第3話 SIMPLE LIFE MAN

数日後、周辺の食料をほぼ探し尽くした頃、遠くに工場の煙突から白煙が上がるのが見えた。生き残りがいる証か、と思い立ち確かめることにした。


工場に着くと、数人の人間が働いていた。設備を使って自家発電し、簡易な食料加工を行っている様子だ。彼らは警戒心を示しつつも、力を合わせて助け合おうと言ってくれた。


工場には医薬品も多く残っており、自らの診療所をこの場所に移すことにした。尽力してくれたメンバーと共に、負傷者の治療に努める日々が始まった。


ある日、遠方から低空飛行のヘリコプターが飛来するのが聞こえた。誰かが生き残っている証拠だ。しかし、ヘリから降下してきたのは武装した兵士の集団だった。


「ここは要塞区画に指定された。即刻退去せよ」


配備された兵士に工場を明け渡すよう迫られた。「国家と秩序を取り戻す」という大義名分で武力占拠されてしまったのだ。


追い出されて野営生活を送るうち、工場は軍の統治拠点となり、周辺住民を徴用し始めた。虐待も横行し、不満が高まっていく。


ある日、徴用された住民の一人が重傷を負って逃げ帰ってきた。我慢の限界だ。翌朝、診療所のメンバーで工場を襲撃することを決意した。


深夜、蒸気機関を破壊し、警備の兵士を装備の無い内に捕捉。劣悪な環境下に置かれていた工場労働者を解放した。


新秩序を名目に、弱者を蹂躙することを決して許さない。そう決意を新たにしたのだ。自由と尊厳、それが大切なことなのだと痛感した出来事だった。


工場は労働者自身の手に委ねられ、灯りが消えることなく運営されることになった。粗末ながらも自活できるSIMPLE LIFEを取り戻したのだ。


しかし、この出来事が軍の逆鱗に触れ、過酷な報復が始まった。周辺の集落を襲撃し、以後の服従を強要して回るのだ。


目の当たりにした虐殺の惨状に、診療所のメンバーは戦う覚悟を決める。力で抗うことが、唯一の道なのかもしれないと思えたのだ。


連日続く戦いで多くの犠牲者が出たが、ついに軍は退却した。然しながら、この先も平和な日々が訪れる保証はない。


新世界を創るためには、自分の手で守る力が必要不可欠なのだと悟った。同時に、戦争という蛮行を二度と繰り返してはならないと心に誓ったのだった。

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SUN RISE @twisted12

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