第3話

 私と京子の最後の日。

 京子とは違うクラス。

 優里とも違うクラス。


 いつもは朝学校に到着した時とか、授業の合間に京子に会いに行ったりするけど、今日は行かなかった。

 京子もこちらには来なかった。

 代わりに優里が来た。


「おっすー! 昨日の夜は泣いて寝てるかと思ったけど、目は腫れたないみたいだね!」


 元気な言葉を送ってくれる。

 少しヤンチャな風貌で。

 サラサラな金髪ヘアを揺らして。

 化粧も少し濃い目で。


 こういう子が、『女の子好き』だって。

 直接本人から言われないとわからないよね。

 どうしても男の子と遊んでいる風に見える。


「別に泣いてないよ」

「私と付き合えたのが嬉しくて、悲しさも和らいだのかな?」


 誰も振り向いてこなかったけど、そういうことをずけずけ言ったりするんだ。

 優里に、もう少し近づくように手招きするジェスチャーで呼んで耳打ちして話す。


「優里、そういうことは、あまり大声で言わないで。女の子同士ってそういうものだよ」


 優里は、ごめんごめんって顔の前で手を合わせて謝っていた。

 大人っぽくてサバサバしているのか、子供っぽくて人懐っこいのか。

 どちらの面も持つような人なんだろうな、優里って。

 なんだか楽しい気分になった。


「授業始まるから、じゃあね! 次は昼休みだね!」


 ◇


 昼休みになると、みんな一斉にお弁当を食べだす。

 違うクラスに仲がいい子がいると、そっちのクラスに移動したりもして。

 私も毎回京子のところでお弁当を食べていた。


 今日は、体育館裏。

 お弁当も持っていけば良いのかな。

 体育館へと向かった。



 体育館裏に着くと、先に京子はいた。

 優里はまだいなかった。

 京子もお弁当を持っているようだったが、他にも荷物を持ってるようであった。


「紗季、来てくれたね。私大事な話があるんだ」


 真剣な表情で、私に真っすぐ向かってしゃべる京子。

 京子と話すのは今日で最後かもしれないと思うと、少し涙が出そうになる。


「紗季はさ、もしかしたらもう分かってるかもだけど……」


 そう言う京子。

 分かっているって言ってしまおうと思ったけど、京子の口からちゃんと聞きたかった。

 真剣な表情で京子に向き合った。


「私達、付き合って一年経ったんだよね」


 もう一年たったのかって思うと、なんだか切ない。

 もう京子と一緒に楽しいお話をしたり、一緒に帰ったり、夜メールしたりっていうのが無くなっちゃうのか……。



「はい。これ」


 京子は手に持っていた袋から小箱を取り出すと、私に渡してきた。


「お揃いの指輪だよ」


 ……ん? 指輪?


「私達が付き合って一周年記念品が欲しいかなって思って。これならあまり目立たないし、学校でつけてても大丈夫だって思うんだよね」

「……え、お揃いの? 私と京子の?」


「これね、見つけた時にすごく欲しいーって思ってね」

「なになに。えーっと。あれ、岡田君は……」


「岡田君がどうしたの? あ、もしかして、昨日私をつけてたりしたの?」

 私は何も言い返せなかった。


「男の子と歩くなんてしたくなかったんだけどさ、一人で指輪店入れないじゃない?女の子と歩いても浮気を疑われてもなって思って。一番無害そうな岡田君に頼んでみたら快くオッケ一してくれて」

「私、京子が岡田君と付き合ってるとばかり思って」


「そんなわけないじゃん、私は紗季ー筋だよ!」


 ……やばい。

 ……なんで私。

 ……そんな。


 体育館の裏に近づく足音が聞こえてきた。


 まずい!

 早くしないと!


「隠れて隠れて。優里が来ちゃうから」


 不思議がる京子を無理矢理草むらへと連れて入った。


「あれー? 体育館裏ってここじゃないのかな? おかしいなー?」


 草陰から優里のことを確認する

 私達には気づいていないようだった。


 今のうちに、ちゃんと京子に言わないと!


「京子、私も言わなきゃいけないことがあるの! 京子ごめん! 私浮気しちやった」


 京子は黙って聞いててくれた。


「優里とキスしちゃって……」


 私だけ隠し事をしていたら、ダメだと思った。

 全部を包み隠さず言う。

 それで嫌われてしまっても、しょうがない。

 京子が裏切っていないって分かった今、私は罪悪感で押しつぶされそうだった。


 京子は、そんなに嫌そうな顔を見せなかった。

 真っすぐに見つめ返してきて、私に言った。


「じゃあ、私にもキスして」


 そう言いながら、キスを待つわけでもなく、京子の方から迫ってきた。

 草陰で、地面に押し倒されて。

 そのまま馬乗りの姿勢からキスをしてきた。


 柔らかい唇で。

 優里の時とはまた違う。

 濃厚なんだけど、安心するようなキス。


 キスをしながら、私は笑ってしまった。

 京子の肩を押して、唇を離す。


「キスしてっていうのに、自分から来るなんてずるいよ」


 今度は私の方から京子を抱きよせると、そのまま転がって。

 今度は京子が下になった。

 私の方から、京子にキスをする。


 自分からするのと、されるのではドキドキがまた違って。

 転がった時に草音がしてしまったのか、優里がこちらに気づいた。


「あ、いた! ……って、二人キスして……る?」


 私は、ニコッと笑って答えてた。


「ゴメン、私はやっぱり京子が好き!」


 京子もまた、優里に答えた。


「私も、紗季が好き!」



 優里は、やりきれない表情になったけど、すぐに元のサバサバしたような顔に戻った。


「まぁ、二人の間には入り込めないってやつか。しょうがない」


 なんだか可哀そうに感じて。

 一度キスを交わしたくらいの仲だけど。


 元恋人だからだろうか、京子もなんだか切ない顔をしていた。

 いろんなことに混乱していたのか、口走ってしまった。


「……良ければさ。今度から三人で一緒に帰ったりしない?」


 振り返った優里は、嬉しそうな顔をしていた。

 横にいる京子も、嫌そうな顔はせず、むしろ嬉しそうであった。


「二人とも、隠さなくなっていいじゃん」


 京子からは、浮気ってとられられるかもしれない。

 けど、自分の気持ちには嘘はつけなくって。

 私は優里の事も好き。

 三人で一緒。

 ここにいる三人共に、そう思っているはずで。

 みんな、嬉しそうな顔になっていた。


「じゃあ、抜け駆けは禁止ね! 平等に愛して下さい!」


 優里は、よくわからないルールを作り出した。

 そういって振り回されるのも嫌いじゃない。

 私も京子も。


「じゃあ、私からも一つ。みんな隠し事は無しね! 全部言うこと!」

 私がそう言うと、みんなも頷いてくれる。

 半分は京子へ、半分は私への戒めのため。



 京子からも、何か一言ルールをもらおう。

 私と優里は、京子のことを期待の目で見る。


「誤解とかってよくあるからね。お互いに悲しませるようなことは絶対にしない!」


 京子から、優里への言葉なのかもしれない。

 昔何があったかは分からないけど。

 優里は、ちょっと俯いて、うんと頷いていた。


「お互いのことを思いあって、三人で幸せになりましょう!」


 京子がそうやって締めくくってくれた。

 私と京子が付き合って一周年の記念日。


 そして、優里と付き合い始めた記念日。


 私が言うのも変な話と思ったけど。

 言わずにはいられなかった。


「二人とも、大好き!」

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彼女の彼女と彼女が彼女! 米太郎 @tahoshi

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