屋上にいた。

 片脚がないので、そこそこ上がってくるのに苦労した。


 最後、彼女を抱き寄せるために脚を犠牲にしたのが、かえって良かったらしい。失う血の量が少なく、感覚の遮断で余計な意識も割かなかった。死んだと思ったけど。生きていた。まだ、生きている。


 警察は、そんなに燃え上がらなかった。義賊組織の人間が警察と入れ替わる形で、刷新されたらしい。詳しいことは、分からなかった。やることはやったが、後のごたごたまで若者ガキの領分で首を突っ込む気はない。もうどうでもいい。


 屋上。

 彼女はいない。

 どうなったかは、知らなかった。見つけられたときは自分ひとりで。彼女は消えてしまった。この、左脚と共に。

 期待は持たなかった。腿を押さえて固くなってたんだから、さすがに生きているということはないだろう。死んで、それを誰かが回収した。そんなところか。回収するとき、なぜ俺を殺して行かなかったのか。なぜ俺の脚を持ち去ったのか。疑問しか生まれない。


「脚無しで登るの、大変だったでしょ」


 彼女の声。夢か。寝そべってるうちに、眠ってしまったか。


「今つけてあげるね。ちょっと待って」


 彼女が近付いてきて。脚に違和感。

 違和感があるということは。

 起きている。

 これは夢ではない。

 現実。

 彼女がここにいて。脚に何か違和感が。


「すぐにくっつくわけじゃないから。数年かけてじわじわ」


「いや、そうじゃなくて」


「あ。わたしか」


「生きてんのか」


「生きてるよ。右肩もなんとかなったから、ほら。動かせる」


 なぜ。


「腿が終わってたから、助けるために切り落とそうと思って。その途中で血がなくなっちゃって」


「生きてた、のか?」


「うん。階段上るたびに、いたかったんですが」


「それはごめんなさい」


 生きてた。あの硬直さ加減で。信じがたいけど、いま自分が生きていることと照らし合わせると、まぁ、無いわけでもないらしい。


「あんなに硬くひんやりしてたのに」


「それは、まぁ、血がないので」


「まぁいいや。いい。いいよ。とりあえず」


「あっ脚は動かさないで。くっつくまでしばらくかかるから」


「なにこれ」


「これ探しにいってたから遅れたんだよね。身体をくっつけるやつ。組織が昔盗んだやつだよ」


「くっつくのか?」


「くっつくよ。数年かかるけど」


「そっか」


 どうしたものか。


「もう、互いに。よりかかるものがないね」


「そうだな」


 オーソドックスな二択。

 自分から言うか。

 彼女から言うか。その違い程度。答えは変わらない。


 一緒に。ふたりで。

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屋上、オーソドックスな2択 (Hi sensibility) 春嵐 @aiot3110

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