第20話 第一回ギルド”ドラッグライン”方針会議
「それではこれより、第一回ギルド”ドラッグライン”方針会議を行う!」
「おー!で、何するの?外が荒れ地になってるのは確認したけど……あれ、バラン1人に整備させるのは流石に酷だよ?時間が無限にあるならともかく、また明日からは仕事でしょ?」
「そういえば、バランさんも社会人ですか?」
「あー、一応な。有休もあるにはあるが、基本的に休日以外は夜に数時間しかログイン出来ないと思ってくれ」
「ふむ。なら、ギルドメンバーで集まる時は休日が主……で、良いよね?」
「多分な。それより、早く本題に入らないか?」
そう。
今日の議題は、外の惨状についてだ。
緑豊かで、白い砂浜と青い海の輝くリゾート地……の雰囲気があるのは、今俺達のいるこの別荘、ギルドハウスだけだ。
キッチンからベットルーム、果ては露天風呂まで完備されたこの別荘の外は、見事なまでの
この島に豊かな緑は存在せず、ただ枯れ木のみが並ぶ閑散とした光景だけが広がっていたのだ。
世界で最も眺めの悪い露天風呂は、此処にある物で間違いない。
「今回の議題は、ずばりあの荒れ地をどうするかだ。あのまま放置していては、新しいメンバーの勧誘どころではないからな!」
「うんうん。それに、精神衛生上良くないしね!いや、私は好きだけど」
「……個人の好みはともかく、今回はあの荒れ地をどうにかする方針で動くから、一応そのつもりでいてくれよ?で、具体的な策だが……ギルマスとサブマスのみが行える”ギルド・アイランドの設備追加”を使用する!」
設備追加……ああ、これか。
フレンドメニューの隣に追加された、ギルドメニュー。
その中に、”ギルド・アイランドの設備追加”と書かれたタブがある。
これで追加できるのは……鍛冶場や畑、プランターに……滝?
その他、木を植えたり、巨大な木を植えたり、特殊な木を植えたりも出来るらしい。あと、桜の様な木や紅葉の様な木も植えられる。
俺のスキルでも代替可能なものも複数あるが……代替不可、かつ重要そうなものだと”道具屋の追加”の様なNPCを呼べる系統だろう。
「……あ、もしかしてこれか?”荒れ地バイオームを緑化する”と書かれたやつ」
「え、なにそれ!それ使ったら1発じゃない?」
「うむ、最初は私もそう思った……の、だがな。バランは見えるだろう?この、膨大な数の消費素材と
「待て、今確認する……うっわ、マジかよ」
確かにこれは、方針会議を行わなければならない量だ。
100万
よく分からない植物の種が5種類、各100個。
世界樹の精霊粉……多分、モンスターのドロップアイテムが50個。
何よりも問題なのは、最後に書かれたアイテム。
”アース・ドラゴンの魔石”、1個。
数こそ少ないが、間違い無く一番の難所となるのはこのアイテムだろう。
「これ……無理では?」
「え、何が要求されてるの!?2人だけで盛り上がってないで、私にも教えて?」
「あ、悪い。ギルド用のチャットに要求素材は貼っておくな」
こういう時、ある程度のテキストはコピーして貼り付けられるのは便利だな。
「お、来た来た。えーと……要求金額多くない?種系はバランが何とかするとして……え!?”アース・ドラゴンの魔石”って、流石にミスでしょ!?」
「待て、種全部俺が用意するのか!?」
「それはまあ、そうでしょ?そんな事より、アースドラゴンはマジでヤバい!他のドラゴンと違って、まだ居場所すら発覚してないんだから!」
「本当ですか?ドラゴンなら、体も巨大ですぐに見つかりそうなものですが……」
「あー……このゲームのドラゴンって、ちょっと特殊なんだよね」
ドラゴン。
古今東西様々な作品に登場する、いわば上位種の象徴。
多くの場合、最強の存在だが––––––––
このゲームにおいても、それは変わらない。
いや、それどころか、文字通り格の違う存在なのだ。
「そもそも、ドラゴンってのは名前だけなんだよね。本物の竜じゃなくって、最強のモンスターに与えられる称号、みたいな」
「では……仮に最強のスライムが居たら、名前がドラゴンになる感じでしょうか?」
「その通り!というか……本当に居るんだよね、見た目ぷるぷるの巨大ゼリーなドラゴン。鑑定スキルによると、名前は”ラグーン・ドラゴン”。見た目、ただのスライムなんだけどね!」
「……待ってくれ、そんな不動の最強格を私達は島を緑化する為だけに倒さないといけないのかね!?」
……確かにそれは、違和感がある。
島の緑化は確かに重要で、かつ大規模なプロジェクトだ。
だが、流石にコストが重すぎる。
このゲームにおいて、入手難易度が桁違いなドラゴンの素材。
恐らく武器の素材などにもなるそれが、本当に緑化の為だけに消費されるのか?
何か、裏がある気がする。
緑化したら埋蔵金が出てくるとか、世界樹が生えるとか、その位はあるのでは?
というか、そうでないと割に合わなさすぎる!
––––––––が、今のところはどう足掻いても絵に描いた餅。
夢があるだけの、机上の空論でしかない。
「うーむ……どうしたものか。緑化そのものを諦めるしかないのかね?」
「……ですね。いくらカプリスさんが居るとはいえ、私達だけでドラゴンを討伐するのは、流石に……」
「仕方無い、緑化は俺がなんとかしよう。何日……いや、何ヶ月かかろうとも必ずやり遂げてみせるから、任せてくれないか?」
「キミ1人に任せるのは心苦しいが……頼むぞ、バ––––––––」
ここに居る皆がドラゴン討伐を諦め、現実的な方向へ舵を切った。
俺のやるべき事も定まり、これにて会議はお開きに。
––––––––しかし、その方針に。
異を唱える者が、まだ一人此処に存在している!
「ちょーっと待った!単独で終わるかも分からない緑化を進めるより、間違い無く現実的かつ面白い案が!あります!」
その言葉によって、その場の雰囲気ががらりと変わる。
「なんと!で、その案というのは何かね?」
「そう––––––––ズバリ、色んなプレイヤーを巻き込んで、アース・ドラゴン討伐隊を作ります!ドラゴンがフィールドボスである以上、数で叩くのが一番速くて現実的だからね!」
鶴の一声……と言うには非常にやかましいが、それは置いておいて。
カプリスのお陰で、俺達の進むべき道は確定した。
「……私、ダンプティはギルドマスターとしてこの方針に賛同する。キミ達は、どうかね」
「俺は当然、賛成だ。実現すれば、最高に馬鹿げた祭りになるだろうからな。しかも俺達が主催になれて、緑化もできるおまけ付き。やらない手はないだろ?」
「皆様がそう言うのであれば、私も微力ながら力添えを。何より、楽しそうですものね!」
「……みんながそう言ってくれるなら、私も色々やらないとだね。じゃ、ギルド”ドラッグライン”は、アースドラゴンを討伐する為心血を注ぐ事が決定しましたー!」
「え、それは私が言いたかったのだがね!?」
俺に出来る事を、出来る限り全力でやろう。
そう、決意を新たに固めた……と、同時に。
これから起こるであろう波乱の予兆に、少しだけ気が重くなった。
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