第20話


 〇


「よっしゃ、戦闘終了」


 ゴブリンを殲滅、ホブゴブリンも危なげなく倒し切り、ドロップアイテムを集めているときだった。

 岩沢から馬鹿にされる俺でも分かるくらいの魔力を感じ取った。

 普通は感じ取れない俺でも分かる魔力。


「おい、お前、仁をどこにやった?」

「並木さん、何ですか?」

「とぼけるなよ、山川」


 並木さんが杖の先を山川先生に向けていた。

 並木さんから感じる魔力がどんどん高まっていく。

 もうすぐ魔法を撃つと言われても、撃たれた魔法の威力が分からないくらい高そうだ。

 俺も巻き込まれるかもしれない。


「どうしたんですか? 並木さん」

「木口、山川が仁を罠にかけた」

「確かに、岩沢さんいませんね」

「配信見ましょう」


 角川さんの提案でスマホから配信サイトを開くと、異常な同接を記録している配信部のチャンネルが見えた。

 現時点で15万人。

 配信を開くと、赤黒い魔法陣から赤い体を持つ悪魔が出てきているところだった。


「これは?」

「レッサーデーモンだな。まあ、仁は大丈夫だろう」

「そうですか。そもそもどうして山川先生が岩沢さんを罠にかけたと疑うんですか?」

「私が『魔女』だからだ」

「どういうことですか?」

「私はな、人を見透かす魔法が使える。心を見透かし、スキルを魔法を見透かす」

「詠唱は聞こえませんでしたけど?」

「長い詠唱が必要になるから、後ろでずっと唱えていた」

「何が分かって、山川先生になったんですか?」

「岩沢が消えてホッとしていた、北森だけ戦闘に慣れていた、北森のスキルが罠を知るようなものだった、そして充足感を得ていた」

「つまり?」

「恐らくは依頼でもされていたんだろう。権藤のように、金を得られる充足感か、依頼達成の充足感か、そんな感じだろう」


 『魔女』は全属性魔法が使えると聞いていたが、それ以外の魔法も使えるのか。

 それにしても山川先生がそんなことをしていたなんて。

 権藤さんもしたと聞いたが、ここまで問題になることではなかったのだろう。

 岩沢が気にしていなかったから、そうだと思う。


 ドロップアイテムを拾い終わり、ダンジョンの4層にたどり着いた頃、先生が重いメイスを置いた。

 俺も1度は試して抱えて持つことしかできなかった武器を軽々と扱う先生が、山川先生に近づいていく。


「同級生だから、選んだの。何してくれてんの?」

「おい、木口」


 それ以降、山川先生は話すことができなかった。

 重いメイスを軽々と持つその腕が、腹に叩き込まれたからだ。

 4層の壁まで飛び叩きつけられた山川先生は、うずくまって動くことが出来ない。


「木口さん、強さだけならC級ありますよ」

「そうだな、木口。後は魔力を感じ取ることだけだ」


 上級探索者は嬉しそうに話しているが、木口さんは腕を振り切った状態で動かない。

 手をグーパーして何かを確かめている。


「あの、思っていた以上に力が出たんですけど……」

「仁が帰って来たら、教えてもらえ」

「そうですね。早く帰って配信見ましょう」


 上級探索者たちが心配していないから、安心して岩沢を待つことができる。

 あれでも一応、顧問だからな。


 〇


 首都直下A級ダンジョン『悪魔の城』の49層。

 その休憩層に4人の探索者チーム『ドラゴンスレイヤー』がいた。

 メンバー全員がB級探索者で最下層の魔物を倒し、A級になることが目的だ。

 しかし、48層でポーションを使い切り、ボスには挑戦しないことにしていた。

 49層には転移陣があり、そこから1層の入り口前に戻ることができる。


「俺たち、まだまだってことだよな」

「そうだな、そろそろ帰るか」

 

 彼らが立ち上がった時、下から何度も何度も大きな音が聞こえてきた。

 1つ上の49層まで聞こえてくる音に、4人は顔を見合わせる。

 そして全員が武器を取り、50層への階段を下りた。


 ダンジョンで異常が起こっているのならば、他の探索者のためにも確認しておきたいのだろう。

 この行動がA級昇格の後押しをすることも理解している。


「扉、開けるぞ」


 50層の大きな扉まで来て、全身鎧の男が扉を押し始めた。

 しかし扉に触れた時、ボス部屋から扉が開かれる。

 何かが扉を開き、地面から立ち上がろうとしていた。


「レッサーデーモンだ!」


 赤い体に歪な羽、とがった耳に紫色の瞳。

 そのレッサーデーモンの姿に武器を構えた4人だったが、扉の奥から飛んできた魔力にレッサーデーモンが切られて、そちらに視線を向ける。


「お、ゴメン。倒し損ねてた」


 その男は防具を着ていなかった。

 革のジャケット、膝に膨らみのあるジーパン、手にはカメラと刀があった。

 空気に溶けていった魔物のドロップアイテムを拾って、4人を見る。


「探索者がいたぞ。すみません、ここはどこですか?」

「首都直下ダンジョン最下層の50層です」

「首都?」

「はい」

「地上まで時間かかります?」

「1層の転移陣に触れてれば、すぐだけど」

「無理だ。他所のダンジョンからここに来たんですよ」

「他から?」

「はい、自己紹介してなかったですね。岩沢仁です。今、ダンジョン配信やってます」


 〇


191:名無しの探索者

おい、レッサーデーモン倒したぞ


192:名無しの探索者

それより、首都に移動したらしいけど


193:名無しの探索者

転移罠なんて報告あったか?


194:名無しの探索者

岩沢、変な事に巻き込まれすぎだろ


195:名無しの探索者

回復の泉絡みじゃないか


196:名無しの探索者

あれな


197:名無しの探索者

向こうの配信部じゃ、先生が罠に嵌めたことになってたけど


198:名無しの探索者

木口先生?


199:名無しの探索者

違う、山川


200:名無しの探索者

ありそう


201:名無しの探索者

そもそもコラボ相手の選んだダンジョンに偶然転移罠あるなんて


202:名無しの探索者

カメラ回してるの山川じゃない、何でとめない


203:名無しの探索者

さあ。山川の後ろからカメラ回ってる


204:名無しの探索者

魔女か


205:名無しの探索者

だろうな、怒ってたから

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ダンジョン配信部顧問の岩沢です。 アキ AYAKA @kongetu-choushiwarui

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