第21話 農業、金策、この世界のバザー事情

 時間の流れ、というのは早いもので。

 気が付いた頃には、ギルドを結成したあの日から一週間が経とうとしていた。

 

 仕事に追われてへとへとになりながらも、帰ってすぐに冷食を掻き込んではログインして植物を育てる日々を送っていたのは、我が事ながらやはり正気の沙汰ではないと思う。

 そんな、たまに息抜きでダンジョンに潜っては、手に入れたスキルオーブで栽培効率の上がるスキルが出ないかと期待する生活が続いていた所、気付けば土曜日になっていたのだ。


 今日こそは寝てやる。

 何が何でも寝てやると、決意した筈なんだが……


「ギルド・アイランドでしたか?ほんっとうに何もないですねー。にしても、このゲーム買えてたんなら連絡くらいしてくれてもよかったじゃないですかー、茂クン」

「そりゃ、お前への連絡に割く時間がもったいないからに決まってんだろ。で、お前が何故このゲームを始めてんのかの説明、まだ一言も聞いていないぞ春宵しゅんしょう?大学の単位、今年も全然取ってないんだろ」

「此処に居る私はセンリョーですー。何処ぞの美人大学生とは一切関係ありませーん。ほらほら、先輩と仲良くしましょうよー」

「関係ないのか先輩面すんのかどっちかにしろ、地面に埋めるぞ碌でなし」


 俺の安眠計画は、今俺の目の前でキツネ耳を風に揺らしている畜生によって妨害されたのだ。


 このレザーアーマーを身に纏った生物は雅楽春宵ががくしゅんしょうと言い、大学で留年を繰り返しては今年カプリスこと白川奏多に学年が並んだ色々と大変な人間だ。 

 一応は俺の先輩なのだが、俺の方が先に卒業して就職したせいで、全く先輩という気がしない。

 初めて絡まれた時に、残念美人とはこの人の為に作られた言葉なのでは、と思う程の衝撃を覚えたのは記憶に新しい。


 まあ、残念なんて単語にこの人を落とし込むのが如何に無謀で意味の無い試みか、一年後には嫌という程分からされたのだが。

 ……玉に瑕という慣用句は、欠点があまりにも大きい場合に使ってはならない。


「んー、この辺でいいんじゃないですー?サブマス権限とやらでさっさとの一つや二つ建ててくださいよー。お金、欲しいでしょう?」

「……お前がギルドに入る、ってのは百歩譲って良しとするさ。ダンプティ氏も許したんだから、俺がどうこう言えるものでも無いしな」

「なら何の問題もないですねー、ヨシ!」

「良くない。いや、加入はともかく勝手にを名乗るのは普通にどうかと思うぞ!?借りた金をどう誤魔化すかに命を賭ける碌でなしに財布の紐を握られたい異常者は、生憎とこのギルドには存在しないんだよ!」


 俺の貸した金、返して貰えていない分だけでも数万は超えてそうで怖い。

 人に金を貸すときは、返ってこないものだと理解して貸せ。

 そんな人生における教訓を教えてくれた先輩には、ほんの少しだけ感謝している。

 ……その百倍くらい恨んでいるのは、言うまでもない。

 ただまあクズではあるが愉快な人なので、金銭の絡まない友人関係ならば普通に楽しいと思う。


「そもそもの話、本当に稼げるのか?口車に乗せられているだけな気もしてくるし、この後変な商材でも買わされるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんだが」

「そりゃあ勿論ですよー。ずーっとバザーとSNSを見ては、高騰しそうなアイテムを買い占める日々を送ってたんですから。その結果いくつか分かった事があるんですが……今一番需要があるの、間違いなくなんですよねー」

「まあ、何となく理解できる。街で売ってる回復ポーションも、高い上に一日に買える量も少ないからな。実際、俺もこの”スプラッシュピーチ”が手に入るまでは苦労したからな。だが……これを大量に出品したら、回復アイテムの希少性は薄れてしまうんじゃないか?そうなったら、どのみち売れなくなる気もするが」


 ”シード・マガジン”の効果で手に入れ、”ユグドラシル・ガーデナー”の効果で高速栽培した植物たち。

 その中でも、”アイテム・ランチャー”で打ち出して強い植物……要するに、”投げる”だけで効果が発動する植物は、頭一つ抜けて便利だ。

 攻撃面では爆発スイカこと”ファイアーメロン”、そして回復面では件の”スプラッシュピーチ”などが当てはまる。


「ある程度のプレイヤーが武器防具を作り終わったら価値の薄まる素材類なら、確かにそうですねー。でも、私たちが売ろうとしているのは一回の戦闘で十個とか消える回復アイテムですよー?しかも、世界的大ヒットを記録したゲームの全プレイヤーがターゲットなんです。金の匂い、しませんか?」

「……そう、だな。俺が一日中桃を生産する羽目になる事を除けば、確かに金にはなる……よな?なってくれるよな?」

「当然ですともー!ギルド名義での出品であれば出品数に制限ナシですし、転売されても数の暴力でゴリ押せば、無からアイテムを生み出せる我々の勝ちです!」


 ……俺の持っているスキルが無ければ、植物の大量生産は叶わない。

 ”スプラッシュピーチ”自体は普通に手に入るアイテムだが、数十本の木を一瞬で生み出せるのはこの世界に俺だけだろう。


 少し汚い手の様にも思えるが、緑化の為には100万ゴールドを貯めねばならない。

 本来なら、”まっかせて!”なんて意気揚々と発言した本人の意思を尊重し、金銭面もカプリスに頼る予定だったのだが……

 なんか思ったより貯金がなかったらしいので、その分俺とセンリョー碌でなしで頑張るしかないのだ。


 アース・ドラゴン討伐隊を作る為の根回しも、順調に進んでいるといいが。

 


 

 

 

 

 

 








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