第17話 シャベリストは天職に転職する
レイドバトルが終わり、大量に集まっていたプレイヤーも皆、どこかへ消えていった。
今この森に残っているのは、俺達のパーティーと––––––––
こちらへ駆け寄って来る
「バラン!良かった、ようやく見つかった。で、そちらの方々が件のパーティーメンバーですか。……え、ダンプティ!?何でいるの!?」
「待て、ダンプティ氏と知り合いだったのか?思いっきり初耳なんだが」
「それは私の台詞なんだがね?バラン、此奴と面識があったのか!?」
「……私、完全に置いていかれてますね……」
完全に理解が追いつかない。
たまたま出会ってパーティーを組んだダンプティー氏と、このゲームの最上位勢にして俺の友人であるカプリス。
この2人が互いを知っているとは、全くもって思わなかった。
……何にせよ、頭の痛くなる組み合わせだ。
一度平静を保つ為にも、新しく入手したスキル、”ユグドラシル・ガーデナー”の効果で土を耕す。
「……ま、初顔合わせの人も居るんだし、改めて自己紹介を!私はカプリス、このゲームで最強のプレイヤー……ではないけど、5本の指に入る位の実力者です!とはいっても、割とエンジョイ勢なので……気軽に接してくださいねー」
「それでは、僭越ながら私も。私はモルモ。まだまだ初心者ですが、よろしくお願いしますね、カプリスさん。ところで……お二人はどんな関係で?」
「む、それを聞くか?此奴とは一度パーティーを組んだだけなので、実は少しの因縁しかないぞ?」
「いやいや、聞かれたのは私とバランの方でしょ。ま、腐れ縁ってやつでしかないんだけど––––––––て、バランどこ行った?あとなんか地面がふかふかになってない?」
遠くで、呼ばれた様な気がする。
でも、今はそんな事より耕す方が先決だ。
地面をシャベルの先で軽く突くと、大体一畳半位の範囲が耕される。
スキルを使えば使うほど、目に見える成果が手に入る快感。
このスキルに、これ以上の効果なんて必要ない。
最強の暇つぶし。これこそが、このスキルの真価だったのだろう。
ああ、楽しい!
「––––––––ラン。バラン!……あ、良かった。今回は結構早く現実に戻って来れたね。……最近、嫌な事でもあった?虚ろな目で地面を耕し続けるの、側から見ればただのヤバい人だよ?」
「今回は?バランさんがおかしくなるの、割とよくある事なんですか?」
「うん。疲れてる時とか、放っといたら何時間でも単純作業し続けるよ?昔っからの癖なんだけど……害はそこまで無いから、普段は放置で全然大丈夫だね」
「大丈夫じゃないが!?ったく、この程度は誰にでもあるだろ、誇張しすぎだ。何時間も作業すんのは、年に数回位だっての」
……前にそのレベルで作業したの、いつだっけな。
何となく頭を掻きながら、意味の無い思考を走らせる。
「あ、そうだ。耕すのに使ってたのは別で、新しいスキルを手に入れたんだよ。カプリス、ちょっと見てみてくれないか?」
「……あの忌々しい種のやつかね。今度は私に向けて撃たないでくれよ?」
「種?え、何それ面白そう!見せて見せて!」
「了解。……中々に危険だったんで、地面に向けて撃つので勘弁してくれよ?」
地面に向けて、シャベルを構える。
「”シード・マガジン”!」
スキル名を叫ぶと共に、シャベルの先から色も形も大きさも異なる大量の種が撃ち出された。
そして、耕された土に着弾し––––––––
刹那。
種が周囲に弾け飛ぶ。
そして。
辺りは、様々な種類の植物に埋め尽くされた。
「おおー!一瞬で大量の植物を生やすスキルとか、すっごい面白いやつじゃん!」
「……え、なにこれ。俺知らないんだけど」
「知らないって……バランのスキルでしょ?スキル名もシードなんちゃらとか言ってたし、種を飛ばして急成長させる魔法じゃないの?」
「いや、これは種を飛ばすだけのスキルの筈で……スキルの説明にも、ランダムな植物の種を連射するとしか書いてないんだよな……改めて、何なんだ、これ」
現実にもありそうな広葉樹が生えているかと思えば、その横には明らかにサイズのおかしい、人とか食べてそうな食虫植物が。
桜の様な木は、その美しい見た目と裏腹に毒の霧を撒き散らしている。
その他、触れたら爆発するスイカ型の危険物に、上にいると回復する白い花なども存在し、平和だった森はありとあらゆる植物が生え散らかす謎の空間と化していた。
何故か移動速度が上昇しているが、どの植物由来なのか一切見当がつかないのも少しホラーだ。
……一応この植物達は仲間判定なのか、うっかりスイカを蹴り飛ばしてもダメージを喰らって死ぬ事が無いのは助かる。
「でも、バランが知らないとなると……バグ?それとも隠し仕様?」
「バグにしては出来過ぎだし、流石に仕様だとは思うぞ?まあ、なにがトリガーになってこんな珍事が引き起こされたのかは分からないんだが」
「うーむ……ま、面白いんだし良いんじゃ無いかね?」
「……私、何となく分かったかもしれません。バランさん……確か、地面を耕していましたよね、スキルを使って。それが原因では無いでしょうか?」
もしかして、”ユグドラシル・ガーデナー”の事か?
だがあれは、何となく楽しいだけのスキルの筈。
ほら、効果だって、”土を耕し植物の成長速度を限界まで上昇させる”としか書いてない訳で、これが原因の訳が––––––––あ。
成長速度を、限界まで……ねえ。
これ、もしかして、種が触れた瞬間に成長しきるとかそのレベルですか?
「……解決しました。全部俺のせいです、はい」
「あ、そう?じゃ、次の課題は……この植物達をどう処理するか、だね。面倒だし、私が全部焼いちゃおっか?」
「いや、それは勿体無い。確か、一部の植物は壊せばアイテム化する筈だからな。これだけ大量に生えたんだ、中には高価な物もあるかもしれん」
「でしたら、手分けして採取しましょうか。私は適当に木を倒してくるので、草花の方はお願いしますね」
え、木を倒す?モルモさんの武器、確かメリケンサックでは?
まあ、皆が手伝ってくれるのは実に助かる。
俺もひとまず、近くにあったスイカを慎重に蔓から切り離す。
……結局、10個ほどあったスイカの内、爆発させずに入手できたのは2個だけだった。
苦労して入手したスイカの名前は……ファイアーメロン。
スイカは英語だとウォーターメロンと言うらしいので、それが名前の由来なのだろうが、それにしてもスイカ感が無さすぎる。
そんな、名前だけだとただ燃えてるメロンな爆弾スイカだが、ひとつ嬉しい誤算があった。
ファイアーメロン自体だけでなく、その種もアイテムとして手に入ったのだ。
これなら、ファイアーメロン農家となるのも夢ではない。
一番の問題は、やはり敷地だろうか。
「なあ、カプリス。危険物を栽培しても問題のない場所って知らないか?」
「んー……心当たりはいくつかあるけど、やっぱ広い方が良いよね?」
「ああ。それと、変に人が来ない所がいいな。人気のない所であっても、来る時には来てしまうんだし……困った事に、な」
「ふーん?じゃ、やっぱりアレしかないね!」
何となく不安が脳裏をよぎるが、流石に無茶な事は言わんだろう。
精々、人の来れない超高難易度のエリアに行こう!程度の筈だ。
しかし。
カプリスが提案してきたのは、俺が考えてもいなかった方向のものだった。
「ギルド、設立しよ?このゲームのギルド、作るだけで無人島が付いてくるらしいし……正直私も気になってたんだよね!」
無人島、か。
自由に穴が掘れて、自由に植物も栽培できる。
何でもできるというのならば、目指す地点は明確だ。
––––––––最強の農家に、俺はなる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます