お出かけしましょう

「まあ、一旦家に帰りなよ」

「うう、わかりました……」

「朝ごはん作っておくからさ」

「え?」

「あ、もう昼ごはんか。しかもちょっと遅めの」


「何ぼーっと立ってんの。早く着替えてきなよ。俺も身支度するから」

「いいんですか?」

「何が?」

「お世話になっても」

「……何言ってんだよ。いいに決まってるだろ。ほら、早く顔洗うなり着替えるなりして!」

「は、はい!」

ぱたぱたとせわしない足音が遠ざかっていく。ぐっと伸びをして目を覚まし、何があったかとキッチンを思い浮かべる。……爆発してないよな?


***


がちゃりと鍵を開ける音がした。

「ええと……お邪魔しまーす……」

「なんでそんな緊張してんの」

「いや、いざ招かれると緊張します」

「普段招かれてない自覚はあったんだな」


昼飯はありあわせのもので適当に作った。大したものではないが、まあ何にしたってポテチよりマシだ。口には出さないが俺は結構根に持つぞ。


「「いただきます」」


「今日、どこか行きたいとこある?って言ってももう大分遅いけど」

「え、一緒に出掛けてくれるんですか?」

「ん、まあね」

だってそうしないとまた部屋でゲームしまくりに決まってる。俺が外に連れ出してやらなきゃ。

「そうですね。じゃあ、今日は近所をお散歩でもしましょうか」

「散歩?それでいいの?俺はいいけど」

「いいんです。だってさっき外出たらすごくいいお天気でしたから」


そのあとはだらだらと他愛もない話をし、食べ終えると彼女が口を開く。


「美味しかったです。ありがとうございました」

「どういたしまして。ねぇ、このまま出かけちゃおうか」

「でも洗い物が残ってますよ?」

「そんなの浸けておけばいいよ、あとで俺が洗うから」


まだ迷っている様子の彼女の手を取り、外へ行こうとする。が、あることを思い出し行先は洗面所に変わった。


「歯磨きはしていこう」

「ええ……」

ひと悶着あったが、なんとか全て終え再び手を取り外へ出た。少し恰好がつかない気もするし、二回目だが俺は少しドキドキしていた。動揺がバレていませんようにと思いつつ、あてもなく歩き始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「何?」

「『何?』じゃありません!まさか、このまま行くんですか⁈」

「ダメなの?」

「だ、だって、今まで手をつないで外を歩いたことなんて……!」


確かに俺の手はがっちり彼女の手を捕まえている。この程度で動揺するとは……。


「今までやらなかったからこそだよ」

「ど、どういう意味ですか……」

もう混乱してるな、これは。

「あんまりこういう感じの愛情表現はしてこなかったかなって。別に近所歩くだけだし、たまにはいいだろ?」

「判断しかねます……」

いくらなんでも他人行儀すぎないか?と思いつつ、わかりやすく訊いてみる。


「嫌?」

普段の彼女を思い出し、少し上目遣いで小首をかしげ、ややかわい子ぶってはみたが……これ俺がやるには結構キツイな。


「嫌じゃないです!」

「ふ、即答。そのくらい元気な方がいいよ。色々安心するし」

引かれたかと思ったから。


「そうですか……?えと、嫌じゃないですよ、私。行きましょうか」

彼女がそっと俺の手を引く。俺は表情筋を緩め、彼女の行きたいままに歩き出した。

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あなたと私の、就寝準備~わがままな彼女は寝る前でも平気で部屋に押しかけてくる~ 藤間伊織 @idks

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