第19話 無人島にひとつだけ持っていくならシャベル一択
「これにて、ギルド”ドラッグライン”設立である!」
そんな、勇ましいダンプティ氏の声で何となく士気とテンションが上がっていた俺たちは、突如アイテムボックスに出現した鍵の存在に苦心していた。
状況的に、この鍵がギルドの本拠地––––––––ギルド・アイランドへと移動する為のキーアイテムなのだろう。鍵だけに。
だが、スキルオーブなどの様にアイテムボックスから使えるタイプでは無いらしく、かれこれ数分ほど頭を悩ませていた。
「うーん……普通に使おうとしても無理だし、近くにそれらしい鍵穴はないし、飲み込もうとしてもなんか弾かれたし……うん、お手上げかな!」
「あと試していないのは……思いつきませんね。すでにギルドを作っていらっしゃる方々に助けていただきますか?」
「えー?私の知ってるギルドとか一箇所だけだよ?しかもあいつら、めっちゃ私の事勧誘してくるからなー……悪い人達じゃないけど会いたくないなー……」
「まあ、カプリスの実力ならどんなギルドも欲しいだろ。てか、後は本当にこの鍵を超高速でぶん投げるくらいしか無くないか?」
「げ、本当に出来たあ!?いやいや、ただのおふざけのつもりだったのだがね!?」
その声を聞き、急いでダンプティ氏の方を見る。
するとそこには、何も無かった筈の壁に鍵を差し込んでいるダンプティ氏の姿が。
……え、どういう事?
そもそも、なんで鍵が壁を貫通しているんですか!?
「扉!扉だよキミ達!……え、何その狂人を見る様な目は。もしかして、この扉が見えていないのかね!?」
「ええ、全くもって。……鍵をその辺の壁に差し込めばよろしいのですか?」
「ああ。そうすれば多分、雰囲気の良いロッジの扉みたいなのが出現すると思うのだが……どうだね?」
「……本当ですね。壁さえあればどこであってもギルドへ移動できる、という事なのでしょうか?」
二人して何もない壁に鍵を差し込む、という傍から見れば奇怪極まりない光景を眺めていた所、二人は壁の向こうへと消えてしまった。
こうしてはいられない。俺も、手に持った鍵を壁に差し込む。
––––––––確かに、これはコテージのドアだ。
木の板の質感と温かみを残しながら、職人の手によって丁寧に作られた事が見て取れる。
俺は木材の加工についてはてんで知識が無いので、適当言ってるだけなんだが。
意を決してドアノブに手をかけ、いざ扉の奥へと進む。
そこは、紛れもなく別荘の中だった。
「無人島って聞いてたから、てっきり何も無い浜辺にでも放り出されるかと思っていたが……何だこれ。椅子と机も置いてあるし、至れり尽くせりかよ何なんだ!?」
「どうしてそこでお怒りに……設備が充実しているのは良いことでは?」
「いや……無人島に来るつもりが、俺の家より圧倒的に豪華な別荘に辿り着いたの、全く想定してなかったせいで何故か虚しい……」
「すみません、あまりおっしゃっている事が分かりません」
「それ以上はやめてやれ、彼にも彼なりの事情があるのだよ……多分」
ダンプティ氏の優しさが逆に辛い。
とりあえず、現実に帰ったら部屋の掃除でもするとしよう。
「にしても、本当色々あるな。大人数で集まれるダイニングだろ?俺の家より設備の充実したキッチンだろ?後は……階段があるって事は2階もあるのか」
「……む?ギルドメニューも追加されているな。メンバーリストと……ギルド・アイランドの設備追加?よくわからん素材と大量の
「だな。さっきから二人の姿が見えないが……まあ、俺たちは外の様子でも見に行きますか?」
「うむ、賛成だ。さてさて、この扉の向こうにはどんなリゾート地が––––––––」
そこは、どこからどう見ても荒地だった。
植物はほとんど生えておらず、あるのは膨大な数の枯れ木のみ。
無人島というよりも、戦争とかで滅んだ世界を彷彿とさせる。
「……え、なにこれ」
「……なんでしょうね、これ」
言葉も出ない、とはこの事だ。
無人島を開拓するつもりで来たのだが、開拓できる土台がそもそも存在しない。
むしろ、こんな荒廃した島に綺麗な別荘が存在する方が違和感だ。
……そもそも、ここって本当に島なのか?
「この惨状から復興……出来ます?」
「……バラン、キミのスキルがあれば……出来るんじゃないかね?」
「あー、確かに?試してみますか。”リソイル・アルケミー”!」
シャベルを地面に向け、スキルを使用する。
”特定の物質を土に変換する”スキルなら、きっと荒れ果てた土も綺麗に––––––––
ならない。
MPだけが消費され、荒野は相変わらず荒野のままだ。
「あれ?……あ、土は土に変換出来ないって事か。なら、こっちはどうだ!”ユグドラシル・ガーデナー”!」
改めてシャベルを荒野の土に突き立て、スキルを使う。
荒れ果てていようと土は土。
なら、きっと耕して畑に出来る筈だ––––––––!
「……よし成功!見てくれたかダンプティ氏!これなら、島全土の緑化も夢じゃないぞ!」
「あー……喜んでいる所に水を差したくは無いのだがね?」
「何です?」
そうだ、何を言い淀む事があるのか。
緑化の兆しが見えたのは、実に喜ばしい事だろう?
例え、いくら時間がかかるとしても。希望があるだけマシな筈だ。
「……この島、どれだけ広いと思う?」
「さあ……あ、淡路島くらい?」
「言っておくが、淡路島は相当広いぞ?それに、ぶっちゃけ島の広さは大した問題じゃあないのだよ。生えまくっている枯れ木を抜き、スキルで土を耕し、そこに草の種を植えて緑化する。その工程を何時間も一人で続けるつもりかね?」
「それは……まあ、気合いで?」
「いやいやいや、正気か!?もういい、キミが正気かどうかはこの際関係ない!私は、もう少し現実的な手段を模索するべきだと言っているのだ!分かったか!」
正論だ。
とんでもなく正論だが、だからと言ってどうすれば良いんだ?
人海戦術……すら、スキルを使えるのが俺だけなせいで不可能だし。
「仕方ない。ここはひとつ、皆で知恵を振り絞るしかないだろうな」
「と、言いますと?」
「––––––––第一回、ギルド”ドラッグライン”方針会議を行う!」
……メンバーがメンバーなので、もの凄く不安だ。
どうか、まともな案が出ます様に。
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