第16話 レイドにシャベルの居場所は無い

 俺は再ログインし、モルモさんとダンプティ氏の2人になんとか合流した。

 レイドバトル開始までは、残り30秒程。

 これ以上遅れたらフィールドから締め出されていたので、本当に危ないところだった。


【それでは只今より、レイドバトルを開始します】


 しかし、結果だけ見るのなら。

 死ぬ気で急ぐ必要性は、どこにも無かった。


 なにせ俺は……いや、は。


 レイドボスに一撃入れる事すら、叶わなかったのだから。


「何なのだね、これは。地獄か?地獄というものなのかね?」

「……最終決戦にシャベルだけ持たされて放り込まれた気分だ」

「バランさんの場合、実際その通りなのでは?でも、言いたい事は分かります」


 ……断片的に見えた情報から推測する限り、レイドボスは恐らくだったのだろう。

 中ボスの木をダンジョンの床に埋める事で、ダンジョンと一体化してボスになる。

 そういう一種のお遊び要素……という解釈でいいんだよな?


 ああ、けれど。

 俺たちが見たのは、一方的な蹂躙だった。


 全てを焼く炎の花が、一瞬で大樹を包み込んだ。

 美しい虹色の斬撃が、残った枝葉を剪定した。

 複数の蒼い流星は、大樹の伸ばした蔓を見事に消し飛ばした。

 魔法の絨毯で空を翔け、爆炎の中へ何の躊躇いもなく飛び込んだ者がいた。

 

 そんな、規格外の戦いに。

 至って普通の装備をした男が、臆する事なく切り込んだ。

 ––––––––彼こそがこの世界におけるのプレイヤーだと、この場に居合わせた全員が気付いた時には。

 何もかもが、終わっていたのだった。


【プレイヤー”コンラ”によってレイドボスが討伐されました。レイドバトルの貢献度に応じた報酬が獲得出来ますので、プレゼントボックスをご確認下さい】


 ワールドアナウンスだけが、何も出来なかった一般プレイヤーの間で虚しく響き渡る。


「貢献度と言われても……獲得できるの、数人しか居ないんじゃないかね?」

「さ、参加賞のスキルオーブは貰えますから……」

「まあ、無いよりはマシ……と、思うしか無いんだろうな」


 お通夜の様な空気は、俺たちのパーティーにも流れている。

 ……さっさとスキルオーブを受け取って、今回の戦いは見なかった事にしよう。

 そんな後ろ向きの考えは、幸運な事に吹き飛ばされた。


 スキルオーブと共に入っていた、よく分からないによって。


「……何だ、これ」

「大丈夫ですか?もしかして、参加賞すら貰えなかったとか……」

「流石にそれは無いが!?……というか、その逆でな。何の説明もなく変なアイテムが入ってたんだよ。消費アイテムみたいだが、効果説明も書いてないし……」

「ふむ。もしかして、アレではないかね?レイドを発生させた事に対する報酬、みたいな。……それならそれで、私だって欲しいけどね!?」

「もしかして、特殊なスキルが手に入る物ではないでしょうか?本以外のアイテムにも、説明無しでそういう効果の物がありましたので。私の経験談でしかありませんから、何の保証もありませんが」


 本……ああ、例のクソスキルウェポン・アルケミーが手に入ったやつか。

 モルモさんが今までどんな旅をしてきたのかも興味があるが、それよりも今はこのアイテムだ。

 名前は、世界樹の神核。

 どう考えても貴重なアイテムだが、ぶっちゃけ効果は二択だろう。


 モルモさんの言った通り、スキルが手に入るのか。

 はたまた、普通に回復アイテムなのか。

 後者だった場合でも、笑い話にはなるので問題はない。


「じゃ、使ってみるか。できれば、強いスキルが出ます様に」

「おお!で、結果はどうだ?デメリットは付いておるか?」

「ダンプティ氏、俺を地獄に引き摺り込もうとするのはやめてくれ。ええと、スキル欄には……よし、増えてる!」

「本当ですか、おめでとうございます!それで、効果はどのような?」

「今確認する。スキル名は……”シード・マガジン”。まあまあ普通の名前だが、ランクはS。いやあ、多分強スキルだろうな!効果は––––––––」


 


「……は?」


 何かの見間違いだろう。

 せっかく手に入れたSランクスキルの効果が種を飛ばすだけとか、流石に信じられない。

 目を擦り、もう一度スキル説明を見る。

 読み間違いもない様、しっかり声に出して確認するんだ。

 そうすればきっと、最強のスキルが俺の手に––––––––


「”ランダムな植物の種を連射する”……え、これだけ?本当に?弱くは無いだろうが……なんか、思ってたよりパッとしないな」


 悪くはない。

 悪くは無い筈なんだが……どうしても、落胆の方が先に来る。

 俺に必要だった、新しい遠距離攻撃だと言うのに。


「一応、使ってみるか……”シード・マガジン”!」

「……さまざまな種が飛んでますね。……弱くは、無いと思いますよ?種の中には毒を持つ物もあるでしょうし」

「だが、攻撃力は無さそうだぞ?ほら、目の前に立っても怖くもなんとゴファ!?」


 種と呼称するにはあまりにも巨大なものがダンプティ氏を吹き飛ばし、その勢いを保って彼方の空へと消えてゆく。

 恐らく、砲弾如きは優に超える威力と質量。

 生半可なモンスターは、一瞬で消し飛ばせるだろう。


 ……前言撤回、最高のスキルだ!


「あ、MP切れ。……面白いが、実践で使うには少し心許ないな」

「ポーションを買い込むのも、あまり現実的ではありませんね。……スキルオーブから良いパッシブスキルが出る様、祈ってみますか?」

「そっちの方が無茶だろ?まあ、オーブは使うんだが」


 適当にスキルオーブを使用する。

 今の状態なら何が出ても腐ることはないんだ、気楽に行こう。


「手に入ったのは……”ユグドラシル・ガーデナー”?土を耕して植物の成長速度を限界まで上昇させる、と書かれてもな。俺は土を掘るのが好きなだけで、庭いじりに興味はないんだが……名前がかっこいいからいいか、うん」


 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 


 








 



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