って、こいつ!」


「きゃっきゃ!」


「…………」


 エミルとビリーもあの島が小さすぎると思ったらしい。もしかして、あれはマウス島ではないんじゃ?


「「「あれ……?」」」


 そう疑い始めた矢先、俺を含めて上ずった声が上がる。俺たちはを体験することになった。


 というのも、島に近づくにつれ、それが見る見る巨大化していったのだ。


 ただ近づいただけじゃこうはならない。島そのものが成長したかのようだ。


 船が島に隣接する頃には、逆に俺たちのほうがネズミになったかのような錯覚に陥るほどだった。


 どういうことなのか知りたいが、船員たちに尋ねようにも忙しそうだしなあ。


 そうだ、こういうときこそあのスキルに頼るべきだろうってことで、俺は【迷宮】スキルの一つ、【森の精霊フローラ】を使うことに。


「お呼びでしょうか、ご主人様?」


「おお、よく来たな、フローラ。このマウス島について教えてほしいんだ」


「わかりました。ここはかつて、海賊やモンスターらの標的にされていました。島は広々としていて肥沃であり、豊富な果物や飛べない大型鳥のビーチバード等、充分な食料もあったからです。しかし、外敵によって島の生き物や住民たちは殺害されたり誘拐されたりしました。そこで、島民たちが島全体にを施しました」


「ある仕掛け……?」


「はい。【フェイク】【範囲拡大】【反響】【魔力収集】といったお互いのユニークスキルを上手く活用し、外部からは島全体が小さく見えるような結界を生み出しました。また、それがずっと続くように、島民たちから少しずつ魔力を徴収して、それを永続させることも可能になりました。それによって、スキル所有者が亡くなったあとも、効果は持続して島を守っているというわけです」


「なるほど……。マウス島の先住民たちの知恵には驚かされるな。そんなことまで知っているフローラの知識にも」


「うふふ。そんなに褒められると照れてしまいますよ、ご主人様……?」


「いや、本当に凄いよ。ありがとう」


「どういたしましてっ。よかったら私と雑談でもいたしましょうか?」


「うーん、今はいいかな?」


「はいです。またいつでも私をお呼びください……」


「フローラって、ちょっとしつこいわよ? ルーフが嫌がってるじゃない。あんたの出番はもう終わったんだからとっとと帰って。しっし!」


「あらあら。カエルさん、またおねむの時間ですかぁ~?」


「ご、ごめんなさい!」


「ふふ。わかればよいのです。それでは、用事がないのであれば失礼します」


「あっかんべーだ――!」


「――まだ消えてませんよ……?」


「ひゃっ⁉」


「…………」


 フローラ、一度消えたと思ったらまたエミルの前に出現して涙目にさせてるし、かなりの策士だな……。


「ひっく……怖いよぉ。フローラの馬鹿……。ねね、お兄ちゃん、お口が寂しいから、飴玉を【ドロップ】して!」


「わ、わかったよ。エミルは切り替え早すぎ! でも、僕もちょうど舐めたいって思ってたんだ。いっくぞぉー……【ドロップ】!」


「わぁっ、三つ落ちた。はい、ルーフ、一つあげるっ……! おいしそぉー。あむあむ……って、ぺっぺ! な、なにこれ⁉」


「え、飴玉だけど……」


「み、見た目は飴だけど、ただの石だよ、これ!」


「また僕を騙そうとして。その手に乗るか! あむ……ぶへっ⁉ ぺっぺ! ほ、本当だった!」


「だから言ったでしょ! もー!」


「ははっ……」


 俺も飴玉みたいな綺麗な小石を手渡されたが、すぐに舐めなくて正解だったな。ビリーは【異次元の森】でモンスターに対してずっと石を落下せてたからその名残なんだろう。


 俺たちはその足で、早速リトアス学園へと向かうことに。招待状にはそこまでの地図も添付されていたので、時折目をやりながら三人で目的地へと向かう。


 マウス島にあるムース町の街並みはとても美しくて整然としており、アンシラの町と変わらないくらいの規模だった。先住民の努力の結晶である結果に守られてここまで発展したんだろうと思うと実に感慨深い。


 リトアス学園はムース町の大通りに面しているということで、やがて俺たちはそこへと辿り着き、通りをまっすぐ歩いていたとき、輝くような砂浜と海辺が見えてきた。


 へえ……俺たちが通う予定の学校って、こういうところにあるんだな。結構いい感じかもしれない。


「すっごーい、きれーい! 泳ぎたい!」


「エミルー、僕たち泳ぎに来たわけじゃないだろ!」


「泳ぎに来たもん!」


「お前なあー。僕たち修行しにきたんだぞ? ルーフ、ごめん。緊張感のない妹で……」


「いや、別にいいよ。それも個性だと思うし」


「ルーフ、やっさしー! もうお兄ちゃん交代!」


「勝手に交代すんなっ!」


 まあ俺自身、エミル同様に浮かれた気分だったからな。まもなく、リトアス学園の目印である、巨大なネコの一つ目が屋根に飾られた建物が見えてきた。さらに三角屋根の両隅に猫の耳のような突起がついてて、建物の構造自体がとてもユニークだ。


「リトアス学園だっ! なんか建物が猫みたいでかわいー!」


「本当だぁっ! で、でも、一つ目だから不気味……」


「そこはルーフみたいに個性的って言うところでしょ、お兄ちゃん!」


「あ、そうだった……」


「ははっ」


 今日からここで新たな生活が始まるんだと思うと、俺はワクワク感が止まらなくなった……。

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貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す 名無し @nanasi774

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