第18話 シャベリスト達はギルドを設立する
主に俺のせいで混沌としてしまった森の片付けを終え、様々な植物の種を手に入れた俺達は、絶賛港町へと来訪している。
何故かって?
それは当然、ファンタジー世界特有の美味しい海産物を味わう為……という理由で来たのは恐らくダンプティ氏のみ。
俺を含めた3人の目的は、至ってシンプル。
この港町シーガルにある冒険者連盟本部で、新たなギルドを作る為だ。
「ううむ……これは……困ったな……」
「ダンプティ氏、何か気になる事でも?」
「いや、このクラーケン焼きがなかなか噛みきれなくてな……」
「わかるー。これ、なかなか食べにくいよね!」
「お前も食べるのね……なあカプリス、本当にこっちで合ってるのか?本部がこんな街の端っこにある気がしないんだが……」
活気あふれる露店が立ち並ぶ大通りを横に抜け、現在は海沿いのレンガ造りの倉庫の間を縫って進んでいる。
海沿いにある倉庫って、何となくマフィアが取引しているイメージがあるのは俺だけだろうか?
拳銃とか、法に触れるタイプの草とか。
……後者に関しては、アイテムボックスにいくつか入っていてもおかしくないな。
皆が収集してくれた分の種も持っているので、実をいうと効果を理解していない種の方が多いのだ。
「あ、あの建物ではないでしょうか。ほら、マークの様なものが描かれた看板も付いてますし」
「そう……か?中にいるの、連盟員じゃなくマフィアだったりしないか?外見に関しちゃ、ぶっちゃけその辺にあった倉庫と大差ないぞ」
「ふう、ようやっと噛み切れたわ。全く、クラーケンは強敵だった。……何を立ち止まっている、さっさと行くぞ?何たって、私がギルドマスターとして輝かしい功績を残す為の最初の一歩なのだからね!」
「は?ギルマスは私だけど?」
「いや、ギルドマスターは俺だ。お前達が何と言おうと、俺には最強の農業ギルドを作るという使命があるからな。ここでそう易々と引き下がれる訳が無い」
3人揃って勇み足で冒険者連盟本部へと突撃する。
……後ろから感じたとても冷たい視線が誰による物なのかは、言うまでもない。
覚悟して入った建物の中は、意外にもかなり整っていた。
石畳の床は暖かな色の照明で照らされており、所々に木造りのテーブルやベンチ、観葉植物が置かれている為、石の冷たさを感じさせない。
連盟本部の端に作られた小さな酒場は、明らかに定員オーバーな人数が集まり盛り上がっている。
アットホームな職場、と書かれていても納得できる建物だ。
「さて、仕方ない。ギルドを作るにあたって決めないといけない事があるが……分かるよな?」
「うん、当然だね」
「ふむ、あれしかないだろうな」
「……勝手にしててください」
そう。ギルドを作るにあたって、絶対に決めなければならない事。
それは––––––––
「ギルド名だ!」
「ギルドマスターだよね!」
「ギルドの方針に決まっているな!」
「「「は?」」」
……前途多難とは、こんな状況の事を指しているんだろうな。
「さて、今まで張り合っておいて何だが……正直なとこ、俺は敷地が貰えればそれで良いんだよな。ギルドマスターも方針も、自由に決めてくれ」
「ぶっちゃけ、私も細かい色々は面倒だからやりたくないんだよねー。だからまあ、ダンプティがギルマスでよくない?」
「……釈然とせんが、まあ良いだろう。なら、次は方針か。……少なくとも、攻略や検証を本気でやるタイプではないだろうな」
「だな。初心者歓迎で、面白そうな人を勧誘しながら気楽にやってきゃそれでいいだろ。カプリスもそれでいいよな?」
「うんうん、結局そのくらい緩い方が私も助かるしね。じゃ、あとはギルド名か。大丈夫、私にまかせて!すごくいい感じの名前を考えるから!」
よし、ここが正念場だ。
まず第一に、俺のネーミングセンスは割と壊滅的だ。
その上で、カプリスと比べるのなら俺の方が圧倒的に上だと自負している。
モルモさんかダンプティ氏。
そのどちらかが、最低限俺よりもマシなネーミングセンスを保持している事を祈るしかない。
「……よし、思いついた!バラン、確か農業ギルドって言ってたよね?そんなバランにも配慮して、”アンデッドファーマーズ”とかどう?」
「何故アンデッド!?よしカプリス、お前は戦力外だ。頼むから今後命名に関する議論で一切発言しないでくれ!」
「はあー!?戦力外も何も最初っからベンチに居る人に言われたくないですー!」
「”アンデッドファーマーズ”、良い名前だと思いますよ?ですが、改善点を挙げるなら……かっこいい単語が不足しています。漆黒とか、堕天使とか––––––––」
「モルモさん、それ以上は大丈夫です。貴方も話さないでください」
困った、本当に碌な名前になる気がしない。
流石にこの二人だけに任せるのは不安なので、俺も考えてはいるが……
不思議な事に、今はカモシカが頭を埋め尽くしている。
このままでは、”ノワールカモシッカー”みたいなただただ意味不明なギルド名を提案する羽目になる。
「なあ、キミ達。最低限、メインにする単語くらいは決めないかね?」
「あー、その発想はなかったかも。ダンプティ、柄にもなく役に立つじゃん!」
「……すまない、俺は今カモシカに侵略されている!」
「単語……やはり堕天使ですね」
「……全員もれなく混乱のデバフにでも罹っているのかね?はあ、まったく……ならばせめて、和風か洋風かくらいは決めてくれ。でないと、私が手伝う事すら出来ないからね!」
凄い、ダンプティ氏が救世主に見える。
「……ああ。”牽引自動車”か、”トラクター”か、という問題だな」
「いやまあ、そうなのだが……例えの癖が強くないかね?」
「んー、だったら私は洋風の方に一票。他のゲームで私が所属してたギルドは大体和風系だったから、今回は違う感じがいいってだけなんだけどね!」
「俺はどっちでもいいな。ただ、農業か鉱業に関わる単語が入っていると嬉しい」
「農業か鉱業……重機の名前などいかがでしょうか?私は詳しくありませんが……」
「……ふむ。よし、少しだけ席を外すぞ。しばし待っていてくれたまえよ。そう、決して勝手にギルドを設立したりはしない様に!」
そう伝えるや否や、ダンプティ氏はすっとログアウトした。
頼むぞ。俺たちにはもう、貴方に縋るしか道はないんだ。
……本当に頼む。
俺では、実に不穏な会話をしている二人を止めるしか出来ないからな!
* * *
「おお、その様子なら本当に待っていてくれた様だね!いや良かった、正直無視されると思っていたからな!それで、肝心のギルド名だが……”ドラッグライン”なんかはどうかね?面白そう、かつ響きの良い重機の名前としては及第点だろう?」
「おお!……少なくとも”ノワールカモシッカー”よりはいい名前だ」
「は、ノワ……何?それはそうと、それってどんな重機なの?」
「聞いて驚け、ドラッグラインはな……凄く巨大だ。そして、歩く。どうだ、最高だろう?私もついさっき知ったのだがね!」
なるほど。
凄く巨大で、歩く重機。
最高だな。何より、とんでもなくロマンがある!
というか、ドラッグラインの事は昔テレビで見た気がする。
確か、露天掘りと呼ばれる採掘法で使われる巨大なクレーンの事だ。
……スキルで欲しいな。
それさえあれば、例の土9999個を要求する畜生スキルも気軽に使えるのに。
「とりあえず、俺は賛成だ。採掘・農業専門ギルド”ドラッグライン”って、割とカッコよくないか?」
「言われてみれば……仕方ないですね、私も賛成です」
「あ、みんなそれでいい感じ?なら私も賛成!」
「よし、満場一致だな。ならば私が軽くギルド申請も済ませて来るので、そこで待っている様に!」
冒険者連盟本部の窓口へと歩くダンプティ氏を見送る。
もしやあの人、結構有能なのでは?
今後も頼れる場面があれば、遠慮なく頼るべきだな。
……戦闘以外で。
「ようし、ギルド登録はつつがなく終えてきたぞ!後は、キミ達がこの紙に署名するだけだ!……あ、ギルドのサブマスターは誰がやるかね?それだけは決めてくれたまえ」
「んー、面倒そうだし私はパス。バランで良いでしょ?あ、モルモさんが良ければ、の話だけど」
「私はどちらでも良いですよ?事務作業はあまり得意ではありませんが……別に、細かい支出を管理する必要も無いでしょうし。バランさんにやって頂けるなら、それが一番楽ですけれど」
「なら、サブマスはバランで決まりだね!」
「了解した。ほれ、これがサブマスター用の契約書だ。後からでも変えられる様だからな、まあ気楽に楽しんでくれ。頼んだぞ、バラン!」
何だろう。何故だか分からないが、凄く流されている気がする。
まあ、農業をやる分には、俺の役職なんて些細な問題だろうな!
––––––––多分。きっと。恐らく。
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